第38話 逃走のザイン森林Ⅱ
酷寒の吹雪を発生させた僕は相手を確認した。
アームエイプだ。それもかなり大きい。
通常の3倍ちかくの大きさがあり、僕たちを追いかけるのに邪魔だったのか通った近くの木々はなぎ倒されていた。
体の大きさから体温を奪うには時間がかかる。
酷寒の吹雪でドクトに異常発生と場所を伝えているから時間を稼げればいい。
安全に攻撃をやり過ごせばいいと理性が僕にいう。
だがアームエイプの投擲は脅威だ。
距離は取れない。
かと言って近づけば巨椀が僕を叩き潰すべく振り払われる。
距離を取るか近づくかどちらのほうがリスクが少ないかを考えている内に、アームエイプは僕のほうへ近づきその巨椀を上から叩きつけにきていた。
反射的に横跳びに避けたが叩きつけた際に、地面にあった石がはじけ飛び僕のみぞおちに当たり、衝撃で空気が漏れ息ができず体が一瞬止まる。
アームエイプは叩きつけた腕をそのまま薙ぎ払い僕を狙う。
息が出来ず体が言う事をきかず死を感じたが足がもつれて転げた事でなんとか当たらずに済んだ。
本来離れた距離から投擲で敵を屠る魔獣のアームエイプの肉弾戦がこれほどまでに脅威なのはいくら上位種とはいえ予想外だった。
息が戻り腕がギリギリ届かない距離まで下がる。
投擲のために何かを掴もうとすれば野太刀で斬りかかれる。そういう距離だ。
僕が勝つ必要はない。時間を稼ぎドクトと共闘できればそれで勝てる。
そして時間が経てば経つほど酷寒の吹雪でやつは動きが遅くなるはずだ。
僕も体温を奪われているがドクトが来た際に少しでも有利に事を運べるならおつりがくる。そう考え、持久戦に持ち込もうとしていた。
アームエイプは後ろに下がり腕を振るったかと思うと木々をなぎ倒しその木を掴み投げ込んできた。
石ではなく木。速度は石の投擲ほど早くはないが巨大で当たれば致命的な一撃になる。
僕は木の陰に隠れ体を低くする。
僕を守った木は大きく揺れ木の幹が千切れかかっていた。
不味いと思い別の木へ移動するがまたもや木が飛んでくる。
石のように軽々とかつ容易に投げ込んでくるその巨椀はやはり遠近ともに厄介だった。
木の陰から木の陰へと移動を何度も続けた。
時間は少しずつ経ちややアームエイプの投擲が鈍くなってきた。
アームエイプはしびれを切らしたのかまたもや四足で素早く駆け出し僕に近づいてきたかと思うとその巨椀を人が殴るかのようなモーションで僕を狙い、突き出してきた。僕は後ろ飛びでそれを避け反撃をしようと野太刀を上段から振るおうとすると、アームエイプは拳を開き拳のなかから砂を僕にばら撒いた。
目に入り胴に当たった砂は衝撃が重い。それでも無理やり上段から野太刀を振るう。
斬れた感覚はあるが少し浅い。そんな感触だった。目をやられた僕は斜めうしろに飛ぶと木にぶつかった。そのまま体をこすり付けるように木の陰に隠れ目をこする。
だが中々視界はクリアにならず焦りが生まれてきた。
ドクトはまだだろうか。そんな考えが浮かびながらぼやけた視界で木の陰から木の陰をつたうように移動し続け少しでも時間を稼いでいた。
――馬の掛ける馬鉄の音が聞こえた。
「ジェニン!生きてるか!!!」
ドクトの声だ。
「はい!ですが今目をやられてあまり見えません」
「目を!?大丈夫か!?」
「砂で目つぶしを食らっただけなので時間が経てば大丈夫だと思います!ただこの戦闘ではもう役に立てないかと思います!」
「わかった!とりあえず吹雪を止めろ!あとは俺がやる!木の陰で隠れてろ!」
「わかりました!あとはお願いします!」
答えると同時に酷寒の吹雪を止める。奪われていた体温が止まるのを感じた。
ほとんど見えないがドクトを僕は見る。
魔術を付与した魔道具や剣でうまくいなし、少しずつ剣で傷を与えているのがわかった。
少し経った頃アームエイプは動きが大きく鈍りドクトに背を向け傷だらけの四足で敗走しはじめているようだった。
そしてドクトは剣を収め止めを刺さずに僕の元へ駆け寄ってきた。
「目はどうだ?大丈夫か?」
「はい、少しずつ見えるようになってきました。」
「よし、ダジンと嬢ちゃんが待ってる俺が馬に乗せてやるから行くぞ」
「アームエイプはいいんですか?」
「あいつはもう俺らと戦う気はない。あのまま逃がしておけばうまくいけば追手とぶつかって少しでも時間を稼げるかもしれん」
そう言ってドクトは僕を引っ張り上げ馬に乗せた。
「ダジンさんとニアールは大丈夫でしょうか」
「守衛は全員止めを刺した。魔獣避けを使ってるし詰所の中に隠れさせてるから大丈夫だ」
「お前は自分の心配をしろ。アームエイプと戦った被害はあるか?」
「目つぶしをされてまだ少し視界がぼやけているのと重りのような砂を胴体に食らって少し鈍痛が残っている程度です。全然動けます」
「わかった。詰所に行けば水もあるからそこで目は洗え。胴体はあとで魔法で治してやる」
「魔法?ドクトさんは魔法は使えないのでは?」
「ありゃあ嘘だ。魔法は使える。治癒だけだがな」
「治癒魔法が使えるんですか?確か本で読みましたが使い手がとても少ないと聞いてます」
「そうだ。良くお勉強してるじゃねえか。だから治癒魔法使える奴は基本的にはそれを隠す。いい様に使われたり余計な厄介ごとに巻き込まれたりしやすいからな。俺もその口だ。」
「それならニアールやダジンにばれてしまうのは不味いのでは?」
「あいつらは俺たちなしじゃこの先生きていけねえよ。だからばれても問題ねえ」
「すみません、助かります」
「なあに、国相手に逃げ回るんだ。万全の状態じゃねえと困るだろ」
にやりと笑いながらドクトは僕の頭を兜越しにガシガシと撫でまわした。
「そろそろ森を抜けるぞ。そしたら洞窟が見える」
そう言われて僕は目を擦り、いまだぼやける視界を凝らしてみると洞窟が見えた。
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