嘘といじめと傷痕
小学校何年だったか忘れたが、家が大きいことや母が自営だったことで私に興味を持たれたことがあった。母の自営業に対する年収を尋ねられた。
その時点ではわからなかったため帰ってから母に尋ねた。母が答えた金額を、そのまま当時のクラスメイトに答えると『嘘つき』呼ばわりされた。当時は嘘ではないと抗議したが、今になってみると母の答えはさすがに盛りすぎなのではないかとは思える金額だった。
思えばそこから本格的にいじめられるようになった気もするが、今にして思えば『きっかけ』に過ぎなかったのだろうと思う。要は『いじめるに値する口実』を作れれば何でもよかったのだ。金額が安ければ『家に対して稼ぎが安い見栄っ張り』等と言われただろうし、高ければ『嘘つき』呼ばわりすればよかったのだろう。
いろんなものが積み上がり、些細なきっかけで『いじめ』のトリガーが一度でも引かれれば、あとは転げ落ちるばかりだった。無視をされたり、触れたものを気味悪がって呪いのように扱われたり。上履きなど物を隠されたり。スマホどころか携帯電話すらない時代だったので、デジタルな嫌がらせは一切なかったが『人の心を壊す』には十分な内容と期間いじめられた。
当時の私の遊び場は、ほとんど図書館と駄菓子屋にあるネオジオ筐体で遊べる格闘ゲームだった。家でゲームしていると怒られ、ゲーム機を隠されるなど日常茶飯事だった。中学に上がっても本とゲームが心のよりどころだった。
ゲームは現実と違って目に見えた評価がもらえたのだ。うまくなれば直接成果として評価される。それが嬉しかった。
小学校高学年から中学校2年ぐらいまでは図書館に行くことも多かった。決して近くはない距離の図書館だったが、当時は映画ブースで映画も見ることもできた図書館だった。金曜ロードショーで見た『ホームアローン』などよく見た。
母の金に対する束縛に疑念を感じ始めたきっかけがあった。中学二年の頃に部活の道具を新調したいから、お年玉を使わせてほしいと母に懇願したことがあった。母は首を断固として縦に振らなかった。必要性を説いても、素人目線でまだ使えると断言し、要求を突っぱねた。私には納得のいかないものだった。
母の自営のスペースに私の通帳を管理していることを知った私は、夜中の寝静まったころにこっそり私の通帳と印鑑を取りに行った。道具は新調出来た上に、2週間後に行われた大会で結果を出したが、その時含めて一度も家族は応援になんて来なかったし、こっそりお年玉を使ったことがばれてモメにモメた。これ以降、母の金に対する束縛がよりきつくなった。
そんな私も中学時代という思春期真っただ中だったので、いじめられているにも拘らず、好きな人が出来たことがあった。ここでも『嘘』で人生を狂わされた。
中学時代の修学旅行の夜、同室の連中と夜な夜な話すなんてことはよくあるが、僕はそこから逃げることが出来なかった。話の場に立ち『誰にも話さない』というその場の口約束を鵜吞みにし、当時の想い人を話してしまった。
そこからの話の広がり方はとても速かった。速すぎて『誰がその話を流したのか』なんて特定する暇もなかった。想い人に知られた上に、女子からのいじめが苛烈になった。それが原因で女性恐怖症になった。今でも正直女生徒は関りたくない。
噂を広めた奴にとっては単なる『いじめのネタ探し』に過ぎなかったのだろう。当時の私はそれを見極めるには純粋すぎた。いじめられていたという事実があったにも関わらずだ。人を信じすぎる私が愚かだったと今では思う。
『嘘』とは、『ばれるとまずい諸刃の剣』ではなく『相手に証明する手段を用意させずに使えば効果的な刃』なのだとこの時知った。私も人生で嘘をついたことはあるが、私の人生の中で受けた最も効果的な嘘の一つは『誰にも話さない』という口約束だったと思う。現代であればスマホなどで録音という抵抗手段もあるだろうが、携帯電話もない昔の学生時代においては効果覿面だっただろう。
高校に入ってからは、本格的に「オタク」になった。とはいってもアニメは自分の部屋にテレビなんてなかったのでチャンネル権なんてないに等しかったので『ゲームオタク』になった。工業高校だったので女子は元々少なかったし、オタクバッシング全盛期だったのでクラスで浮きはしたが、友人がいたし高校生というある程度成熟した年齢だったのでいじめられることはなかった。とはいえ、当時の性格上オタクであることを隠さず生きてきたので、下駄箱に見知らぬ南京錠が掛かっていたことがいくつもあったがその程度だ。そのころには女性恐怖症もあって『女は紙かjpegに限る』と公言していたくらいだった。
中学卒業から20年余り経った今でも、いじめによるダメージは残ったままだ。むしろ時間が経てば経つほど、より鮮明にダメージとして心を蝕んでいく。
一時期はgoogleの検索履歴が『いじめ 復讐』や『復讐 方法』などで埋まっていたほどだ。まだ実家と関係があって里帰りした頃に、ばったり会った小学校からの同期の女子が『結婚して子供いる』って言われた時に真っ先に浮かんだ感情は『その子供にやられたこと全部やってやろうか』というどす黒い感情だった。必死に女性に対する恐怖と黒い感情を抑えおめでとうと言って別れたが、二度と地元には戻らないと決めることでなんとか平静を保った。
これを書いていて改めて思ったことは『自分は生まれる時代や家を間違えた』のだろうとしみじみ感じた。現代に思春期を迎えていれば、いじめの対処法をスマホで探るなりなんなり出来たろうし、ゲーム好きも親に否定される世の中ではなかったのかもしれない。仮に私がADHDだったとしても、私の長所を認め、伸ばしてくれる家庭環境であったなら私は今このようにどん底を這いつくばってたりしないのかもしれない。『かもしれない』で止まってしまうのが悔やみきれない。
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