下 二人の解
村からは赤々とした光が映っていた。
かがり火ではないことは明白で、村の中はただ事ではない様子であることが言わずとも三人とも理解する。
あの赤々とした光は村が火災に見舞われている証左だ。
転がり出て来るように松明を持った少年が彼らの元へ駆けよって来るなり、叫ぶ。
「お侍さん! どうか、弟を助けてください!」
「どうした坊主? 村が火で包まれているが、弟も火災に巻き込まれているのか?」
少年の歳の頃は10を超えたところくらい。
刀を持つ自分のことかと思った十郎が少年に応じる。
「三郎は盗んでなんかいないのに。村長や村の人が寄ってたかって。それで、三郎が」
「落ち着け。坊主。まず、ゆっくりと息を吸って吐け」
「すーはー」
「どうする晴斗? すぐに村へ入りたいところだが、坊主から話を聞くか?」
十郎の問いかけに晴斗は迷いなく頷く。
村が燃えている。明らかに急を要する事態だ。しかし、少年をこのまま捨て置くわけにもいかない。
やみくもに村へ飛び込むよりも、何が起こっているのか分かってからの方が遠回りに見えても的確な対処もできよう。
急がば回れ、だ。
「落ち着いたか?」
「うん。三郎が化け物になってしまったんだ。でも、悪いのは三郎じゃない」
少年の弟は数日前に黒い水晶玉を拾う。
宝石類をこれまで見たこともなかった彼の弟はすぐに兄へ相談した。
両親が事故と病気で亡くなり身寄りのなくなっていた二人は、身の丈に合わない宝石におののく。
すぐに村長宅へ向かう二人。
村長はこの水晶玉はただの水晶玉ではない。何か悪しき力が込められているだろうと二人に伝える。
すぐに修験者殿を呼ぶ、水晶玉には決して触れぬようにとつづらの中に仕舞い込む。
悪しき力と聞いてゾッとする二人であったが、水晶玉は村長が預かってくれるとのことで安堵する。
ところが、翌朝になって弟の枕元に黒い水晶玉が置かれていたのだ。
慌てて水晶玉を持って村長宅へ向かうも、あれほど触るなと言ったのにと村長に咎められてしまう。
平謝りした二人は村長に許してもらうことができ、水晶玉は村長宅のつづらの中へ再び収められた。
しかし、次の日にはまたしても弟の枕元に水晶玉が!
一度ならず二度までもと、村長が激高し、村の大人たちからも白い目で見られる。
何も知らぬ子供たちはこれ幸いとばかりに弟をはやし立て……何も悪いことをしていない弟は深く心に傷を追う。
そして、深夜になり枕元に水晶玉がどこからともなく出現し弟の枕元に置かれる。
すると、弟の体に水晶玉が吸い込まれ――。
「それで、三郎が化け物になってしまったんだ。村の子供を襲い、続いて大人たちを」
「火を放ったのも弟なのか?」
「ううん。獣は火を恐れるとかでかがり火と松明を準備した大人たちが襲われて、それで、家に火がついてしまって。燃え広がって……」
「分かった。弟を止めればいいのか?」
十郎のゆっくりとした問いかけに少年は迷う素振りを見せる。
目を瞑り、かぶりを振った少年の目からとめどなく涙が流れ出た。
「分からないよ。おいら、どうしたらいいのか。三郎はおいらの唯一の家族だ。三郎がいない明日なんて想像できないよ。でも、三郎は……」
「そうだな。ま。見てみねえと何とも言えねえ。俺たちに任せてもらえるか?」
十郎がポンと少年の頭に手を乗せ、白い歯を見せる。
少年を村の入り口で待たせ、三人は炎渦巻く村へと入る。
口々に悲痛な叫び声をあげながら逃げ惑う村人たちが彼らの目に映った。
村の外へ逃げ出した者もいるだろうが、村の中には家を焼かれ外へ飛び出した村人たちがまだ多数残っているように見受けられる。
十郎と晴斗だけでなく、雲竜でも魔の気配がどこから来ているのかはすぐに感じ取ることができた。
気配を隠そうともせず、巨大な魔の圧を垂れ流す存在はここから100メートルほど先だ。
きっとそこに化け物となってしまった三郎がいる。
「向こうから来やがるな」
「そのようだが……」
油断なく構える十郎に対し、晴斗の顔は優れない。
元三郎だろう魔の気配が揺らいだ気がするのだ。強い光の元で小さな光が薄れて目立たなくなるがごとく。
ガガガガガガ。
彼らの目前にある家屋が崩れ五メートルほどの白い獣のような妖怪が首を上にあげガチガチガチと歯を鳴らす。
それは、骨で出来た虎のような体に1メートル弱まで大きくした人骨の頭が乗っていた。
激しく歯ぎしりする音は耳障りが悪く、近くにいた村人は耳を塞ぎその場でうずくまってしまう。
家屋だったものの灰が舞い、炎の灯りに照らされ骨の虎にのる人影が映し出された。
陰陽術で暗闇を見通せる晴斗たちの目にはハッキリとその姿が確認できる。
人影は15、16歳の少年だ。先ほどの「兄」よりも幾分年上に見える。日ノ本で15歳となれば、元服し大人の仲間入りをする頃の年齢だった。
少年は十郎と同じように額から螺旋型の角が一本生え、伸びっぱなしになった髪は赤く染まっている。
更に目には白目が黒に。瞳孔が赤になっていた。
虎の背に乗る少年は人間ではない。魔に染まった何かに変質している。
黒い水晶玉が彼を変えてしまったのだろう。
「某は立っているだけで精一杯だ……」
圧倒的な魔の気配に膝をつきそうになるのを耐えることしかできぬと雲竜が漏らす。
晴斗らはそれを咎めることなく、さりげなく彼の前へ出て構える。
「人型か。ただの少年が魔将になったと言うのかよ」
「どうだろうか」
袖を振り呪符を指先で挟んだ晴斗が狐の面の下の眉を僅かに上げた。
妖怪と魔将を隔てるものは人型であることと、もう一つ重大なことがある。
晴斗の内心をよそに、十郎が少年に声をかけた。
「お前さんが三郎か」
「ハハハハハ。三郎? ああそうさ。僕は三郎。何者か知らないけど、邪魔をするなら消すよ?」
会話が成立する。
晴斗と十郎は目の色を変えた。
もう一つの重大なこととは、理性があること。
いくら力を持っていても妖怪ならば本能のままに襲い掛かって来るのみ。ところが魔将は人と同じ思考力を持つ。
それぞれが滅びを願う強迫観念とも言える想いをとりつかれており、持てる知性を妄執に注ぎ込む。
時には人間を騙し、同士討ちさせたりする者もいるほど。
「邪魔。邪魔とは?」
今度は晴斗が問いかける。
対する魔将となった三郎は顎を上にあげ狂ったように嗤う。
「ハハハ。何それ。決まってるだろ。この村の奴らを全て浄化するんだよ」
「浄化が済んだらどうするつもりだ?」
「決まってる。兄さんが死んだのは村の奴らだけじゃない。放っておいた代官。日ノ本を統べる帝。全部全部だ!」
「そうか。貴君は兄を失ってしまったのだな」
魔将の圧倒的な魔を前にしても晴斗は揺らがない。
少年の声を受け止め、真摯に受け止めている。沈痛な面持ちで彼は小さく首を左右に振った。
三郎の兄の話と総合するに、彼ら兄弟は両親を失い、村人から何らかの搾取を受けたのかもしれない。
ただでさえ、子供二人では生きていくのに精一杯だと言うのに。
一方、魔将と化した三郎はもはや晴斗たちの姿は見えていないかのように、独白を続ける。
「あいつらは、兄さんを見殺しにした! 僕は兄さんが残してくれたもので生き残った! 村の奴らと関わらぬよう野山から恵みを授かり、生きてきた」
三郎の目から赤い血が流れ出た。
両手を振り上げ絶叫する三郎からは激しい怒気が煙のように沸き立っていた。
「僕が高価なものを持っている? だから奪った。兄も何もかも! 許さない! 許さない! 許さない!」
三郎の長い髪が天を突く。
骨の隙間に置いていたのか、彼の右手には壮年の男の生首が握られていた。
「真っ先にやってやった」
「村長か?」
目線は虚空を向いたままだったが十郎のこの声は彼に届いたらしく、にいいっと口が耳まで裂け、牙がのぞく。
愉快そうに嗤い、少年が叫ぶ。
「はははは。そうさ。そうだよ。今度は僕のために働くのさ。大事にとっておいてもいいかと思ったけど、要らないやもう」
少年から殺気を感じた二人の体に力が籠る。
彼の右手に掲げた生首が煙を上げ、みるみるうちに巨大化し彼の乗る虎と同じような骨の化け物となった。
「がしゃどくろを作り出すとは……噂に聞く魔将とはこれほどのものなのか……」
雲竜が絞り出すように息絶え絶えに呟く。
人の顔に虎の胴体を持つ骨の妖怪――がしゃどくろと言えば大妖に近い存在で、熟練の修験者であっても複数人で犠牲を払い、仕留めることができるかどうかといった難敵である。
それを軽々と作り出す魔将に彼の骨の髄が震えた。
しかし、彼の修験者としての自負が彼をその場で留まらせる。
「十郎。任せた」
「任された」
雲竜と異なり、高揚した感さえある十郎は刀を抜いてがしゃどくろを待ち構え、もう一方の晴斗は静かに需言を紡ぐ。
がしゃどくろの前脚の爪先が十郎を掠めようとした時、彼の手元がブレる。
「一の太刀。迅雷」
がしゃどくろの動きが止まり、次いで刀の動きに置いていかれたキイインという音が鳴った。
遅れて空気と刀の摩擦による焦げ臭いにおいが漂う。
続いてがしゃどくろの中央に一本の線が入り――。
「二十六式 物装
晴斗の声。
物陰に隠れていた新たながしゃどくろが左右から飛び込んでくる。
しかし、それより早く呪符が燃え、燐光となり行く手を遮った。
右のがしゃどくろは燐光に飛び込み、灰と化す。
もう一方のがしゃどくろは手前でバラバラに砕け散る。
「やっぱ隠してやったか」
「三郎はワザと大きな魔の気配を放っていた」
「木を隠すなら森ってやつだな。しかし――」
晴斗の予想通り、不意を打ってがしゃどくろが飛び出して来た。
三郎ががしゃどくろを彼らの目の前で作り出して見せた時に、彼は隠された存在を確信した。それが、がしゃどくろであることも。
十郎も晴斗と同じ考えだった様子で「ちっ」と舌を鳴らす。
前を向いたままの彼であったが、意識は前だけでなく右手にも向いている。
そう。左方向……十郎から見て右のがしゃどくろは、晴斗の陰陽術ではなく何者かによって倒された。
先ほどまでは毛ほどにも感じ取れなかった魔の気配が今や濃密に殺気をはらんで突き刺さんばかりだ。
「はっは。こいつは。中々のモノノフじゃねえか。気が進まないって言ってたが、すまん。めっちゃ心躍るわ」
場違いに陽気で鼻歌でも歌いそうな様子でトントンと肩に長柄を当て、破顔する20代半ばほどの男。
三白眼にさんばら髪をひもで縛り、額からは左右に角が生える。黒色の甲冑に身を包んだその姿は武士のものであった。
得物は刀ではなく、槍。穂先が三又になっていることが特徴的だ。
突然の来訪者に真っ先に噛みついたのは三郎だった。
「お兄さん。僕の邪魔をするというのなら、まとめて消すよ?」
「おいおい。お仲間だろ。ほれ、見てみろ、これ。角よ。角」
「ふうん。よくわからないや。お兄さんは僕の邪魔をしないってこと?」
「おうよ。何なら俺がかわりにあいつらを斬ってやろうか?」
「ははは。愉快なことを言うね」
三郎が狂ったように嗤い、男も彼の真似をしようと嗤い、顔をしかめる。
どうもしっくりとこなかったらしい。
「改めて名乗らせてもらおう。俺はナガヨシ。そこのモノノフ。俺と勝負しようぜ」
「その十文字槍……元ノブの配下の」
刀を持っている俺のことを呼んでいるのだろうと判断した十郎がナガヨシに応じる。
すると、彼ははんと鼻で笑い口上を述べた。
「過去はどうでもいい。今はただの魔将ナガヨシだ。ほれ、角が生えているだろ。いざ尋常に」
「断る。もしこの場に晴斗がいなければ喜んで受けていた。二体二だろ。なら文句ねえだろうよ」
十郎……。
貴君ならかのナガヨシとでも互角以上に渡り合えることだろう。
元々、彼は一騎打ちとあらば嬉々として受けていた。
それがどうだ。
ナガヨシはもちろんのこと三郎の強さも未知数。
しかし、彼らは個。私たちは集。
個で戦うに比して集ならば数倍の力を発揮することができる。
十郎、貴君の想いは受け取った。
貴君の期待に応えることができるよう、全力を尽くすとするよ。
晴斗がそう考えている間にも十郎はナガヨシの方へ体の向きを変える。
「おもしれえ奴だ。そうだな。二対二だよな。なら、勝手に行くぜ!」
彼はナガヨシのこの動きを予想していたのだろう。
疾風怒濤とはこのこと。
ナガヨシは一息に十郎の目前に迫り、三又の槍――十文字槍を突き出してくる。
それを軽々と刀でいなした十郎は大きく後ろに跳躍し距離を取った。
「札術 式神 蝶乱舞」
呪符が粉々に砕け散り、はらりはらりと紙でできた蝶が渦を巻き嵐となる。
蝶からは暖かな光が溢れ出し、光に触れたところから魔の気配が薄れて行く。
魔の者であればこの光は炎で焼かれるかのような傷みを伴う。
「陰陽師か。おもしれえ。武式 剛腕風車!」
「ははははは。僕も協力してあげるよ」
対峙するナガヨシは腰だめに構えた十文字槍を前に突き出し、回転させた。
十文字槍から台風のごとき風が唸り瞬く間に蝶を消し飛ばす。
もう一方の三郎は人の頭と頭を打ち付け、魔を込める。
すると、煙が立ち上がり骨の龍となった。
「ありがとよ。晴斗。時間十分だぜ。やれるもんなら受け止めてみろ。行くぜ。奥義 三千大千世界!」
眩いばかりの光が刀を覆い、持てる限りの霊力を込めた十郎の刀が振るわれる。
光が衝撃波を伴ってナガヨシを飲み込もうと襲い掛かった。
対する彼は僅かな時間で力を溜め、十文字槍を振るう。
「武式 百花繚乱」
乱れ打つ穂先の余りの連撃に穂先が壁のようになり、凄まじいカマイタチが連続で光の衝撃波にあがらう。
が。
大海に僅かにたつ波紋のごとし、光はまるで減速することなくナガヨシを飲み込む。
後には何も残らず十文字槍さえも粉々に砕け散った。
「今度は私の番だな」
「はあはあ……何言ってんだ。まだまだ行けるぜ」
全力を振り絞った十郎は肩で息をし、膝をつかんばかりである。
友が言うのなら、そうなのだろう。
晴斗は心の中で苦笑しつつも戦術を修正する。
これなら、「芽」はあるかもしれん、と。
「骨の龍は任せたぞ。札術 式神・
晴斗の細く長い指先に挟まれた呪符が布と化し、畳一畳分くらいの大きさとなる。
フワリフワリと宙に浮いたそれは式神・
十郎はひらりと
龍も怨敵とばかりに十郎へ牙を向く。
「どうした。骨の妖怪は出さないのか?」
「すぐに出してあげるよ。ほら」
晴斗の挑発に三郎はがしゃどくろを出すも、十郎が行きがけとばかりに剣圧を飛ばし斬って捨てた。
「それくらい私で対処できるのに……」と内心呟くも、同時に感謝する晴斗。
妖怪の格に応じて一度に出すことのできる数に制限があるようだな。
十郎が骨の龍を惹きつけてくれている間に三郎を倒すだけなら残りの霊力でも容易い。
しかし、それでは貴君の期待を裏切ることになるよな。それに、私もそれを望んでいない。
持ってくれよ。私の体。魔に一部を浸食されてもいい。
悲壮な覚悟を持って晴斗は指先で呪符を挟み需言を紡ぐ。
「札術 式神・烏<炎>」
呪符が炎の鳥と化し、晴斗の周りを回る。大きさはカラス程度であるが、がしゃどくろを倒すことができるほどの力を持っている。
これでは足らぬ。
再び呪符を指に挟む晴斗。
「九十式 霊装 源炎再臨」
ギシギシギシと晴斗の全身が悲鳴をあげる。
呪符が鮮やかな赤の炎となりて、炎の鳥に吸い込まれていった。
「転 出でよ。式神・四神の一柱 朱雀」
晴斗の右の指先が黒く染まり、彼の体に激痛が走る。もはや立っていることすらできずに地面に手をつき大きく肩で息をした。
一方で炎の鳥は数倍に膨れ上がって鮮やかな赤色の炎を纏う朱雀となり、長い尾を振るいながら高く舞い上がる。
対する三郎もただ見ていただけではない。がしゃどくろを生み出し、晴斗へ向かわせていた。
しかし、がしゃどくろは朱雀の尾の先を掠めただけで燐光を放ち崩れ落ちる。
瞬く間に朱雀は三郎の元へ到達し彼に覆いかぶさった。
白い光が天まで昇り、役目を終えた朱雀は掻き消える。
と同時に十郎が戦っていた骨の龍も砂のように崩れ去った。
朱雀が消えた後には体が透き通った三郎がぼんやりと立っているではないか。
先ほどまであった強烈な魔の気配は消え去り、角も無く、服装もボロ布になっている。
「ぼ、僕は……一体」
茫然と呟く三郎の元に宙に浮いた兄が突如現れた。
兄の体も透けており、三郎に手を伸ばす。
「三郎。疲れただろ。今日は兄ちゃんと一緒に寝よう」
「うん。兄ちゃん。俺さ。何だかとても怖い夢を見ていたような気がするんだ」
「そうだったのか。よく頑張ったぞ。三郎。明日も俺と野山に行こうな。また頑張ってもらうからな。罠のやり方を間違うなよ」
「間違わないさ。ふああ。眠くなってきちゃったよ」
「おやすみ。三郎」
「おやすみ。兄ちゃん」
二人は満面の笑みを浮かべ、目を瞑る。
すると、二人の姿が掻き消えた。
「浄化できたんだな。晴斗」
「あ。ああ。何とか。ぐ……」
「しばらく休んでいろ。魔に浸食されちまってるじゃねえか」
「問題ない。霊力が回復すれば元に戻せる」
「俺にも後で十束を頼むぜ」
「努力する」
晴斗を助け起こした十郎が苦笑すると、晴斗もそれにつられて薄い笑みを浮かべる。
「神話の戦いを見ているようだった。この戦い。後世まで語りつがれるものですぞ」
「必要ねえ。雲竜。俺たちはしばらくここから動けそうにない。村人の手助けをしてやってくれねえか」
「もちろんのこと。すぐさま取り掛かる」
雲竜は深々と礼をした後、すぐに動き出した。
彼の後姿を見やり、一息ついた晴斗はその場で仰向けに寝転がる。
もう一方の十郎は片膝を立てた状態で座り、空を見上げた。
そんな彼らの元に昇り始めた朝日が差し込んでくる。
◇◇◇
「なるほど。このような答えを出しましたか」
晴斗らに気取られぬよう様子を見守っていた華やかな緑を基調とした官吏の服を纏った男は、愉快そうに声を出さずに上品に笑みをこぼす。
扇を開き、閉じた彼もまた十郎と同じように空を見上げる。
「御屋形様。彼らならば天下布武に届くやもしれません」
そう呟いた彼の姿はいつの間にか消えていた。
晴斗らの魔王の欠片を巡る戦いはまだまだ始まったばかり。
おしまい
お読みいただきありがとうございました!
魔王の欠片 うみ @Umi12345
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