第33話 友人Ⅵ

部屋に戻ると二人は魔法の話に花を咲かせているようだった。


「おまたせしました。お嬢様、アガットさん」

「思っていたより早かったわね。なんのお話だったの?」

「僕の任期が終わり、用事が終われば私兵として戻ってきてほしいというお話でした」


「そうなの!良かったじゃない!戻ってくるのよね?」

嬉しそうにニアールが声をあげる。


「いいえ、有難い申し出でしたが僕にはやる事があるのでここには戻ってきません」

「どうして?ひとり立ちしたら帰ってくればいいじゃない!ダジンも私も……いる

わ」


語気を荒げたと思うと尻すぼみにニアールがそう言った。


「僕のやる事は数か月や数年で終わる事ではありません。人生を、生涯をかけるものです。なので戻ってこれません」

「人生を……、あなたの歳で何をそんなにも……。」

「詳しい事は言えません。でもそれはお嬢様のやダジンさんと今の関係を保つためです。話せば僕はここを去らないといけなくなります。」

「……わかったわ。でもいつか教えてもらうわ」


納得をしていなさそうな表情のニアールに僕は困った。


「わかりました。でも恐らく僕の事情を話すことは不可抗力以外ではありません。なので諦めたほうが気が楽になると思います。それだけは言っておきます」

「私、負けず嫌いで諦めが悪いの!だからといって無理やり聞き出そうとしたりはしないからそこは勘違いしないでね!」


勝ち気な表情でニアールはそう言う。意地になっているようだが僕は話さないと決めている。

ドクトの時は心にも体にも余裕がなく父上の名前を出された事もあって話してしまったが他の誰かにもう事情を明かすつもりはない。

ドクトとも魔道具が使えるようになれば離れるつもりでいるのだ。

これ以上事情を知る者を増やす理由がない。


「わかりました。それはそれとしていつもの話をしましょうか」


そう僕は話を切り替えた。


「そうね。では頼むわ」


そうして僕はいつも通り話をし時間を過ごす。

アガットとニアールが去り、僕は隣のドクトの部屋へ向かう。


「ドクトさん居ますか」


ノックをしながらドクトをよんだ。


「あん?ジェニンか入っていいぞ」


ドクトは机に向かい何か作業をしているようだった。

ドクトの腕の傷が癒えている。


「ドクトさんその腕……」

「お前の時と同じだ。いくらか制約がある。俺は傷の治りが早いって事で名が通ってるから治したけど、お前のは治さねえぞ」

「わかりました。それより相談があってきました。ポート子爵の件は断る事ができました。ただお嬢様のほうが僕の事情を知ろうとしてきてまして……。興味本位でないのはわかるんですが正直困ってます。ていよくあきらめさせる方法はありませんか?」

「無いことはねえけど話しちまえばいいじゃねえか。適当に嬢ちゃんの秘密とか悩み事とかを話すのを条件にお前も話しちまえ。言ったろダチは大事だって。ダチってのは大事な事を共有できるやつの事を言うんだ。お前はダチのつもりかもしれねえがダジンや嬢ちゃんからすれば距離取られてて本当に友達か不安だと思うぞ」


確かにダジンやニアールからすればその通りかもしれない。


「でも冬の魔道具について簡単に話すわけにはいきません。僕個人の私情ならそれで話せます。けれど冬の魔道具は僕個人の問題ではありません。西の果ての里全体の問題です」

「違う。お前の話では西の果ての里は滅びたんだろ。ならもうお前個人の問題だ」

そう……かもしれない。けれど僕の冷静な理性は話すべきじゃないと言っている。

「あとはもうお前が気を許すかどうかなんだ。俺のように冬の魔道具に全く興味のないやつは少ないかもしれねえが話してみねえとわからないんだ。裏切られるかもしれねえしそいつを欲しがるかもしれねえ。だがお前と縁を持ちたいと思ってくれてんだたまには打算抜きに話してみろ。もし話して冬の魔道具が取られそうってんなら二人でとんずらここうや」


ドクト笑いながらそう言った。

理性はやめろと言うが感情は誰かに話したがっている。ずっとずっとだ。

ドクトに冬の魔道具を知られた時は背筋が凍ったが、ある程度信頼がおけると分かった時は間違いなく心が軽くなった。


「少し考えてみます。作業中にありがとうございました」

「おう、悩め悩め。けど俺は話すのがおすすめだ。んでついでにお前作業見ていけよ。今やってんのは道具に魔術を付与してるところだ。お前興味あるだろ?」


にやりと笑いながら僕にそうすすめてくれる。


「はい!今はどういう魔術を付与しているんですか?」

「これはただの石ころを砲弾みたいな威力にする魔術だな。ごつごつしてて書きにくいが魔術の魔文を今書いてるんだ」


そう言いながらドクトは糸のように細いペン先で、器用に石に僕には読めない文字を書いている。


「うし、できた。これをあと2個作る。見てろ」

そう言ってすらすらと書きあっというまに書き終えていた。

「これがあれば単独で魔獣の群れと出会っても屠れる。亜種や上位種もかなり楽に倒せる。他にも何個か用意があるがそこは追々だな。俺は明日から探索を再開する。お前は嬢ちゃんやダジンと仲良く勉強してろ。んで機会があれば冬の魔道具の話をしろ。」

「勉強はします。けど魔道具の話は少し考えます」

「はいはい。んじゃ部屋戻って寝て少しでも早く傷を治せ」

「はい、それじゃあ探索はよろしくお願いします」


僕はそう言いながら部屋をでる。


「あいよ」


ドクトは後ろ手に手を振っていた。

僕は笑いながら自分の部屋に戻った。

ベッドに横になると眠気がさしてきた。

気が緩んでいるのか怪我のせいか最近よく眠ってしまう。

そんな事を思いながら僕は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る