「1998年 垣内和彦 30歳」act-7 <彼岸花>
翌日。垣内は東京へ帰る前に、由美の墓参りをした。
彼岸を過ぎた市営の共同墓地は、ひっそりと人影もない。その一角に由美の名が刻まれた墓石があった。彼女の母親が生けたのであろう花が、もう萎れてしまい風に揺れている。
垣内は、それを買ってきた新しい花と取り替え、線香に火をつけ墓石と向かい合った。目を閉じて手を合わせる。秋の陽光が背中に暖かい。頭上でカラスがひとつ鳴いた。
垣内は、墓石に刻まれた彼女の名をそっと指でなぞると、立ち上がり、来た道を戻り始めた。
途中、ふと振り向いた彼の目に、彼岸を過ぎ萎れた花ばかりになった共同墓地の中、ひとつだけ、新しい花が生けられた彼女の墓石が映る。
ちょっと誇らしげな由美の笑顔が脳裏を掠め、踵を返した垣内は、まっすぐ前を向いて歩き始めた。
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