第8話 主人公君は、幼なじみのことが……
「ほら、そっちは危ないからこっちに側によれ」
「ありがとう、蒼ちゃん。えへへへ…………」
車道側に歩く初凪を歩道に寄せたら、えらく嬉しそうに感謝された。
そんなに喜ぶことか? まぁ、いいんだけどな。何かあったらいやだし。
現在、俺と初凪は近所のスーパー買い物に来ていた
「ちょっ! おい……そんなにくっつくなよ」
「別にいいでしょー♪ 蒼ちゃんに女の子扱いされて嬉しかったなぁ!」
初凪は俺の肩を頭でグリグリしながら、距離を寄せて来る。拳一つ分もない距離にまで来ると、初凪の爽やかな匂いが漂ってきて、胸がドキドキする。
そんなことで喜んでたのね。というか、
「そりゃあ、初凪は女の子なんだから心配するだろ?」
むしろ、何をいまさらって感じだ。
「っっ!!」
その瞬間、初凪は顔を赤らめ出した。そして、明後日の方向を向きだす。
「そういうのは不意打ちでずるい……」
「は? 何を言ってるんだよ……?」
「だーかーら! ……大好きな男の子からそんなこと言われたら、照れちゃうって言ってんの!?」
やたら怒ってるような、嬉しそうに口をニマニマさせながら、首まで真っ赤になった初凪が抗議するように、叫ぶように文句を言ってくる。
「大好きな……って~~~っっ!」
分かってる、分かってるぞ、俺。
そりゃあ、この文脈の意味するところの大好きなってのは男の子としてじゃなくて、幼なじみってことですよね? 分かっていますよ! でも、このドキドキする気持ちはどうしたらいいんでしょうね?
「な、何よっ! 何か私に文句でもあるわけっ!?」
「ね、ねぇーよ! ば、ばーか!」
「ニャニオー!」
照れくさくて、それでも誤魔化したくて、ギギギと二人でにらみ合う。
そうでもしないと、この時間が照れくさくて、また自制が利かなくなりそうだったからだ。
「と、とりあえず、買い物行くぞ……」
「もーう、分かった……」
※
買い物をおわった帰り道。
ミツバチのように、甘いお菓子やデザートを手にとっては籠に詰めこんでいく初凪と戦いながら、何とかお会計までもっていった。二人分の食費ということもあるが、初凪のお菓子のせいで、普段よりも高くついた。
「このお菓子、美味しいよ! 蒼ちゃんも食べる? はい、あーん」
「まだ何も言ってない……」
一つの買い物袋を二人で持った初凪との帰り道。
街灯と月明かりだけが、アスファルト道を照らしていた。月から逃げ出したウサギはアスファルトにも見られず、どこか外をさまよっているのかもしれない。
明日からは俺と初凪も学校だ。話を聞けば、初凪もうちの高校に転校してくるらしく、クラスも同じらしい。そして多分、席は俺の隣だ。というのも、俺の隣の席だけ空いているからだ。結構前から決まっていて、先生が調整していたんだと思う。
「ねぇ、蒼ちゃん?」
「ん―?」
「明日から学校だけど、楽しみだね」
二人分の靴音しかならない帰り道。元気な初凪からは珍しく、しっとりした声が俺の中に溶けていく。
初凪は楽しみなのか……普段の俺の学校の様子をみたら初凪はどう思うのだろうか? 気になるような、少し怖いような気がする。
春空を見上げても、ウサギは当然おらず、暗闇が広がっているだけだった。夜のボタンである星は見えず、月も三日月状で少し寂しかった。
「蒼ちゃん?」
「ああ、悪い……学校な。どうかなー」
何とも言えず、つい濁してしまう。怖さが半分、少しだけ楽しみかなって感じだ、ジェットコースターのような初凪がいれば、凄く楽しい学校生活になるかもしれない。そんなごちゃまぜになった気持ちを、俺の少しだけ遅くなった足取りだけが教えてくれる。
「蒼ちゃんは何か不安なことでもあるの?」
「そういうわけじゃないんだけどな……」
あーだめだ。この感じだと多分、誤魔化せれてないような気がする。何て言えばいいんんだ?
そんなことを頭でグルグルと考えていると、初凪の頬が膨れていた。
「何で誤魔化すのよ!」
「何でって……」
「蒼ちゃんが私に隠し事して、許されると思ってんのっ!」
んな、理不尽な……。
「ほら、言いなさいっ! 大丈夫だから」
ニカッと、影が広がる帰り道でも、初凪の笑顔だけが一際、輝いていた。街灯の届かない寂しい月明かりだけの道でも、ここだけが道しるべになるような。そう、月から逃げたウサギだって、きっとここに帰ってくるような気がするんだ。
「最初に言っとくけど、面白い話でもないからな?」
「分かった! とりあえず、お菓子食べながら聞くね?」
「おいっ」
モグモグとリスのように、頬を膨らませる初凪のせいで、緊張感が台無しだ。それでも、そのおかげで、少しだけ話しやすくなったような気がする。
「俺はな、学校でいつも一人なんだよ……友達もいないし、それどころか会話するやつだっていない」
誰も俺と目を合わせてくれないどころか、話しかけようともしてこない。いないものとして扱われているのだ。ある意味、孤独より恐ろしかった。
「だから学校で誰かと会話した記憶何てほとんどない。それこそ、初凪と会話したのなんて久しぶりだよ。あはは……そんなこと言われても急に困るよなー……はは」
渇いた笑い声だけが、閑静な住宅街に無機質に響いた。
俺の隣を歩く初凪の表情は分からない。それでも、初凪の大きな瞳が俺を映している事だけは分かった。
戸惑い、揺らめき、すれ違い、悲しみ、怒り、喜び、嬉しさ。
一体、何を抱えているのかは分からない。
俺達を照らしている月のように純白でもなければ、宵闇のような黒も出ない。ここからじゃ視認できない赤、緑、黄……。んな様々な感情を乗せた初凪の瞳に宿っているような気がした。そして、そんな初凪の瞳の水面が揺れ始めると、頬に涙が伝う。
「ごめん……ごめんね……ずっと一人で辛かったよね……ぐすっ……アタシに分かったようなことを言われて嫌かもしれないけど、大変だったよね……ごめんね」
口をへの字に曲げ、掌で涙を拭う初凪を見ていると、溜まらず胸が痛くなった。
初凪の言う、ごめんねが何を言っているのか、俺には良く分からなかった。それでも、俺の事を心配してくれているのは分かるし、その涙まで俺は疑うことができなかった。
「何泣いてんだよ……ちょっと公園寄ろうぜ」
そうしないと、俺もなんだか泣いてしまいそうだった。
最初に初凪と言い争った時に泣いたが、それ以上にまた初凪の前で泣きたくなかった。泣いてしまえな、俺は初凪を失ってしまった時に絶対に耐えられなくなってしまう。それが分かっているからこそ、もうなくわけにはいかなった。
それからお互いに、公園のブランコに並んで座った。その間もずっと初凪は泣いていた。
公園の蛇口をひねって、ハンカチを濡らすと初凪の涙を拭った。
「ほら、明日から学校行くんだぞ。泣き腫らした目で学校に行くつもりか?」
「だっでぇ……だっでぇ……!」
「だってじゃねぇだろ……ほら、鼻水も出てるぞ、はい、チーン」
「んん~~」
涙を拭って、鼻水を拭って、手のかかる妹の世話を焼いている気分になる。でも、それだけじゃないのも分かる。
「なぁ初凪?」
「ん、なに?」
雲間に隠れた優しい月明かりが俺達を照らしてくれている。雲間がなくなった夜空からは、星も月もきれいに照らしてくれていた。初凪の瞳に写る色も感情も分からなかった。でも、今は分かる。
初凪の色って言うのはきっとないんだ。ただきれいで、愛情が美し色で輝いているだけ。それでも、星にも月にも負けないくらいにきれいで輝いているのは分かる。
「学校で一人って言ったけど、大丈夫だから……だって、初凪は俺の傍にいてくれるんだろ?」
「あだりまえじゃん……私はずっと蒼ちゃんの傍にいるよぉ! だから、一緒に住んでるのっ!」
「うん、なら大丈夫だから。ありがとうな」
「学校でも私が傍にいてあげるから。大丈夫だからね……って、蒼ちゃん顔赤くない?」
「バーカ、気のせいだろ……」
嘘だ。本当は、自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。
だって、気が付いてしまったから。気づいてしまったから。
初凪を前にして、自制心が利かない理由もようやく分かった。
俺は、こいつのことが好きなんだ。
【あとがき】
最後まで読んでくださってありがとうございます。
これにて、一章簡潔でございます。明日からは二章になりますのでよろしくお願いします。
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作者から読者の皆様に切実なお願いです。
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