第10話 幼なじみと波乱の予感
通学路を初凪と一緒に歩く。
初凪の姿は、おさげのようなポニーテールのような髪型になっていた。肩より少し上の位置で髪が結われており、うしろから見ればおにぎりのような形にみえないこともない。さしずめ、おにぎりヘアーってとこか?
「えへへ……蒼ちゃんと朝から一緒に学校行くって、何か小学校の時以来だね」
「そうだなー」
いつ以来だ? 三年ぶりか?
「小学校に入ってから、蒼ちゃんったら、一緒に登校してくれなくなったもんね」
「そりゃあ、男子はそういうもんなんだよ」
俺だって人並みに周囲からの視線が気になったしな。
「まぁ、悪かったよ……」
それでも申し訳ないという気持ちもあるもんだ。大人になったから分かるが。あの時はガキだったな。
「別にいいよ。寂しかったけど、今は一緒に登校してくれてるもんね、嬉しい……えへへ」
「バカ……」
上目づかいで、こちらを覗き込んでくる初凪の表情が可愛くて、つい視線をそらしてしまう。はぁ……俺の幼なじみが可愛すぎて辛い。
「別に照れなくていいじゃん……あはは、変なのー! 蒼ちゃん、蒼ちゃん、蒼ちゃん~♪」
「ったく、お前のそういうガキっぽい所は何も変わってないよな……いいか、お前のそんな部分を相手できるのは俺だけなんだからな……ったく」
肩を頭でグリグリする初凪を見ていると、つい独占したくて、そんな言葉が出てきてしまう。
「大丈夫だよ~、こういうのは蒼ちゃんにしかしないから」
「あっそ……それならいいけどよ……」
いや、いいのか? 分からん……そんなことも考えないくらいに、頭が沸騰しそうだし、天真爛漫な初凪の笑顔を正面から見ることができなかった。
多分、一番クソ雑魚なのは俺だな……。
そんな風に初凪と会話しながら歩いていると、周囲からやけに視線を集めたような気がした。気のせいか? まぁ、どっちでもいいか。
※
「じゃあ、蒼ちゃん。私は職員室で担任の先生と会わないとだから、ここでお別れね。私がいないからって、悲しまないでね~」
「はいはい、じゃあな」
「ちょっとっ! 淡泊すぎないっ!?」
「あはは」
初凪の心外そうなツッコミが面白くて、つい笑ってしまった。学校で笑うのも久しぶりだ。学校では一人ぼっちの俺が、ゲラゲラ笑っているもんだから、周囲は俺の事を不思議そうな、気味悪そうな目で見ていた。まぁ、どっちでもいいんだが。
どうせ、学校でも初凪以外と話すことなんてないだろうしな。
※
それから自分の教室に入った瞬間、教室内の空気が凍る。それは一瞬のことで、すぐに何事もなかったように元に戻る。いつも通りのことだ。
誰だって、教室内に異物が混ざったら嫌だろうしな。
そんなことを考えながら、自分の席に着いた瞬間、珍しいことが起きた。
「ちょっといいか、西田?」
クラスの男子から話しかけられたのだ……そう思ったのだが、どうやら用があるのは西田君のようだ。俺は西島だ。人違いってやつだな。
俺じゃないと分かったので、スマホで漫画を読み始めた。
「おい、西田っ! 無視すんじゃねぇよ」
俺の隣で何やら騒いでいるせいで、ちっとも集中できやしない。
「おい、西田とやろ、誰かが探してるぞ、返事くらいしてやったらどうだ?」
「お前の事だよっ! バカにしてんのか、てめぇ……!」
「あ? 俺の事かよ……あいにくと、俺は西島なんでな。別の人だと思ったよ」
「っ! お前のそういう部分も本当にむかつくよ」
忌々し気にクラスの男子が睨みつけてくるが、それで? って感じだ。だからと言って、このままっていうのも良くないか。読書の邪魔をされても敵わないしな。
「で? 俺に何か用かよ、言っとくけど、あの事なら俺は知らないし、お前たちに謝る気もないからな」
「お、お前なぁ……!」
「落ち着けって、大樹! そんな話をしに来たんじゃないだろっ! 第一、あの件は西島だって言う証拠もないんだから」
「くそっ! 分かってるよ……」
それでも怒りをこらえきれないのか、俺の机の椅子を軽く蹴ってきた。
なんで、喧嘩売って来るねん。分かったんじゃないのかよ……。
「朝……おさげの子と登校してきただろ……紹介してくれよ……」
「…………え?」
初凪を紹介してくれって? 絶対に嫌なんだけど……。
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