【設定】神話と宗教

◆凪の巨神 Gentle Giant

◆三友神 Three Friends


 古代エルフ族に端を発する創世神話の主要人物。



◇創世神話 The Genesis


 遥かなる昔、この世にまだ大地は無く、どこまでも広がる静かな大海原だけがあった。


 さざ波一つ立たぬ海。そこへある時、小さな波紋が浮かび上がる。

 波紋はやがて大きなうねりとなり、最初の『神』を生み出した。『凪の巨神』の誕生である。


 初めのうち巨神は、自分が再び穏やかになった『凪の海』の支配者としてあることを喜んだ。

 しかし、次第に独りでいるのを心細く思うようになり、友となる存在を生み出そうと思い立つ。

 自らが現れた過程を再現すべく、巨神は海面をひとつ、ふたつ、みっつと叩き、波紋を起こした。


 ところが、いくら待てども静かなる海は応えてはくれない。

 そのうち巨神は疲れと孤独感から、いつしか深い眠りへと落ちてしまう。


 気の遠くなるような永い時が過ぎた頃、巨神の起こした三つの波紋はそれぞれ海の果てまで届き、そこで三柱の神々を新たに生み出していた。

 彼らは長き旅路の末に大海原の中心で邂逅を果たし、友としての契りを結ぶ。これすなわち『三友神』である。


 三者は程なくして、その場にとても大きな物体が浮かんでいるのを発見する。

 誰かが言った。「これを材料にして、ここに大地を創ろう」と。他の二者もその意見に賛成する。


 『学士』が蓄えた知識を用いて、

 『墨客』が創案した図形を基に、

 『工匠』が大地や生き物をはじめとした、さまざまなものを組み上げていく。


 斯くして『世界』――後にトゥーラモンドと呼ばれることになる世界――は拓かれたのであった。




◇学士:ン・シス N'sis the Scholar

◇墨客:キフカ Kifcha the Painter

◇工匠:イェルダエ Jerdae the Crafter


 以上三柱の神々を合わせて『三友神』と呼ぶ。


 『凪の巨神』と『三友神』を主とする逸話は、世界各地に伝わる創世神話の原型になったとされており、実際に数多くの類型やバリエーションが存在する。


 中でも『工匠』の特異な扱いは注目に値する。ある神話体系においては主神の代行者でありながら、別の神話ではトリックスター的役割を担うなど、両極端な活躍が見られる。

 いずれにしても彼が研究者や神話の聞き手の間で「人気者」であることに異論の余地はない。


 三柱は被造物を生み出す過程での意見の食い違いから、やがて袂を分かつこととなる。その際、三柱の最もお気に入りとして手元に飼っていた美しい〝渡り鳥〟は住処を失い、いずこへと飛び去っていったという。


 しかしこの物悲しい結末は物語の聞き手には不評だったらしく、語り継がれるうち次第に忘れ去られていった。




  *




◆サルウィスムス教 Salvismusism


 西洋一帯で信仰されている唯神教。『神』は目に見える姿を持たず、あまねく事物に宿ると信じられている。


 一方で神学者たちの間では、エルフの創世神話における『凪の巨神』を『神』と同一視する見方もある。これは教会設立当初の早い段階で生まれた、現在でも主流となる学説として支持されている。


 また中世には、『神』の代行者を名乗る創始者=『救世主』が元々は大工であった事実から、彼を『工匠』と結びつける考えも生まれた。以降『三友神』は同教における重要なモチーフとして宗教芸術に取り入れられることとなる。


 『救世主』の弟子であった聖典編纂者は『学士』、『救世主』を導いたとされる預言者は『墨客』、元の創世神話では影の薄い存在だった〝渡り鳥〟は『神』の御使い=天使の着想の源となった。


 円の中にV字を重ねた三角形がシンボルで、祈りの際に使用されるロザリオにも用いられている。〇は『神』 (=巨神)、△は三友神、Vは天使 (=渡り鳥)を表す。




◇サルウィスムス教会 The Salvismusist Church


 フラマシア法国に総本部=教皇庁を置く宗教組織。

 現在の教皇はユディカティウス (Judicatius VI)――リュゴー出身、本名サオシュヤント・デュボワ (Saocheyante Dubois)、愛称:サリュ (Salut)。




◇四大天使 Four Archangels


 古来よりその存在を知られていた四大元素を司る大天使。実態は大精霊であると推測される。


 フラマエル (火) Flamael

 ラタマクエル (風) Ratamacuel

 パラディデル (水) Paradidel

 ドラギエル (土) Dragiel




◇悪魔 demon


 元々は信仰を妨げる存在の具象化であった。『十三年戦争』で侵攻を仕掛けてきた異界の住人にその名があてがわれて以降、そのイメージは明確となるも、信仰の敵であるという立場に変わりはない。




  *




◆カムナヤの神々 Deities of Kamunaya


【三貴子 (みはしらのうずのみこ)】


 イムガイ神話の中核をなす三柱の神。その生まれには諸説あるが、三兄弟であるという点は共通している。第二子のミネバヒは女神。

 後年の比較神話学でそれぞれ『学士』『墨客』『工匠』と対応して考えられるようになった。



◇天御佩刀大神 (あめのみはかしのおおかみ)、アメノミハカシ


 三貴子の一で、星神・剣神・知識の神。主神。フォズ・イムガイの氏神。



◇天御音延日大神 (あめのみねばひのおおかみ)、アメノミネバヒ


 三貴子の一で、太陽神・山の神・技芸の神。



◇天御津杯大神 (あめのみつつきのおおかみ)、アメノミツツキ


 三貴子の一で、月神・酒神・工芸の神。




【各地の氏神たち】


◇大水櫛比売神 (おおみぐしひめのかみ)、ミグシヒメ


 水神。立派な髪が大河の流れに例えられる。ワツリ村の氏神。

 カッパはこのミグシヒメの堕落した眷属であるという言い伝えがある。一説によれば剃髪することで従順を示した名残りが頭の皿であるとも。


 水分の多いキュウリは古くより水神への供え物とされており、カッパたちに好まれるきっかけともなった。人身御供にされた少女の命をカッパが救ったという逸話もある。



◇徒卑罪神 (あだしひつみのかみ)、ヒツミノミコト


 客神 (まろうどがみ)。イムガイ神話におけるトリックスター。各地を流浪し、昔話の原型となった様々な伝説を残す。

 開湯の逸話にあやかった温泉の神としての側面も持っており、ワツリやキホダトなどをはじめとした温泉地の神社にも配神として祀られている。



◇名賀氏臣神 (ながうじおみのかみ)、ウジオミ


 龍神。風雨を司り、潮の満ち引きを管理する。ナコイの氏神。



◇生穂火立神 (きほほだちのかみ)、キホホダチ


 鍛冶の神。刀身が熱せられ炎となった刀とともに生まれた。キホダトの氏神。



◇祈玻璃比売神 (うけはりひめのかみ)、ウケハリ


 豊穣と託宣の神。賢さと美貌を備えながらも奔放な性格。ウスクーブの氏神。




◇カムナヤの神官


 神官の職階は現代日本ほど複雑ではない。例としてワツリ神社では、宮司と禰宜が各一名、そのほかに三十名ほどの神官がそれぞれの役職に就いている。

 神官の役割は祭司 (さいし)と衛士 (えじ)、二つの部門に大別される。


 祭司長 (さいしちょう)率いる祭司たちは、平時において冠婚葬祭を取り仕切っている。緊急時に備え、治癒や支援などの魂振に通じた者が配属される。祭祀事で演奏する楽師はこちらに属している。


 衛士頭 (えじがしら)率いる衛士隊は村内外の警備を担当する。剣術や杖術などの武芸に長けた者を中心に形成されている。中には神楽の舞手を務める者もいる。




◆冥遍夢 (めいへんむ)


 末法思想を掲げるフトノリ系の狂信者集団。その起源は中世にまで遡る。

 魔物に身内を惨殺され気が触れてしまった信徒の発言から「悟りを得た」として拡大解釈を繰り返されてゆくうちに現在のような教義に至った。


 魔物を輪廻の輪から解脱した理想の存在として敬い、世紀末に現れる邪神が地上すべての生命を正しき道に導く (正邪逆転の理)と信じている。人生とはそのための準備期間であるとの教義を説く。


 信徒は幕府や朝廷にまで紛れ込み、裏からイムガイ社会を操ろうと画策している。




◆玉琴 (ぎょくきん、たまのおごと)


 北極星の化身たる七星、


・詠応 (えいおう)

・路穹 (ろきゅう)

・倚恩 (いおん)

・堂爛 (どうらん)

・武律 (ぶりつ)

・龍智 (りゅうち)

・美祥 (びしょう)


 以上から成る星座が『玉琴』である。七極星とも呼ばれる。


 邪を祓い生命を恵むというその霊験にあずかろうと、東洋の人々は古くから『玉琴』の星図を呪符に記すなどしてして慣れ親しんできた。


 一方で央土の道士たち、あるいはイムガイの陰陽師たちはこれを秩序立った魔術へと転用し、さまざまな呪法として確立させてもいる。

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