第28話 友人
僕は事実上この館から出る事ができない。
できるとしても事が落ち着き密偵が居なくなったであろうかなり先かあるいは密偵がが来る前の今しかない。
だが今は怪我をしており当然ながらダジンが部屋から出してくれる訳もない。
ドクトがどれだけの速度で任務を終わらせられるか、終わらせる気なのかはわからないが少なくともある程度の長期間は軟禁状態になる。
ドクトはその期間に学べと言っていた。
魔法を。魔術を。言われずともそうするつもりではあったがやる事がこの二つ。
いや友人作りもあったか。いや三つあった。
そういえばあの傷で何故助かったのかをドクトに聞くのを忘れた。
あれこれ考えているとノックがあった。
「どうぞ」
「入りますわよ」
「失礼します」
ニアールとダジンの声がした。
二人が部屋に入り椅子に座る。
「どうされましたか?」
僕は二人にそう聞く。
「明日からの勉強についてのお話をしにきました」
ニアールが答えた。
「明日から?」
「別に明日からじゃなくて少し休んでからでもいいけれどあなた怪我で動けなくてお暇でしょう?」
その通りである。ダジンの許しがあれば街に出たいと思わなくもないが間違いなく怒られる。
「そうですね。正直暇ですね。できれば鍛冶場に新しい剣を頼みに行きたいぐらいですね」
チラリとダジンの顔を窺がうが首を傾げている。これは駄目そうだ。
「なので魔法と魔術の勉強を明日から始めようとダジンと話し合いました」
「お嬢様はもう学び始めたのでは?」
「いえ、お嬢様からジェニンと一緒にスタートすると希望があったのでまだです」
「どうしてまた?」
「だって、あなたが帰ってきて授業をまた始めたら私二度も同じ内容聞かされるのよ?時間の無駄じゃない?それなら一緒に0から始めたほうが効率がいいでしょう?」
「との事です。実際はジェニンの事を心配しており私兵を投入して早く帰させてくれないとやらないとおっしゃっていました」
「ちょっとダジン!」
ニアールは声をあらげダジンを睨んでいた。
「こう言ってはなんですがお嬢様と僕はチャントの授業を受けたぐらいの仲だと思うんですがどうしてそこまで気を使ってくださったんですか?」
「別に気を使ったわけじゃないわよ!ただ……、自分より年下の子が一人で魔獣の多いザイン森林の奥に行くなんて間違ってると思ったからよ……」
ニアールはそう言い口をとがらせていた。
「なるほど。でもありがとうございます。きっとお嬢様がそう言ってくれたお陰で、ドクトさんがポート子爵の兵と共に僕を助けに来られたんだと思います」
ドクトなら一人で僕を助けに来ていただろうが他にが居たのはそういう事だったのか。そう合点がいった。
「それと言葉が堅いわ。私のほうが年上だけれどもう少し何とかならない?その、と…友達になるなら少しくらいくだけて話してもいいのよ」
ニアールはやや口どもりながらそう言った。
「今は実質客人状態ですが僕は雇われた身なので雇い主のお嬢様にはある程度敬意を払わなければいけないと思っていまして」
嘘だ。ドクトに友人は大切だと言われたが大切な人を増やすのが怖くて距離を取ろうとしているだけだ。冷静な理性も親しい者が増えるのはリスクにしかならないと言っている。
「でもあなたの師匠はお父様にすごく馴れ馴れしいじゃない。私に対してもそんなに敬意を感じる態度じゃないのだけれど……」
困惑気味にちょっとしたクレームを僕に言われた。
「それは確かに……そうですね……。でしたら一旦保留で少し考えさせてください」
「そうね。明日から長い付き合いになるのだし、今すぐ口調を変えろと言われても難しいでしょうしそれでいいわ。あとダジンに対してもできれば同じようにくだけて話すといいわよ」
「わかりました。そっちも一旦保留でお願いします。それで明日からの勉強ですけどまた書庫に行けばいいんでしょうか?」
「あなた怪我してるでしょう。私とダジン、講師がこの部屋に来るわ。体調が悪ければ先送りにするからきにしなくてもいいわ」
「なんだか気を使わせてしまってすみません。ところでダジンさんは護身術のほうはいいんですか?」
「私はどうやら魔法に適正があるらしいのでそちらは最低限になりました。とはいえ肉体トレーニングもありますし空いた時間には訓練に参加しています」
「それは大変じゃないですか?仕事に魔法に訓練すべて掛け持つのはかなり厳しそうですけれど」
「ジェニンが先日無理した一件よりは楽でしょうね」
二コリとあてこすられた。
ぐうの音もでない。
「そ、そうですね……」
「よしなさいよダジン。あまりいじめるとかわいそうだわ」
ニアールが呆れながらストップをかけてくれた。
「フフ、すみません。ジェニンは弄り甲斐があって少し」
ダジンは少し愉快そうに笑っていた。
「それじゃあ今日はまだ目が覚めたばかりだしお暇するわ。また明日ねジェニン」
そう言いニアールはダジンと部屋を出ていく。
「はい、お嬢様、ダジンさんまた明日」
僕は布団に倒れ込み目を瞑ると意識はすぐに溶けて消えた。
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