第25話 魔獣の森Ⅴ

ドクトと別れ僕は馬を駆けさせる。

陽が落ち始めたため僕は一度馬を止め地図で野営の候補地を確認する。

半刻もかからない程度の所に候補地があったためそこに向かう。

その間魔獣と接敵する事もなく素通りできた。素通りはできたが、多くの見た事のない魔獣や魔性植物ばかりであった。

全て初見。もし接敵、あるいは追走された場合苦戦は必至だった。

折れた両刃剣捨ててきた。例のごとくできる事は突きと切り上げ。

そして最終手段の酷寒の吹雪。酷寒の吹雪を使う時は本当に死ぬ可能性を感じた時のみだ。これを選択肢には入れない。使う事を選択肢に入れてしまうと最後の手段を使う天秤が軽くなってしまう。

僕の使命はあくまでも冬の魔道具の守り手なのだ。

その過程において僕は強くなる必要がある。だからその経験を積むために今馬を走らせている。知るためだ。修羅場の経験を、魔獣の知識を、肉体の限界を、精神の限界を。

使

何故ならポート子爵が僕を囲おうとしている。三年あれば情も沸く、外堀も埋められる。下手をすれば他の貴族に僕の名前を出し自分が唾を付けている事アピールする事もあるかもしれない。

その前に原因を僕が直接終わらせる。

そして予定を前倒しして冬の魔道具を扱えるようになるためだ。原因を特定するだけでは終わらせない。そのためにドクトと離れた。

酷寒の吹雪を使ってでも原因を狩る。


そう改めて決意を固めていると野営候補に使える大木の洞穴があった。

馬を止め、降りるとあらかじめ渡されていた上位種の臭いが込められた瓶を開け、魔獣避けとして使い一息つく。

洞穴の中を見ると椅子とカビた毛布が置いてあった。恐らく領の兵達が昔使っていたのだろう。椅子に座ろうとするが足が腐っており倒れ込んでしまった。

やや腹が立ったが座り込み干し肉と水を口にし壁を背に僕は浅い眠りについた。


目が覚めると外はまだ暗かった。僕は馬の様子を確認する。

昨日はここに着いてすぐに寝てしまったため怪我や疲労具合のほどを見るが傷は無さそうだった。疲労具合は正直見てみるだけでわからなかった。馬という生き物についての知識と経験が足りなかったからだ。

だが傷が無い以上、外が明るくなれば走らせる。

僕は明るくなるまで目を閉じる。眠りはしない。だが体を休める事だけを考えていた。

少し経った頃、かすかに街の方角から魔獣の遠吠えが聞こえた。

恐らくハイエナ、森に入って浅い所だろう。外は少し明るくなり始めていた。

山手の魔獣が活発化する前に僕は出発の準備を済ませ馬に乗る。馬の足取りは軽く多分疲労はそこまでないと思う。


そして出会った。亜種だ。


アームエイプ。腕の数が違う。四本。それも背中から生えている腕はとても長い。

僕の野太刀程ではないがそれでもかなり長い。投擲の準備が終わる前にと、僕は馬から飛び降り、駆け出し、距離を詰め、野太刀を引き抜き突き上げた。

だがアームエイプの亜種はそれを横跳びに避け、長い腕で僕を叩きつぶそうとしてきた。こちらも負けじと半身になり避けると突き出した野太刀を横に薙ぎ払う。

アームエイプは短い右前腕で刀身を上から叩き落とし僕をもう片方の左前腕で僕を掴もうとする。

僕は叩き落とされた野太刀の衝撃を活かし、重心を下げ左前腕の下を滑り込む様にして避けながら左前腕を野太刀で斬り落とす。

ほんの一瞬ひるんだが、避けた先には左後腕が僕を叩きつぶそうと拳を振り上げているところだった。

僕は身を翻し斬り落とした左前腕の傷口のほうに駆け傷口に蹴りを入れる。痛みでアームエイプが怯んだ隙に股の下に野太刀を滑り込ませ斬り上げた。

アームエイプは縦に体が裂けて絶命した。


木に擦り付けるようにしてアームエイプの血を拭くと僕は馬を探す。走って行ったほうに少し歩くと馬が怯えた様子で立ち止まっていた。

そして僕を見つけるとぱかぱかと駆け寄ってきた。頭を撫で馬に乗る。

早く移動をして他の魔獣との接敵を避けたかった。


馬に乗り走り続け、陽が真上に上がった頃だった。


それは現れた。頭は鳥だが嘴には牙がついている。翼には鱗と鋭い爪。そしてキマイラのように蛇の頭のついた尻尾。だが尻尾には鋭い鱗が生えていた。

間違いない強敵だとわかった。

恐らく昨日戦ったキマイラよりも強い事を悟った僕は、ノータイムで酷寒の吹雪を使った。。

このザイン森林で雪は降る事はない。だからこのキマイラもどきは吹雪に驚き、寒さでひるんでいた。その瞬間僕は野太刀を抜き突き出す。

キマイラもどきは酷寒の吹雪の中、かつ怯んでいたにも関わらず反応し回避しようとする。


片翼に刀身が突き刺さった。


反撃を受ける前に僕は下がりながら野太刀を抜いた。そして僕は持久戦に持ち込む。酷寒の吹雪で凍死、あるいは体温低下で動きが鈍くなるのを狙っていた。

キマイラもどきは突き刺された事が逆上したのか尻尾で噛みつきを繰り出し両翼を振るい、叩きつけ、牙を突き立てに来ていた。

尻尾は野太刀で受け斬り落とし、両翼は身を低くし避け、横跳びに避け、相手の懐に飛び込み牙からの脅威を避ける。

キマイラもどきはより腹を立てたようで力任せに暴れだすが少しずつ動きが遅くなっていく。

動きが遅くなり始めたと思うと一気に速度は消え失せた

。僕は酷寒の吹雪を解き、速度を失ったキマイラもどきを斬り殺した。

キマイラもどきから大量の血が出ている。

酷寒の吹雪、冬のマントで体温を失っている僕は体に気だるさを感じているが刀身の血を落とし馬に乗り走らせる。

気を抜くと馬から落ちてしまいそうな状態ではあるが少しでも死体から距離を取りたかった。


一刻程我慢をして走り続けた所で少し開けた所があったので馬を止め、失った体温を得るために食事を多めにとる。

ドクトが食料を全て寄越してくれたのは本当に助かったなと感謝をしながら一噛み一噛み咀嚼をした。

半刻程休んだだろうか。腹は膨れ冷えた体も温まっていた。

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