第13話 幼なじみの信頼する男の子
「こんにちは、瀬戸口さん。俺は佐藤って言うんだ、よろしくね」
声の方向に振り返ると、佐藤君達めんめんが立っていた。
佐藤君に、短髪の男子君、それと髪がフワフワの女子によーとカットの女子。男女混合グループって、どこのリア充ですのん?
佐藤君の視線から、初凪に用があったとのだと分かる。
なんだあの野郎。せっかく初凪と会話しているのに割り込みやがって、こちとら初凪以外に友達がいないんだから割り込んでくんなよ、ああん? 消しカスまるめてぶつけてやろうか? お?
「ど、どうもよろしく……」
「二人は幼馴染なんだっけてね? 随分、仲がいいんだね?」
「ま、まぁそうだね…って、蒼ちゃん」
いや、消しカスじゃダメージが弱いか。いっそのこと、脛を削るか。そしたらあいつのイケメンフェイスもさぞ歪むに……
「もーう、蒼ちゃんってば!」
「えっ? ああ、悪い……どうした?」
いかん、いかん、空想の世界に夢中になっていたようで何も話を聞いてなかった。よくよく見れば、西島君グループのみんなが何か変な目で俺の事を見ているな。
「あ、あーそれでどうしたんだ?」
「西田──西島ってさ、瀬戸口さんと本当にただの幼なじみ? 何か、その割にはえらく仲が良いような気がしてさ」
「…………」
佐藤君の目をまっすぐに見る。その瞳からは、かすかに揺れているというか、少しだけ頬が赤くなっていた。当然、俺と話していることで赤くなっているんじゃないと分かる。
あの野郎……女子二人を侍らせて? いるんだから、もう十分だろう。何、初凪まで狙っているんだよ。ああん?
「そうだな……俺と初凪がどんな関係なのかは、お前に任せるよ?」
まぁ、どんな関係性でもないんだけどな。嘘は言ってない、だからセーフだろう。
そして、その瞬間、西島君達の顔が少しだけ歪んだ。まるでごみを見るような目つきで俺の事を見ている。そして、初凪もそんな雰囲気を感じ取ったんだろう。
「ちょっと、そうちゃんっ! そんな態度とったらメッ!」
……え、何その可愛らしいリアクションは? いや、そんな反応をしては駄目だ。初凪はきっと真剣に怒っているんだ。
よくよく見れば、佐藤君達もときめいた表情をしていた。
あーん? なんでお前がそんなリアクションしてるんだよ。いいか、初凪が怒ったのは俺だけなんだからな! 決して、お前じゃないんだからな!
「分かったよ……別にただの幼なじみだよ。これでいいか?」
ただの幼なじみって言葉に何も思わなかったわけじゃないが、別にいいか。実際、ただの幼なじみだしな。そして、そんな俺の言葉に露骨に佐藤君は喜んでいた。
「じゃあさ、瀬戸口さん。今から学校を案内させてもらえないかな? それに今度、瀬戸口さんの歓迎会をしたいしね」
「本当に! えー、楽しそう」
嬉しそうに笑う初凪を見ていると、なにとも言えない気持ちが胸に広がる。こーう、痛いというよりも胸の中の穴が広がっていくような感覚だ。
「じゃあさ、さっそく今からどうかな? それに、西島なんかおいてさ」
「え、なんで……それになんか、ってなに?」
佐藤君の声に初凪の声に少しの棘が含まれる。付き合いの長い俺だから分かるが、少しだけイラついているはずだ。
「ああ、瀬戸口さんは転校生だから知らないもんね」
その瞬間、佐藤君達の間で笑みが伝染する。嫌な笑い方だ。それに比例して、初凪の眉間にしわも寄っていた。
まぁ、どっかのタイミングでバレるというか話そうと思っていたけど、このタイミングで来るのか。一体、初凪はどう思うんだろうな……大丈夫だと頭では分かっていても、少しだけ不安だ。
「西島って、こんな顔と態度してるけどね、実は一年の頃から色々とやばかったんだって。同じクラスの東雲さんをストーキングしてたんだもん」
ニタニタしたいやらしい笑みだ。見るだけで吐き気を覚えるような、胸糞悪い感覚だ。
「え……蒼ちゃんが……」
ポカンとした表情の初凪が口を開けて、こちらを見ていた。
「信じられないんだけど、本当なんだって。それでね、一年の頃に注意しに来た先輩たちと喧嘩になってね」
「喧嘩……え、うそ……?」
思い出したくもない過去だ。当たり前だが、俺はそんなことはしていない。東雲さんと言えば、読者モデルも務めている学校一の美少女だ。当時の俺は、妹も父さんもどっかにいってしまったせいで、かなりふさぎ込んでいた。クラスの隅っこで魂の抜かれた人形のような態度をとった奴がいたら、そりゃあ、気持ち悪いだろう。
そして、良くない噂がおひれはひれを付いた結果、俺はいつの間にか、東雲さんのストーカーにジョブチェンジしたというわけだ。そして、謎の正義感にかられたからなのか、東雲さんにいいかっこをしたかったのかは分からないが、俺に絡んでくる奴らがいた。
あの時の俺も俺で、むしゃくしゃしてた結果、殴り合いのけんかになったというわけだ。まぁ、本当はもう少しややこしい状況があったりするのだが、こいつらは知らなくていい話だ。聞かせるようなことでもないしな。
「なぁ、お前さ。今はそんなことやってないんだろうなぁ! 分かってるとは思うけど、そんな調子で瀬戸口さんまで手を掛けたら、分かってんだろ」
佐藤君に胸倉をつかまれる。
「だから、瀬戸口さんも早いうちにこいつとは縁をきって──」
「ふぁけんなぁあああああああ!」
教室中の窓ガラスを割らんばかりに、初凪のかなぎり声にも似た悲鳴が響く。
「蒼ちゃんの良いところを何も知らないで勝手なことばかりいわないでよっ!」
「せ、瀬戸口さん……?」
「蒼ちゃんは、優しくて、かっこよくて、良いところいっぱいあるのに、どうしてそんな嘘だって分かることを信じられるのっ!」
初凪の声が俺の世界に色を付けていく──激しくもどこか温かい赤色を、優しくて穏やかになれる緑色を、時に冷静になって澄んだ気持ちになれる青色を。
「そんなことを蒼ちゃんがするわけないじゃんっ! 第一、蒼ちゃんがストーカーしたって証拠もないんでしょ!」
「そ、それは……けど」
「うるさいっ! アンタの話なにかどうでもいいのよっ!」
「理不尽な……」
口を開こうとする佐藤君の声を無理矢理黙らせる初凪に、つい口が零れてしまった。まぁ、そんだけ余裕が出てきたんだと思う。太陽のように快活なエネルギーが発せられているもんだから、こっちにもそれが伝わってきたからだと思う。
「いいっ! これから蒼ちゃんのことを馬鹿にする人がいたら、アタシが絶対にゆるさないからっ!」
そう力強く言い切る凪の姿は、小学校の頃のようなガキ大将の姿そっくりだった。まぁ。ガキ大将って、理不尽なように見えて、面倒見がいいというか。こう……姉御肌って言葉が一番、しっくりくるのだ。
「そ、そうかよ……けど、西島がしてない証拠だってないんだからな……」
そのまま悔しそうに唇をかみしめた佐藤君達は、教室から出て行ってしまった。
「いい。クラスのみんなも聞いて! アタシの蒼ちゃんは絶対にそんなことしないんだから、アタシの前で蒼ちゃんにひどいことしたら絶対に許さないんだからねっ! ふんっ!」
勝気に鼻を鳴らして、腕組みをする初凪の姿は頼りがあった。まぁ……俺の情けなさが際立つような、悲しいようなって感じなんだが。
そして、そんな俺達の光景をクラスメイト達は目を丸くしながら見ていた。それでも、初凪の方に飛んでくる視線に刺々しいものがないだけ安心だ。
ただ、例の東雲さんがこっちをじっと見つめていた。その表情からは、何も察することはできなかった。ロボットのように無機質というか、大きく動くことはなかった。
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いつもありがとうございます。
本日、二話投稿でございます。
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