第12話 幼なじみと授業の一幕

 それから一時間目の授業は始まった。普段から英語の授業は、先生がスマホで英文を流しながら、文法を読み進めて行く形で進めて行っている。そして、それが俺には子守歌にしか聞こえないわけで……


「おやすみ、初凪」


 今日は朝から早かったし、仕方ないよな? 今日という一日を精一杯頑張るには、体力が何よりも重要だ。その場合、欠かせないのは体力の回復。ひいては、睡眠というわけだ。だからこそ、寝てしまっても仕方ない。


 自分でも完璧すぎる理論武装に思わず、笑みがこぼれてしまいそうになる。ニヤけそうになる表情を抑えながら、俺は心地良い睡眠の世界に没入しようとした時だった。


「……イデッ」


 後頭部に軽く突かれた感触があった。頭を抑えながら、痛みの原因を確かめると、正体は初凪のようだった。というか、普通につつくとかで良くなかったか?

 なんでグーパンなんだよ……。


「なーに、寝ようとしてるのよ」

「いや、だって分からないし……」

「分からなくても、ノートとるくらいはできるでしょ? 次の休憩中に教えてあげるから、しっかりとしなさい」

「はいはい」

「はい、は一回でよろしい……ふふっ」


 一瞬、クスッと笑った初凪は、そのまま真剣な表情で黒板に向き直った。

 めんどくさいけど、授業を受けるか……。


              ※


「じゃあ、蒼ちゃん。さっきの授業でどこが分からなかった?」

「……え?」

「え、じゃないでしょ。さっきも言ったじゃん。分からない所は次の休憩中に教えるって」

「いや、そうだけどさ……」


 せっかくの休憩時間なんだよ? もっと、こーう……色々とあるだろう? スマホで漫画読んだり、友達と会話した……いや、俺に友達は初凪以外にいないな……。


「けど、初凪さんや。初凪さんや。人は休憩しないと死んでしまう生き物だからでして……」

「大丈夫よ、少しくらい。ほら、ちゃちゃっとノートを広げなさい」

「へーい……」


 それから渋々とノートを広げて、わからなかったところなどを解説してもらった。


「だから、ここの前置詞がここにかって、thatが省略されてるってわけ。分かった?」

「……めっちゃ分かった」

「そう、良かった。ちなみに、テストだけなら教科書の英文を全部を暗記するだけで大分、点が取れると思うわ」

「お、おう……」

「ん? どうかした?」


 むしろ、どうかしたことばっかりだ。


 なんでそんなに、初凪は勉強を教えるのが上手いんだ? それに、普段はクソガキな初凪がそこまで勉強できる優等生キャラだと、俺の中でお前のイメージがブレるんだが?


「蒼ちゃん、何か失礼なこと考えてるでしょ?」

「ゼンゼン、ソンナコトナイヨー」

 お前はエスパーかよ。というか、そんなに俺の考えていることって筒抜けなのか?


「はぁ……考えていたんだね、今回は見逃してあげるけど、次、何か失礼なこと考えたらご飯抜きだからね」


「待てこら、普段。ご飯を作っているのは俺なんだが?」


 何か今の文句の言われ方は納得できねーよ。けどまぁ、優等生初凪をみただけに、棒弱無人な初凪を見ると安心するな。まぁ……それで安心するのもどうかと思うがな。


「え、そうだっけ?」

「なんでお前はそんな不思議そうな顔ができるんだよっ!」

「イダダダッ、ギブギブ! あははは」


 なんだか、初凪のリアクションがおかしくてついこちらも吹き出してしまった。そして、そんな俺達をクラスメイトは、それはもう不思議そうな目で見ていた。

 

 まぁ、普通に考えて普段は無愛想陰キャクラスメイトがそんなリアクションとていたら不思議だわな、納得納得……。


「一体、蒼ちゃんってさ。学校ではいつもそんな感じなの?」

「そんな感じとは?」

「クラスメイトに対しては、少し皮肉っぽいというか生意気っていうか……」


 ああ、さっきまでの光景を見てたんですね? まぁ、学校とは違うか……。


「そんなところだな」


 これに関して、俺じゃなくてあいつらが悪い。というか、あいつらがあんな態度で来る限り、俺も改める気はない。それの何が悪いって話だ。


「もーう、ダメだよ蒼ちゃん!」

「な、何がだよ……」


 ビシッと俺を指さす初凪が、不満げに頬を膨らませていた。

 ってか、人を指さすな。


「だって、せっかく蒼ちゃんはすっごくいい奴なのに、誤解されてるじゃん! そんなの見てたら私は悔しんだけど?」

「とは言ってもなぁ……」


 あの件がある限りそれは厳しいんじゃないかっていうのが俺の感想だ。


「というかさぁ、いい加減に教えてくれたらいいじゃん? 何があったのよー」

「イベベベベッ! 頬をつねるな……そうだな──」


 好きな子に知られるのは少々、癪だがまぁ、初凪になら話してもいいか。


「俺が一年の時だけどな──」


 そう俺が口を開いた時だった。


「ねぇ、ちょっといい?」


 声の方向に振り返ると、佐藤君達面々が立っていた。


 佐藤君に、短髪の男子君、それと髪がフワフワの女子にショートカットの女子。男女混合グループって、どこのリア充ですのん? 


 佐藤君の視線から、初凪に用があったとのだと分かる。


「こんにちは、瀬戸口さん。俺は佐藤って言うんだ、よろしくね」


 ……イケメンは手が早くて怖い

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