第7話 幼なじみを前にすると、主人公君は暴走しがち

 初凪と朝食を食べてから、少し休憩した後。


「今日は、初凪の家具がとどくんだったよな? 何が来るんだよ?」

「えーとね……私物と本棚とベッドだったかな? あと、細かいものが少しって感じ」

「あいあい、りょーかい」


 なら搬入は手伝った方が良さそうだな。


「何時くらいに──」


 ──ピンポーン


「あ、届いたかも」


 話してれば、なんとやらってやつだな。


「はーい、西島でーす! 瀬戸口じゃなくて、西島でーす!」


 俺が出ようとしたのを、なぜか初凪は引き留めた。そして、ドヤ顔気味の初凪が、なぜか俺の苗字を語って、なぜか俺の苗字でサインしながら、荷物を引き取った。


 なぁ初凪、なんでそんなに、お前は嬉しそうなんだ? いや、別にいいんだけどな? お前の苗字は瀬戸口であって、西島じゃないんだからな?


「ごめん、蒼ちゃん、荷物思いから手伝ってー!」


 家具を挟んで、初凪の声だけが聞こえてくる。まるで、家具が喋っているようで少し面白かった。それにちょっと可愛かった。


「あいあい、ちょっと待ってろ。ほら、一応着けとけ。何もないよりかはいいだろ」


 初凪に滑り止めが付いた軍手を渡す。ないよりは合った方がいいだろうしな。滑ってケガされても嫌だし。


 初凪がはめたのを確認し、


「「せーの!」」


 掛け声でベッドから持ち上げた。


「うぇ……おもたーい」

「文句言うな。こっちだって重たいんだから。こっから階段だから気をつけろよ」

「うん」


 そっから、三往復することで何とか家具を全て運ぶことができた。家具自体は、決めた場所に置いたからよかったが、こまごました私物が多かったこともあって、部屋は結構散らかってしまった。


 片づけを手伝わされないといいんだけど……流石に、初凪だって年頃だ。俺に見られたくないものだってあるだろう……あるよな初凪? 俺は中身がガキだったとしても、そういうところが分別があると信じてるからな!


「あちゅーい。シャワー浴びようかな……」


 胸元をパタパタさせながら、初凪は汗を乾かそうとしていた。


「ば、バカッ!」


 慌てて凪から視線を逸らした。

 前言撤回。体だけ大きくなったお子様に、分別はまだまだなようだ。


「むぅ~! ねぇ、なんで視線を逸らすのよ!」

「分かるだろっ! ってか、分かれ!」

「分からないから聞いてるじゃん! こっち向いてってば!」


 顔が赤くなったのがなんだか悔しくて、初凪の胸元に視線がいってしまいそうなのは嫌で、初凪の顔をできるだけ視界に入れないようにした。


 こいつ……胸は大きいんだよな……。


「やばいっ!」


 脳内に電撃が奔ると、頭に浮かぶのは、胸元から少し見えた鮮やかな下着の色。その瞬間、俺の股間がギア3を発動しそうになった。


 慌てて前かがみになって、少しだけおかしい足取りで初凪の部屋から出ようとしが、それを許してくれる初凪でもなかった。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 ドアの前で両手を大きく広げて、通せんぼをする初凪。


 なんで、そういうところは意地を張るんだよお前は! 股間が膨らんでるのを見られたくないんだよ! そういう男子の複雑な部分を分かってくれよ! いや、分かんないかもだけどさ……。


「なんで逃げるのよ……急にそんなことしないでよ。ちょっと悲しいじゃん……」


 唇を尖らせる初凪を見てると、胸に罪悪感が広がる。


「あ、あのな初凪……って、ほわっち」 

「あぶない、蒼ちゃんっ!」


 俺は初凪の部屋が、物で溢れかえていることをすっかり忘れていた。一歩踏み出したことで、自分の足が何かに引っかかって転びそうになった。そして、それを反射神経のいい、初凪が手を伸ばしたせで、二人いっぺんにこけてしまった。


「いててて……大丈夫、蒼ちゃん……ふぇっ!」

「悪いな初凪……ん? どうした?」


 とっさのこととはいえ、初凪の下敷きにはなれたようで、初凪の声が高い位置から降りてくる。そして、目を開けると把握した。


「な、初凪……!」


 唇と唇が触れるかという距離に初凪の顔があった。

 ドキン! ドキン!


 胸の爆弾が今にも爆発しそうなほどおにうるさかった。頭の中で血液のドクドク音が鳴り響いて、視線が初凪に釘付けにされて動かすことができなかった。


 初凪って、こんなに可愛かったんだ……


 シミ一つない滑らかな肌も、大きくクリッとした瞳も、サラサラで思わず梳きたくなるオレンジの髪も、


 全部が全部、俺を夢中にさせるには十分すぎた。


「初凪……」


 ああ、ダメだ……また、止まらなくなる。


「――っっ!」


 我慢できなくなって、初凪の頬に手を伸ばした。


 掌に掛かるセミロングの髪が少しくすぐったかった。そして、初凪の頬が凄く柔らかくて、その温かさがもっと欲しくなる。この先にいけば、もっとその温かさを知って、独占できるのだろうか。


「い、いいよ……蒼ちゃん?」


 見てるこっちが熱くなるくらいに顔を真っ赤にさせた初凪が、熱に浮かされた瞳で俺の事を見下ろしていた。


 何がいいんだろうか……いや、そんなことは分かっている。

 そのまま俺は、この怪しげな雰囲気に呑まれるように──


 ──ピンポーン!


「「――っっ!!」」


 インターホンが鳴った瞬間、お互い我に返った。


「と、とりあえず出て来るなっ!? 地球に平和を守りに行ってきまーす!」

「う、うんっ! が、頑張って~~!」


 そのまま俺は飛び出るように部屋を出ると、玄関にまで向かった。


 あ、危なかった……気を付けないと。というか、俺もどうしたんだ……何か初凪が家に来てから自制心が利かなくなっている……気をつけよう……。

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