第29話 友人Ⅱ
「ニン……、ジェニン」
ドクトの声だ。
目が覚めた。
「おはようございます。ドクトさん。」
「おう、よく寝てたな。気分はどうだ?」
「良くもなく悪くもなくといったところでしょうか」
「その傷で悪くなければ上等だろ」
からからと笑いながらドクトは言う。
「どうして僕の部屋に?」
「いやほら、腕がこれだろ?仕事ができなくて暇だから館をぶらぶらしてたら、お嬢ちゃんとダジンがお前の部屋の前で立ってるからよ。話を聞いてみたらお前が寝坊してるって言うから俺が起こしに部屋に入ったってわけだ」
「それ二人は気を使ってくれてたのにドクトさんは無駄にしたって事ですよね……」
「ははッ、そう言うなって。俺たちの仲じゃねえか」
「まあ…構いませんけれど」
「ところで聞きたい事があります」
「お、なんだ?」
「どうして僕は生きているんですか?」
「どうしてってそりゃあお前がオルトロスを殺したからに決まってるじゃねえか」
「そういう事ではなく僕の左腕はかなりの深手でした。町までの三日も持つような傷ではなかったと思います。にもかかわらず生きているのは何故ですか?」
「お前は本当に目端が利くなあ。しゃあねえな。」
そう言うとドクトは距離を詰め声を少し落として話し始めた。
「俺の魔術だ。お前はまだ魔術や魔法の知識はまだてんでだから説明は省くがお前の傷を少し癒した。癒したからお前は重症ではあるが死ぬほどの傷ではなくなった。だから生きている。そういう理屈だ。そんで俺が魔術を使える事を隠す必要はないが傷を癒した事は誰にも言うな。これも例の場所に連れてく条件に追加する。いいな?」
ドクトは真面目な表情からそう言い切るといつもの呑気な顔に戻った。
「そんじゃ、ま、元気ならお勉強だ。嬢ちゃーん!ダジン!起きたぞー!」
ドクトは扉のほうへ歩きながら声を上げた。
ノックの後二人が入ってくる。入れ違いにドクトは出て行った。
「おはようジェニン、気分はどう?」
「フフッ…」
「人が傷の心配をしてるのに何が面白いの?」
少しむっとしながらニアールは僕に言った。
「すみません、先ほどドクトさんにも同じ事を聞かれたのでつい」
そう答え、笑った事で肋骨の痛みを我慢した。
「その様子なら今日の講義は問題ないわね。ダジン、アガットをよんできてちょうだい」
「はい、お嬢様」
そういうとダジンは部屋を出た。
「ねえ、ジェニン」
「なんですかお嬢様」
「授業までの間あなたの事や領地の外の事を教えてちょうだい。私この領地から出た事がないの」
「構いませんよ。けれど僕もお嬢様とそんなにかわりません。故郷を出た後はほとんどここへ直行したようなものなので。それでもよければお話しますよ」
「かまわないわ。教えてちょうだい」
それから僕は里の事をぼかし寒い地域に住んでいた事にして話す。
ドクトと出会い弟子にしてもらうためと偽り、ヴァナホッグ森林でダイアウルフ亜種を倒した事を話している途中、ノックの音。
ダジンが戻ってきた。
「失礼します。アガット様をよんでまいりました。」
そう言いダジンが部屋に入ってきた。
少し遅れて女性が入ってくる。50半ばぐらいだろうか少し白髪交じりの金髪。僕よりも少しばかり背が高く眼鏡をかけている。歳の割には背筋はピンと伸び立ち姿が綺麗な人であった。
「ジェニン、彼女はアガット。アガット、こちらはジェニン。お父様の客人よ」
「かしこまりました。ジェニン様アガットと申します。よろしくお願いします」
「アガットさん、こちらこそよろしくお願いします」
「挨拶は済んだわね!それじゃあ早速講義をお願い!」
少しウキウキとした様子でニアールが講義を求めていた。
きっと楽しみにしていたのだろう。僕に合わせると言った手前自分だけ受けるわけにもいかずに我慢していたに違いない。
僕は静かに苦笑した。
アガットから魔術と魔法の違い、基礎の説明があった。
魔法は己の持つ魔力とその空間にある魔力を使い特異な現象を起こす事を指すらしい。
魔術は魔法と違いあらかじめ何かしらの道具に込められた魔法を行使する事を指す。魔法が使えないと魔術も使えないように感じるがどうやら魔術は体系化された魔法を詰め込んだものらしく魔法が使えなくても、魔法を詰め込めるし行使できるらしい。デメリットとしては一つの物体に対して一つの魔法しかこめられない。
その物体の魔法との親和性によって、込めた魔法の精度や効果が変わるとの事。
メリットもあり魔法としては行使できない現象や道具としてストックできるため魔力を消費せずに使える。
だが当然ながら魔術は相応の知識が必要になる。そしてその知識は秘匿されている事が多く一般的に魔術は大した魔法を行使できないものとして認知されているようだ。
これらの事をアガットは実践しながら僕たちに教えてくれた。
そして魔法は才能、魔術は知識という合言葉のような事も言っていた。
どうやら魔法は才能ですべてが決まるが魔術は知識があればだれでも扱えるという事らしい。
とはいえ魔術の知識は秘匿する者が多いため使えてもあまり実践的でないものが多いらしいので使えても自身で研究するか大金をつぎ込んでその知識を買うしかないらしい。
そして買った知識が正しいかどうかもわからないという。自身がその知識を理解しきれずに使えていないだけというパターンもあり魔術は一般的には廃れ始めているそうだ。
ひとしきり基礎の基礎を話し終わったアガットは僕たちがここまでついてこれているか確認するかのように様子を窺がった。
大丈夫な事を確認できたのか満足げに話を続ける。
まずは数か月魔法からの勉強を始めるようだ。
魔法にも多くの種類があるらしい。
何から学んでもかまわないが基本的には生活に使える水や、火の魔法を使えるようにするのが王道でセオリーのようだ。
僕は久しぶりにワクワクしていた。
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