第3話 美味しそうにご飯を食べる幼馴染が可愛い件

 二人で暫く泣いた後。


「えへへ……何か二人して泣いちゃって恥ずかしいね……」

「う、うるさい……」


 こっちだって、同じ気持ちなんだから、わざわざそんなこと言う必要ないだろ……頭に思い浮かぶのは、初凪の前で本音をぶつけて、泣き出す自分。ダメだ……恥ずかしすぎる。


「と、とりあえず飯にするか……まだ何も食ってないんだろ?」


 気持ちを切り替えよう。

 何かこの湿っぽい空気は非常に良くない。具体的に言えば、初凪を見てムラッと来てしまうくらいには良くない。泣いたせいで、心の檻のような何かが壊れている感じだ。

 

 初凪の奴、めっちゃ可愛くなってるんだよな……はぁ、いろんな意味で辛い。


「そうだね……あはは」


 そんな凪の目元も涙で赤くなっており、少々、恥ずかしそうだった。


「何食べたい? おかずになりそうなのは、鶏肉くらいか……? あと、パスタぐらいだ」

「そう言えば、蒼ちゃんはずっと自炊?」

「そうだよ、つっても、魚料理はできないけどな」


 魚料理は駄目だ、具体的に言うなら、トレーは臭いし、焼く以外の工程が面倒くさすぎる。百歩譲って切り身ならいいけど、捌くのは無理だ。


「そうなんだ。でも、蒼ちゃんの作るのならなんでもいいよ?」

「そういうのが一番、困るんだけどな」 


 何でもいいって言われると、作る選択肢が増えて一番、困るんだけどな。


「一応聞くけど、初凪は料理できるのか?」


 その瞬間、初凪の表情が固まってしまった。

 その表情だけで、答えが分かったような気がする……。


「あー……いや悪かった。そりゃあな? 人には得手不得手があるから──」

「なんでそうなるのよっ! わ、私だって少しくらいは……」

「じゃあ、できるのか?」

「………………」


 その瞬間、初凪は目を逸らして明後日の方向を見ていた。


「やっぱできないんだなっ!」

「うるさーい!」

「い、イデデデデデッ! ギブギブッ!」


 まさかの初凪にヘッドロックをかまされてしまった。

 百歩譲って小学校の時気ならまだしも、俺達はもう高校生なんだぞ! なんでそんなに距離感が近いんだよ、ったく、さっきは少し大人っぽいとかドキドキするとか思ってたけど、結局、中身はガキじゃん……。


 クソッ……ガキ大将の初凪に照れていた自分がちょっと恥ずかしい。


「わ、私だって……練習すれば、料理くらいできるんだから……オリジナルの味付けで蒼ちゃんをトリコにするくらい……」


 その発言が出た時点で、俺は初凪を一人でキッチンに立たせようとは思わなかった。経験で分かるけど、基本的に料理を失敗する人の特徴はレシピを守らないこと。

 

 要は、言われたことをきっちりと守らないことだ……やっぱりガキだな。、ふふん。


「……何か、失礼なこと考えているでしょ?」

「ぜ、全然、そんなことないよ☆」


 少しだけ茶目っ気を出してみた。


「うわ……キモッ」

「おいこら」

「イベベベベ、ごめんなさい」


 頬を引っ張られているって言うのに、何で初凪は笑ってるんだよ。まぁ、今のは俺の誤魔化し方も良くなかったが。


「とりあえず、今日は俺が晩飯作るから。細かいことは明日から考えようぜ?」

「はーい! じゃあ、その間に私は荷解きでもしとこかな? 何かやることある?」

「そうだなー……風呂洗っといてくれ」

「ん、分かった」


               ※


「なんだろう……この敗北感。女子力で圧倒的に差をつけられている感じは……」

「文句を言うな」

「文句じゃないよ……アタシが気に食わないだけ」

「変わんねぇよ……」


 どこまで言っても、理不尽な初凪様だ。そして、さっそく幼少時の時と同じように逆らえない感じがプンプンしてんな。

 

 今、俺と凪の目の前には向かい合って座っている。そして、真ん中には料理が並べられている。

 

 今夜のメニューは、ヤミツキダレチキンだ。

 特に、メニュー名があるわけではないがレシピ動画を見て俺がヘビロテしているメニューだ。調味料を混ぜて、炒めるだけだからすごく簡単だ。白米が進む男子が好きなメニューだが、まぁ初凪なら問題ないだろう。あいつもその辺の男子と変わらないだろうし。そして、副菜は冷凍のブロッコリーとゆで卵のサラダ。


「じゃ、いただきまーす♪」


 初凪は嬉しそうな表情で、さっそくおかずを口に運ぶ。


「ど、どうだ……?」


 味見もしたし、美味しいとは思う。なんなら、いつもより丁寧に作ったくらいだ。それでも、誰かに食べてもらうってことは、反応が気になるものだ。飯なんて、普段は一人で食ってたしな。


「~~っ! おいしいっ! ありがとうね蒼ちゃん」


 ニコッと、天真爛漫な笑みを浮かべる初凪を見ると、ひとまずはホッとした。


「そっか……良かったよ……」


 ひとまずは、安心した。

 俺の目前で初凪は、大げさなくらいにおいしい、おいしいと食べてくれていた。


「…………」

「? どうしたの、蒼ちゃん、何か変だった?」

「え?」

「だって。笑ってるじゃん……」


 全然、意識してなかった。そう言えば、家の中で笑ったのも久しぶりな気がするな。それに、なんだか家も狭く感じるし、あったかいというか……こーう、なんだろうな?


「あ、いや……悪い。誰かが、笑って、おいしいって言ってくれるのが嬉しくてさ。明日は何が食べたい? リクエストあるなら何でも作るぞ」


 それだけ嬉しそうに笑ってくれるというなら、こちらとしては作り甲斐がいくらでもあるくらいだ。


「んー、そうだね……カレーとかハンバーグ!」

「あいあい」


 ってことは、明日はカレーにするか。冷凍庫にはハンバーグもあるし、目玉焼きも加えてみるか。多分、初凪のことだから、お子様プレートみたいにしたら喜ぶだろ。


「んふふふふ……嬉しそうだね、蒼ちゃん」

「そ、そうか……?」

「うん、だっていつもより頬の表情が柔らかいんだもん」

「え、うそっ──あ」

「えへへ、バーカ」


 頬を触ったタイミングで気づいた。きっと最初から初凪は、俺をからかうためだけにやったんだ。


「あ、初凪、お前な……!」

「もーう、そんなことで怒んないでよ~! あはははは!」


 目尻の涙を拭いながら、初凪は面白そうに笑っていた。そんな天真爛漫な笑みを見せられると、こっちも怒る気は失せるもんだ。まぁ、頬をつねってやろうかくらいに思ってただけだし。


「ほらほら、ご飯が冷めちゃうし、はやく食べよ? 蒼ちゃんもお腹いっぱい、食べなよ?」

「なんだろうな、その言い方だと、まるで初凪が作ったみたいだ」

「うん、今日はご飯準備するの大変だったよ」

「おいこら、勝手に記憶を捏造すんな」


 そんな感じでいつもより楽しくて、おいしい夕食は終わった。


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【あとがき】


読んでくださってありがとうございます。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


作者から読者の皆様に切実なお願いです。



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