第36話 凄惨な街
街には火が立ち上り館の庭には見知った顔の死体。
その中僕とドクトは襲撃してきた兵達と戦っていた。
ドクトは一人、二人と魔術を付与した石で倒し下がる。
倒しても次の兵がまたやってくるからだ。
僕らは倒してはジリジリと下がり続ける。
――どうしてこうなった。
何故話した。ダジンかニアールかどちらかから冬の魔道具の話が漏れたに違いない。
今更考えても仕方のない事が頭をよぎる。
「ジェニン!ポートさんと嬢ちゃんのところへ行け!ここは俺が踏ん張る!やばくなったらすぐ下がるから急げよ!」
ドクトにそう言われ僕は身を翻し庭から館へ走り出す。
何故二人に話してしまったのかそんな無駄な事を考えながら館の中を走る。
ポート子爵の執務室に着くと蹴破るかのように扉を開けた。
ポート子爵、ニアール、ダジンそれと数名の使用人がいた。
「何故…!何故話した!!!」
僕は怒りに任せて叫ぶように二人を睨みつけながらそう言った。
「ジェニン君、二人は話していない。私が国王に告げ口をした」
「そもそも僕はあなたには話していない!!知りようがない!!ダジンかニアールどちらかがあなたに話さなければ!!」
ポートは申し訳なさそうな表情をした後にため息をついた。
「君がニアールに話した書庫には魔術で会話を私が聞けるようにしてある。講義の様子を聞きたかったからだ。そして君がニアールに話した内容を私は聞いてしまった。
王には私が君を囲うための援助を進言したよ。すると王は君を殺して魔道具を奪えと言った。私はそれを断った。結果がこれだ」
「何故…何故話したんですか!こうなる事は目に見えていた!」
「どうして…だろうね…。ドクトが来て魔獣被害が減り、娘には魔法の才があり、うまくいっておかしくなってしまってたのかもしれないね」
諦めた様子で天井を見つめながらポートはそう言った。
「王は恐らく私と娘の首と君の魔道具を狙っている。こうなった以上私は首を差し出すよ。君は逃げるといい。ただ……娘だけは連れて行ってくれないか……頼む……」
絞りだすかのようにニアールを連れて行けというポートに怒りと友人を助けたいという複雑な思いを抱いた。
「待ってお父様!一緒に逃げましょう!」
僕はニアールを無視しポートに言葉を返す。
「当然逃げさせてもらいます。お嬢様は連れて行っても構いませんが追い付かれそうになったりしたら見捨てるかもしれません。それでも良ければ連れていきます」
「ジェニン!お願い!お父様も連れて行って!」
「ニアール!!!私は責任を取らなければならない。街を、友の弟子を売ってしまった責任をだ。それにこれ以上恥の上塗りをすることはできない」
天上を見ていたポートはニアールに顔を向け真剣な表情でそう言った。
「でも……!でも……!」
「お嬢様、僕はあなたを連れていくことはあってもポートさんを連れて行くつもりはありません。着いてくるのは勝手ですが守りもしませんし一切干渉しません」
譲れないという事を伝える。
「ジェニン!どうして!」
「彼は僕の秘密をもらしました。それもこの大陸で一番の大国の国王にです。僕はもうこの国には居れなくなりました。他国に居ても居場所が割れれば下手をすれば戦争が起きます。そういう事を彼はした。だから僕は絶対に彼を許しません」
努めて冷静に、かつ伝わるようにニアールにそう言った。
ニアールは俯きうめくように涙を流していた。
「すまないジェニン……。謝って済む問題ではない事はわかっている。しかしすまない……」
「本当にそうですね。ですので僕はニアールとダジンを連れてドクトさんと合流したらすぐにここを離れます。あなたは少しでも僕たちが逃げる時間を稼いでください。ではさようなら」
そう言い切った僕はニアールの手を取りダジンと目を合わせると一緒にドクトの元へ走り出した。
庭に戻るとドクトが奮戦していた。
「ドクトさん!逃げます!」
「やっと来たか!行くぞ!」
ドクトはそう言うと魔術を付与した石を数えきれないほど投げつけ、同時にこっちに身を翻し走ってきた
「ザイン森林に入り山から国境を抜ける。目的の場所も向こうだ」
敵に聞こえないようにドクトはそう言うと僕らよりも早く走りだし馬を連れてきた。
「お嬢はお前!ダジンは俺が乗せる!いくぞ!」
「はい!」
僕は黙り込み覇気のないニアールを馬に乗せ走り出した。
「探索の時みたいにじっくりはいかねえぞ!強行軍だ!馬の調子にだけ気をつけろ!」
そうして僕たちは1年過ごしたガウミラド街を後にした。
馬を駆けさせる。いつかの時のような焦燥感に追われながら逃げる。
あの時とは違い頼りになるドクトと足を引っ張るであろうダジンとニアールも居る。
最悪ニアールとダジンは捨てる。ドクトは着いて来られる。
そう計算し、走り続ける。
「ドクトさん!馬がそろそろ!」
数刻ほど走らせ、空は暗くなった辺りでで馬が疲れた様子を見せていたのでドクトに報告をした。
「わかった!ここで一旦休ませる!」
そう言い馬を止めた。
僕はニアールを馬から降ろす。
ダジンはニアールを気遣い何か話しかけているようだった。
「ドクトさんどうしますか。山手側はかなり強い魔獣がいるんですよね。ダジンとニアールを連れて越せると思いますか?」
「幸い俺の魔道具の準備は万端だ。できる限り接敵せずに逃げる事を優先すれば嬢ちゃんの体力次第ではあるが多分いける……があの様子のままだと怪しいだろうな。気力のほうが足りてねえ。まあそんだけショックがデカかったんだろうが今のままだと駄目だな。まあそこはダジンがどうにかするだろ。とりあえず悪いが俺は休む。お前が先に見張りだ。」
「わかりました。僕のほうでも多少話をしてみます」
「おう、んじゃ寝る。適当に起こしてくれ。そしたら交代だ」
「はい、おやすみなさい」
さて、ニアールにどう声をかけたものか。
僕は彼女の父の首を取るとまで言ってしまった。
僕が話しかけて彼女のプラスになるだろうか。
そう思いながらも気づくと僕は彼女に話しかけていた。
「お嬢「ニアールでいいわ。もう私は貴族の子じゃないもの」」
僕が話すのにかぶせるようにニアールはそう言った。
「ではニアール、ポートさんの件は残念です。そして僕は冬の魔道具の事をあなたやダジンさんに話すべきではなかった。すみません」
「どうしてあなたが謝るの。悪いのはお父様よ……。頭ではわかってる。だけど今はあなたが憎いわ。少し時間を頂戴。」
苦虫を嚙み潰したような顔で彼女はそう言った。
「わかりました。次の馬での行軍もニアールはドクトさんのほうに乗せてもらうように話しておきます。」
「ええ……お願い……」
そう言うとニアールは背をこちらに向け横になった。
「ジェニン、お嬢様には私から話しておいたので少し時間があればまた元の友達に戻れると思います。それまで少し時間をあげてください」
ダジンが申し訳なさそうに僕にそう言った。
「感情と理性のバランスが取れないのはよくわかります。僕もそうですから。冬の魔道具の事を二人に話したかった感情と話すべきではないという理性の葛藤がありました。結果としては話すべきではなかったのでしょうけれど感情は話してよかったと思っています。」
「そうですか…。話してよかったというのは信頼してくれていたと受け取っても?」
「もちろん。友達に秘密を打ち明けたいと思うのは当然でしょう?」
「なるほど。それならまだうかばれます。それと私の事もダジンと呼び捨てにしてください。お嬢様に呼び捨てなのに私に敬称がつくのはおかしく感じてしまって」
「わかりました。ダジン。もう休んでください。馬の疲れが抜ければまた行軍です。それとニアールはドクトさんの馬に乗るのでダジンは僕と馬に乗る事になります」
「そのほうがいいでしょうね。わかりました。ではおやすみジェニン」
「えぇ、おやすみダジン」
――僕は暗くなった視界の中周囲を警戒しながら木の根に腰掛けた。
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