第11話 幼なじみはやっぱり人気者らしい

「朝……おさげの子と登校してきただろ……紹介してくれよ……」

「…………え?」


 初凪を紹介してくれって? 絶対に嫌なんだけど……。


 顔を真っ赤にした通称大樹君(本名不明)が、頬を掻きながらチラチラと俺の事を見てくる。なんだそのリアクション……初凪ならまだしも、男がやってもきもいだけだよ……。


 それでもだ。


 大貴君とやらは、クラスでもかなりモテるイケメンの部類だ。一応は様になっているようで、うっとりした表情で女子たちは見ていた。


「おさげの子ねぇ……」


 初凪のことを言ってるんだろう。いや、マジでか。というか、紹介なんて絶対に嫌だ……俺みたいな根暗な陰キャが、必死に外堀を埋めて、胃袋を懐柔して頑張ってることをスーパー陽キャマンに紹介すると、一瞬で持ってかれると分かるからだ。


「あー……その子なら、多分このクラスに来る転校生だから紹介しなくても大丈夫だと思う」


 というか、紹介なんてするわけないだろ……。あいつは渡したくない……。


「なんでお前がそれを知って──」


 その瞬間、チャイムが鳴ってクラスメイト達は席に突き出す。


 その流れで、大貴君とやらも帰って行った。ひとまずは、チャイムのおかげで助かったけど、あいつってモテるんだなぁ……、まぁ、可愛いし納得だな。


 というか、さっそく初凪がこれからモテていきそうな雰囲気がプンプンしてんな……嬉しいやら、胃が痛いやら不思議な気持ちだ。


 それから担任の先生が入ってきてくる。初凪の姿はない。ということは、廊下で待っているのだろうか? 


そんなことを頭の隅で考えていると、日高先生が俺の方をチラッと見て、一瞬だが笑っていたような気がする、いや、気のせいかもしれんけど。けど、何か嫌な予感がするなー。


「さて、みんなも知っての通り今日は転校生がくる。瀬戸口さん、入っておいで―」


 先生が声をかけると同時に、教室のドアがガラガラと開かれる。その瞬間、クラスメイト達から、息を呑むような声だったり、ガッツポーズをする者、目を輝かせる者とたくさんだった。


 それでも共通しているのは、みんながみんな、初凪に対して好意的な感想を持ってくれているという事だろうか。チラッとのぞき見ると、大貴君も嬉しそうに顔をほころばせていた。


 あの野郎……俺の初凪に対して、そんな目で見やがって! いや、俺のじゃないんだけどね? それでも、自分の好きな子が他の男子に良い目で見られているのは、面白くなかった。さて、どうやって大貴君に百裂拳を叩きこむか……


「おーい、西島―! 聞こえているか?」

「? はい?」


 いかん、どうやら、脳内大貴君を倒すことに集中していたら先生の話を聞き逃していたようだ。


「ったく、いいか、もう一回いうからしっかりと聞いとけよ?」


 はーい、と先生に返事するが周囲からの視線がヤケに刺々しかった……おん?


 特に大貴君からの視線は露骨なほどだった。まぁ、悪い気はせんがな、がはは。そして、初凪からの視線は心配が半分、いたずらっ子のような表情が隠れていた。一体、何をする気だ初凪の奴。


「瀬戸口さんと西島は幼なじみらしくてな。瀬戸口さんも学校に来てからそんなに日が経ってないせいで教科書の用意できていない見たなんだ。だから、西島。隣の席でいろいろと面倒を見てやってくれな? 席もくっつけていいし」

「……ほえ?」


 思わず目が点になってしまった。


 そして、それは俺だけでなくクラスメイトも同様だった。大貴君を除いて。大貴君の方向を向かないでも分かる。というか、怖くて向けない。というか、あの野郎……わざと、先生にあんなこと言ったな? 普通に考えて、昨日にでも教科書を用意すればよかったんだ。


 そんな意味を込めて初凪を見ると、一瞬だが、いたずらっ子のように舌をチラッと出して笑っていた。


 あーもう、可愛いな……怒れるに怒れないじゃないか……これが惚れた弱みってやつか……クソゥ。


 それから、初凪はニマニマとやたら嬉しそうな笑みで俺の隣の席に座って、机ごとくっつけてきた。


「えへへ……蒼ちゃんと机をつなげて、教科書を見せ合いっこしてると小学校の頃に戻ったみたいで嬉しい」


 ニコニコとそれはもう幸せそうに微笑む初凪を見ていると、こっちまでドキドキしてくる。それに、初凪との距離が近くなったせいで、日向夏のような甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐって来て妙に落ち着かない。それどころか授業に集中できないような気さえしてくる。


 それにだ。


 周囲からの視線が刺々しいことこの上ない。そりゃあ、急に可愛い女子が転校してきたら気になるはずなのに、その子がクラスの陰キャと幼馴染で、あまつさえ席までとなりな上に親密だったらそりゃあ面白くないだろう。


 だけど、それは俺のせいじゃなくて、初凪のせいじゃないからな? まぁ、そんな言い訳を誰も聞いてくれるとも思わないが。こういう時って、美少女って特だよなぁ……何か無限に許せるような気がするもん。


「一時間目は何?」

「ああ、一時間目は英語だよ」


 別名、俺の睡眠時間だ。


 だって、授業中、何を話してるのかさっぱりわからなくて、気が付いたら瞼と瞼がこっつんこしてるからな。そんなことを頭の片隅に置いていると、初凪がジト目で俺を見ていた。


「な、なんだよ……」

「それはこっちのセリフ。まさか授業中、寝てないでしょうね?」

「…………」


 初凪から視線を逸らした。そして、初凪の方に向き直って、ニコッと微笑んだ。


「ごめん、蒼ちゃん。液漏れしない袋持ってない?」

「おいこら、どういうことだアーん?」


 なんで俺は喧嘩を売られているんだよ。

 そんな具合に、初凪とコソコソ喋っている時だった。


「おーい、西島と瀬戸口。仲が良いのは良い事だけど、先生の話も聞こうな」


 呆れたような、少し嬉しそうな日高先生が俺達のことを注意する。


「はーい、すいません。蒼ちゃんったら、私と隣になれたのが嬉しかったようで、構ってほしくて話しかけてきたんですよー」

「そうか、西島。お前もいっぱしに女の子に興味があるようで俺は安心したぞ」


 初凪のおどけた態度に、日高先生のツッコミも入って、ドッと笑いが巻き起こる。


 色々とツッコミどころはあるが、何だか悪くない気持ちだった。なんて言うか、温かい空気があるというか、今までになかった経験だったからかもしれないが。


「怒られちゃったね……」


 チロッと舌を出した初凪が、照れくさそうに笑っていた。それでも、初凪があんなおどけた態度はワザとのような気がする。なんとなくだけど、俺達に気を遣ったというか、わざとあんな態度をとることで俺が孤立しないように気を遣ったような……いや、気のせいか。


「そうだな。でもありがとうな」


 何かが解決したわけじゃないけど、昨日までよりも良くなったのは事実だ。

 そんな意味を込めてのありがとうだ。



【あとがき】


読んでくださってありがとうございます。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


作者から読者の皆様に切実なお願いです。


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