第14話 

 かったるい授業をこなした後の昼休み。


 俺と初凪は屋上で昼食をとっていた。流石に、ひと騒動あった後で教室の中でご飯を食べるのは、嫌だったからだ。明日にでもなれば落ち着くだろうし、普通に教室でご飯を食うことになるだろう。


 これから、初凪にはたくさんの友達ができるだろうし、友人が俺だけというのはなんだか悲しい。逆に俺は、初凪が傍にさえいてくれれば、他には何もいらない。

 ぶっちゃけ、友達だっていらない。それに、ちょっと怖いしな。


「ねぇ、蒼ちゃん」

「ん?」


 おいしそうに弁当を食べる初凪が話しかけて来る。


「明日からのご飯、どうしよっか?」


 ご飯を一緒に食べることを言ってるんだと思う。多分だけど。

 実際、佐藤君達とひと悶着あった後、初凪はクラスの数人の女子に話しかけられていたし、昼食の誘いとかだってされていた。


「別に俺に気を遣うことはないぞ。今までだってずっと、一人で飯を食ってきたし。仲良くなりたい奴と一緒に食えばいいじゃないか」

「そうだけど! それだと、蒼ちゃんが一人になっちゃうじゃん……それはヤなの……」

「お、おう……」


 シュンとした表情をされると、こちらとしても悪い気持ちがむくむく起き上がってくる。

 そうだなぁ……。


「じゃあ、俺がどっか別の場所でボッチ飯をするって言うのは?」


 うむ、我ながらいい提案だ。初凪は教室で友人と飯を食うことができるし、俺も俺で一人で飯を食うことができる。完璧な作戦だ。


「却下」


 あれぇ……おかしいぞ。


「???」

「なんで蒼ちゃんはそんなに不思議そうな顔ができるのよ……」


 あきれた様子でため息をつく初凪。

 あれ、俺の考え方ってそんなにおかしかった? けどなぁ……うーむ。俺が原因で初凪の交友関係を狭めるって言うのもなぁ……。


「まぁ、その辺は私に良い考えがあるわ。任せときなさい!」


 ニカッと太陽のように笑う初凪だけど、俺は頭を抱えたくなかった。小学校の頃から、初凪がこう言うときは決まって、厄介事を持ってくるからだ。


 俺は忘れもしない……例えば、プリン事件だ。


 あの時、初凪は巨大なバケツプリンを作ると言って、材料とかいろいろ持ってきた。そして完成したまでは良かったのだ。問題はそこからだった。俺と初凪の二人で食べ進めていたのだが、途中で飽きたとか言って残りを全部、俺によこしたのだ。


 勿論、小学校の頃の俺が食べきれるわけもなく、結局残すことになってしまった。それを俺と初凪の両親が許すわけもなかった。あろうことか、初凪は説教の途中に逃走して、なぜか俺だけ怒られることになるというなんとも理不尽な展開だった。


 そんな具合に、似たようなことが何回もあった。


 だからこそ、俺の幼なじみレーダ───迷惑モードがビンビンに反応しているのだ。


「ちょっと、なんでそんな嫌そうな顔をしてるのよ!」

「いや、だってなぁ……」

「何よ、何か文句あるわけ! せっかく、この私が蒼ちゃんのために動いているっていうのに、蒼ちゃんのくせに生意気よ!」

「……………」


 だから貴様は暴君か! いや、覇王の道を進む何かだな。

 俺の幼なじみって何者?


「なーんか、失礼こと考えてるでしょ」

「ゼンゼンソンナコトナイヨー」

「前も言ったけど、失礼なこと考えてるくらいはわかるんだからね」


 だからなんで分かるんだよ……その恐ろしいエスパー染みた洞察力はやめてくれよ……。


「エスパーって言われてもなぁ……」

「お願いですから、俺の考えてることをもう読まないでもらえます!?」


 一周回ってちょっと怖いんだけど!?


「そうはいっても、蒼ちゃんの顔に書いてあるからなぁ……ニシシ」


 したり顔で笑う初凪を見てると、いらずらっ子のような子供っぽさを感じさせた。

教室で誰かと話している時や、先生と一緒にいる時は、年相応の表情を見せるのに、俺といる時は素の表情を見せてくれる。本人は意識してるわけではないと思うんだけど、そのことに少しばかりの優越感があった。


 ──好きだ


 そんな気持ちが素直に浮かび上がってくると、愛おしさがこみあげてきた。自然と凪を見つめる視線が柔らかいものになった。


「ん? どうしたの蒼ちゃん?」


 キョトンと不思議そうに顔をかしげる初凪は、もぐもぐとリスのようにご飯をほおばっていた。


「問題。俺が今、何を考えていたか分かるか?」

「んふふ~、任せなさいよ! 今日のお弁当は特に上手くいったとかでしょ!」

「ぶぶー、はずれ」

「あれ? 本当に? じゃあ、何を考えていたの」

「内緒だよ!」


 そのまま、初凪にでこぴんをする。


「イデッ! もーう、何するの!」


 恨めしそうに俺を睨む内を見ていると、好きで好きで仕方なくて、笑みがこぼれてしまう。ったく、どうでもいいことは何でも分かるクセして、何で肝心なことは分からないんだよ……けど、そんな部分が可愛くて仕方ないのだ。


「ほら、さっさと飯を食おうぜ。時間も無くなるし」

「えー、気になるじゃん! 教えてってばー!」


 春風が吹いていくたびに、心が洗われて澄んでいくような気分だった。

 いつまで、このまま心地よい時間でいられるのだろうか。


 それとも、俺が一歩踏み出してしまえば、変わってしまうのだろうか?


 未来の事なんて分からない。それでもだ。きっといつかは、この関係に俺は満足できなくなってしまう。その時が、俺から初凪に告白するタイミングなのかもしれない。


 そしたら、初凪はなんて言ってくれるんだろうな?


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読んでくださっていつもありがとうございます!

感謝感激あめあられです(笑)

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