第30話 友人Ⅲ
僕はどうやら浮ついているようだ。
里出て以降初めて目にする物に浮きだつ事はあったがここまで心が浮き立つのは初めてだった。
里でも魔法の存在は知っていた。だが使える者はおらず知識のある者も居なかった。
だからか実際に魔法を目にし、知恵を授けられる機会を得て僕はとても興奮している事を自覚していた。
そして興奮しているのは僕だけではないようだ。
横を見てみるとニアールも興奮しているようで身を乗り出すかのように話を聞いていた。
ダジンも少し身を乗り出しており彼もどうやら楽しんでいるようだ。
そして始まった座学。
魔法には属性なるものがあるそうだ。
火、水、土、風、それと分類不明のものがある。
初歩の魔法でフィーリングに合う属性を探し、自身の修めたい属性を極めるのが大事らしい。また気に入られた精霊の属性を選ぶといいらしいが一般人が使う上ではそこまで考えなくてもいいそうだ。魔法使いとして習熟したい者や傭兵のように命をかけた場で魔法を扱う者ぐらいだそうだ。僕は魔法が使えればきっと後者になる。
そして複数の属性に手を出すと器用貧乏になり、実用性が落ちてしまうのが通例らしい。
そのため魔法が使えるものは最初にどの属性を選ぶかが魔法を使うものとしてとても大事な要素になるとアガットは言う。
そして一番気になっている事についてアガットに僕は聞いた。
「あの、魔法が使えるかどうかの適正はどうやって調べるんですか?」
既に適正があると分かっているダジンは落ち着いていたがニアールも気になっているようで頷いて聞いていた。
「私が今から精霊を呼びます。そしてその精霊が魔法を扱うにふさわしいと判断すればジェニン様、ニアール様のもとに近づいていくでしょう」
「分類不明のものはどうなるんですか?」
「分類不明の魔法は元から使えたりある日を境に急に使えるものなので適正診断では
わからない属性になります。ですので気にしていただくのは火、水、土、風の四属性の精霊に気に入ってもらえるかが肝要です。では早速呼んでいきましょう」
「サラマンダー、ウィンディーネ、ノーム、シルフ」
アガットがそう呟くと親指程の大きさの、赤いトカゲ、魚の尾を生やした人、小人、緑の蝶が現れた。
「それぞれサラマンダー、ウィンディーネ、ノーム、シルフと言います。彼らが皆様のもとに近寄っていくことでしょう。」
彼らは何故よばれたのかを探るかのように部屋中を動きまわる。
そしてダジンの元にノームとシルフが駆け寄りダジンの周りをヒラヒラと舞う。僕とニアールはその様に見とれているとサラマンダーがニアールの元へより頭を首にこすり付けていた。
僕のもとには何がくるのかワクワクしながら待つが誰も来ない。
気づくと精霊達は消えていた。
アガットが気まずそうに口を開く。
「ダジン様はノームとシルフとの相性がニアール様はサラマンダーと、そしてジェニン様は、その……魔法の適正はありません……。」
とても言いにくそうだった。
そして僕はとても落胆した。
チャントを諦めさせられ、魔法と魔術でと思えば、魔術は情報が秘匿され、魔法は扱えない。冬の魔道具を守るにいはもう剣しかないという事実。手札がこれ以上増えないのだ。
これ以上なく僕は僕に落胆した。
冬の魔道具の守り手として不十分と言わざるを得ない。父上も魔法も魔術もチャントも使えなかった。
だがそれは冬の魔道具も扱えておりどれも必要がなかったからだ。
僕は違う。冬の魔道具は扱えず体はまだ未発達で身体能力は大人に劣り、魔法は使えずチャントも使えない。
魔術は使えるかもしれないが戦いが扱える知識は得られるかわからないときたものだ。
剣しかない。ドクトに相談しよう。
期間がどこまで短くなるかは不明だが最長三年も無駄にはしてられない。
「ジェニンは剣の腕が優れているではありませんか。オルトロスを一人で倒せるほどに優れているのですからそれを伸ばせばいいでしょう」
「ちょっと、ダジンそれは私が言おうと思ってた事よ!別にあなたが魔法やチャントが使えなくても私達があなたに使ってあげればいいんだから気を落とさないで」
「たしかにお嬢様の言う通りですね。私達がカバーすれば丁度いい」
考え込んでいた僕が相当落ち込んでいるように見えたのかダジンとニアールが優しい言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます。でも僕は傭兵としての任期が終わったらここを出ていくつもりなので独りで戦う方法を身に着けます」
「出て行ってもドクトとは一緒なんでしょう?ならドクトに頼ればいいじゃない。チャントと魔術は使えるってお父様に聞いたわよ」
ニアールはどこまでも優しい。
「今は弟子として一緒に居ますが数年もすれば一人立ちします。なので僕は独りで戦える力を身に着けたいんです」
「先を……考えているのね……」
ニアールは何か思うところがあるのか少し考えてる様子でそう言った。
そんな様子のニアールに僕は何となく親近感を覚え少し仲良くなりたいと思ってしまった。
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