第35話 第二の転機Ⅱ
ダジンとの秘密の交換会が終わり顔を拭いた僕は書庫で、半ば日課になっている読書をしていた。
本は素晴らしい。知らない知識をどんどん蓄えられる。
冬の魔道具が狙われる理由もよくわかった。
魔術を付与したものを魔道具と呼ぶらしいがどうやら基本的に一度使うと効果が切れてしまい、再度付与しなくてはならないらしい。
中には重ね掛けをすることで複数回使えるものもあるらしいが重ね掛けは難しく付与できる者は滅多にいないという。
そして冬の魔道具は効果は絶大で使用回数に限度はない。体温を消耗するというデメリットはあるが通常の魔道具と比べれば破格すぎる性能だ。
これを使いこなせれば街一つ一人で全滅させられる。そんな魔道具は僕が今読んだ本の中には存在しなかった。
この魔道具の存在を知れば狙う者が現れるのも当然の話であった。
だからこそ僕は冬の魔道具を守らなければならない。そう再認識できた。
本を読み終わりそろそろ部屋に戻ろうかと本棚に本を戻しているとニアールが書庫に入ってきた。
「こんにちは、お嬢様」
「え、えぇ」
何やらおかしな様子だ。
いつものようなしたり顔ではなく、珍しく少しおどおどしたような表情。
「お嬢様は魔法の勉強に?」
よくわからないがとりあえず話題を振ってみる。
「いいえ、あなたに用があって来たの」
いつものようなしたり顔になり堂々とニアールは言った。
「僕に?」
「えぇ、ダジンから聞いたわ。ダジンの秘密を聞いたそうね」
「はい、先ほど聞きました」
「ダジンの話を聞いたならわかると思うけれどあの内容は普通なら人に口外する事じゃないのはわかるわよね?」
「はい、勿論墓場まで持っていくつもりです」
そう答えると満足そうな表情をした後ニアールは意を決したかのように僕に話しかけた。
「相談事があります。私のこれもダジンの事同様他人に話してはいけません。お父様にも話さないで。知ってるのはダジンだけよ。いいかしら?」
どうやらダジンが一肌脱いでチャンスをくれたようだった。
「かまいません。ですが話を聞く代わりといってはなんですが僕の秘密をお嬢様に打ち明けようと思います。これはダジンさんの時にもしたものです」
「いいわね、聞くわ。でも私のほうから話させてもらうわ」
「わかりました」
ニアールは僕の対面に座ると話し始めた。
「私は貴族の娘だからそう遠くない未来にいつか結婚させられるわ。私はそれが嫌なの。だから色んな事をしてお父様を困らせたりしたりもしたし、今も魔法や魔術、チャントを習って兵を率いる存在になろうとしたりしてるの。けれどお父様は私がわざとそう言う事をしているのに気づいてる。縁談を持ってくれば私は嫌々でも受け入れる事を見透かされてるの。ジェニンはどうすればいいと思う?」
「難しいですね……。僕なら多分素直に受け入れてしまうので」
「どうして?好きでもない相手と結婚して、好きな事ができなくなるのよ?」
「僕もある意味似たような立場だからでしょうか。ここからは僕の秘密の話になりますが僕がいつも肌身離さず持ってるこの魔道具には凄い力があります。これを守るために僕の育った故郷の里は存在しました」
「存在したってどうして過去形なの?」
「僕を除いて滅んだからです」
「えっ……」
「本当は養子だったんですが僕は里長の子として育てられて冬の魔道具の守り手として育てられました。それは義務でしたが僕はそれが嫌ではなかったですし誇らしかったのでお嬢様の立場ならそれを多分受け入れてしまいます。でもお嬢様はそれが嫌なんですよね?」
「そうよ。私は自由に生きたいの。色んな所に行って色んなものを見て感じて、け…結婚相手も自分で選びたいわ」
やや俯きながらどもりつつもニアールはそう言った。
「でしたらそれをポート子爵に直接話すしかないのでは?」
「無理よ。一度話したけれど、いつかわかる日がくると言って先延ばしにされただけだったわ」
「では縁談の話が持ち上がる前に出家してこの街を去るしかないですね」
「そう!それなの!だからあなたに話がしたかったの!」
突然凄い勢いで身を乗り出してきたニアールに僕は驚き椅子が後ろに倒れかけた。
「おっと!ふぅ……。それで何故家を出る話から僕に?」
「あなたとドクトは旅をするのよね?それに連れてって欲しいの!私の縁談は十八まで待ってもらえるわ。あなた達がここを出る時に一緒に連れてって!」
「それは……僕というよりはドクトさんに話したほうがいいです。僕は冬の魔道具を守るためにある場所に行った後は一人で旅をするつもりなので」
「ドクトに……あの人に話してもなんだかのらりくらりかわされそうだからあなたに話したの。お願い……」
「それじゃあ僕からドクトさんに話を通すというかたちではどうでしょうか?必ず約束を取り付けられるとは言いませんがお嬢様が話すよりかは可能性はあると思います」
「わかったわ。それでいいからお願いできるかしら?」
「はい。あと僕の魔道具についてですが詳しいことはダジンさんから聞いてください。ただ絶対に口外しないでください。間違いなくお嬢様やこの街にとって悪い事がおきます」
「ええ、わかったわ。それじゃあジェニンよろしくね!」
嬉しそうにニアールは書庫を出て行った。
「僕も自室に戻ろう」
ぼそりと呟きながら椅子を戻し僕は自室へと足を向けた。
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