第24話 魔獣の森Ⅳ
森に入るとアームエイプとアウルベアが戦っていた。
「マジかよ。」
ドクトが呟いた。
「何か不味いんですか?」
「ああ、本来森や平原にいる魔獣達は縄張り意識が高い。そいつらが争い始めている。しかも一日二日で事態が変わってやがる。こりゃ原因は相当厄介な可能性が高いぞ。」
どうやら想定していたよりも事態は深刻なようだった。
「さっき行きは魔獣を無視するって言ったが気が立ってるやつらは下手すりゃ追いかけてくるなこりゃあ。その時はやるぞ。」
「わかりました。」
そう会話しながらアームエイプとアウルベアを横切っていく。
「落ち着いてるな。ぶっつけ本番だろその剣。」
僕の両刃剣を見ながらドクトが言う。
「ええ、でもやれますよ。」
「頼もしいことだ。お前が経験詰んで育ったら俺のほうが弟子になっちまいそうだ」
にやりと笑いながらドクトはそう言った。
アームエイプを横切る。アウルベアを横切る。死体に群がるハイエナを横切る。そしてまたアウルベアを横切る。
そして見た事のない魔獣を横切る。
一瞬だったが観察をした。
きのこのような見た目をしており色は毒々しい紫色手足はないが這うようにして動いていた。
「気づいたか。あれは魔性植物だな。本来は擬態してもっとわかりにくい。動くのは自身の出す菌で獲物をしとめた時だけなんだが……。習性を無視して行動するやつらが多すぎる。」
「三日で目標の奥地まで辿り着けるか怪しいですね。」
「ああ、魔獣は無視して移動する想定で三日だったがこりゃあ魔獣達の足止めを食いそうだ。」
長丁場になりそうだが大丈夫落ち着いている。問題はない。
「とまれ!!」
ドクトの叫び声を聞き、綱を引いて馬を止めた。
「どうしました?」
「トレントだ。あそこだ見ろ。木によく擬態している。」
正面、指さすほうをよく見ると木の根っこがうごめいているのがわかった。
「あれは一体どういうやつなんですか」
「基本的には自分のテリトリーに入ったやつしか攻撃してこない。だがテリトリーに入った奴には木の根や枝葉を使って捕縛してぶん殴ってくる。ナリがデカイだけあってつかまって一発でも貰えば果実のようにはじけ飛ぶ。即死だ。そんでもってあいつ自身もかなりタフい。ベストは火の魔法で焼いちまうことなんだが俺たちはそれができねえ。剣で叩き切るしかない」
「という事はやるんですね?」
「ああ。基本的には俺が引き付ける。お前剣と野太刀どっちのほうが良く切れる?」
早速予定になかった狩りとなった。
「普通の木なら恐らく野太刀です。二振り…いや三振りで切り倒せます。」
「よし、わかった。馬からは降りろ。ここに待機させて俺たちだけでいく。」
頷いて馬から降りる。両刃剣も起き、野太刀を抜く。
僕の準備ができたのを見たドクトが走り出した。
続いて僕は走り出しドクトの背中を負う。ドクトの走りはかなり速い。鎧の重さがない僕でも差は縮まらず僅かばかりだが差ができるほどに速い。
だがそれでいい。ドクトのほうが早く飛び出し注意の引くのだから。
僕は少し速度を落としドクトが注意を引くのを待つ。ドクトはどうやらチャントを使っているようだ。何かボソボソとつぶやいていた。
そしてトレントのテリトリーにドクトが足を踏み入れ枝葉の薙ぎを払いを身を低くし避ける。根っこの捕縛をチャントを付与した剣で斬りつけ盾で弾き飛ばす。
――十分だ
僕は飛び出し一振り、二振り。三振り目はいらなかった。
「二振りでやれてんじゃねえか。もう一振りあると思ってこっちは斬りつけようとしてたのによ」
笑いながらドクトがこちらに歩いてくる。
「どうも調子が良いみたいです。落ち着いてて実力を発揮できている。そんな感じがしてます。油断はありません。」
「いいじゃねえか。たださっきも話したが三日じゃ終わらねえ可能性が高い。あんまり気張りすぎんなよ。途中で糸が切れちまって死ぬやつも過去に見てきた。」
「わかりました。でもそういう感じではないので大丈夫だと思います。」
「それならまあいい。早く移動するぞ。他のトレントが来る前に移動するぞ。こいつらは同じ森にいればある程度だが情報共有できているらしく同族が死んだりすると集まってくる習性がある。まあ今の状態でどこまでその習性をあてにしていいかはわからんが早いとこずらかるぞ。」
ドクトはそう言うと足早に馬のほうに戻って行く。
僕もその後に続き馬に乗る。走り出し倒したトレントを通り過ぎていく。すると左右からトレントが寄ってきているのが見えた。
「早過ぎる。戦闘中に応援を呼んでいたなこりゃあ。寄ってきているトレントは無視しろ!あいつ等は移動が遅い!馬の足にはついてこれねえ!」
「はい!」
僕らは馬を駆けさせ走り続ける。
異物を見つけた。一言で済む物体。巨大な芋虫だ。
「ドクトさん!あれは一体!」
「ビッグワームだ!本来洞窟や地中にいるはずだってのにどうなってやがるんだ!コイツは手を出さなければ害はない迂回するぞ!無視だ!」
そう言って左で馬の向きを変える。
「ドクトさんちなみに今のペースはどんな具合でしょうか?」
「出発が早かったお陰でそれほど遅れは出てない!だがちょっとばかし予定より遅れてるな。」
「そろそろ昼です。一旦食事にしませんか?」
「わかった。だがもう少し進んだ先に少し開けたところがあるはずだ。そこで飯にする。」
「わかりました。」
それから半刻程経った頃枯れた池の跡地に着いた。
「ここで飯にするぞ。休息ではあるが油断はするな。」
僕たちは干し肉を取り出し、水稲の水でふやかしながら食べた。
半刻程経った頃ドクトが立ち上がる。
「ドクトさん?」
「魔獣だ。構えろ。」
そして魔獣は木々の隙間から姿を現した。
一目見てわかった。これは上位種だ。
見た目はダイアウルフに近い。だが明らかに大きい。そしてダイアウルフよりも発達した牙に爪そして尻尾に蛇の頭がついている。
「キマイラだ。かなり珍しい魔獣だ。そしてこいつはこんな浅い所にいない魔獣だ。それこそ山に居てもおかしくない。」
相当驚いた様子のドクトに対し僕は何故か落ち着き払ったままであった。
「倒せばいいんですよね?」
「ああ、見たところあいつは撒けねえし逃がしてもくれなさそうだ。」
「良かった。」
「なに?」
ドクトは驚いた様子で僕に声をかける。
「相手するのが森の中じゃなくてここでよかったです。野太刀が使えます。」
僕はドクトに答えながら野太刀を抜く。
「なるほどね。お前さんからすりゃ確かに良かったかもな。」
ドクトは苦笑しながら剣を抜いた。
「さっきと一緒だ。俺が気を引いてお前がやる。いいな?」
「はい。」
そしてどうやら強敵であるようだ。
今まで戦いとなればドクトは走り飛び込んでいた。
だが今回はじりじりと少しずつ距離をつめる慎重な動きをしている。
僕は注意を引かないためにできる限りドクトから自然に少しずつ離れる。
ドクトが盾を構えながら前に出た。
キマイラは蛇の頭の尻尾を振り払いドクトを振り払う。
ドクトは飛びのき回避した。
「っち、面倒くせえ。」
悪態をつきながらドクトはもう一度飛び込む。
キマイラはまたも尻尾でドクトを追い払おうとするがドクトは剣で受け流しさらに前にでる。
キマイラは発達した凶悪な爪でドクトを狙う。盾で受け流す。尻尾、右腕、左腕、尻尾、尻尾、左腕、右腕、怒涛の攻撃をドクトは剣で受け、盾で受け、身をかわし、盾で叩き伏せ、剣で受ける。
そうしてドクトに注視してると判断した僕は飛び込み野太刀を袈裟に斬りつけた。
殺ったと思った。だが奴は僕からも注意を逸らしていなかった。身をかわし奴は僕の斬撃を避けた。
ドクトは僕の攻撃が外れた事を確認すると飛びのき僕の横に下がってきた。
「アイツ多分尻尾の蛇頭の目も見えてやがる。こうなりゃやれるほうがやるぞ。だが基本はできる限り俺が注意を引く。いくぞ。」
「はい、わかりました。」
ドクトが飛び込んだ。僕も続いて側面から飛び込んだ。
大丈夫、冷静だ。やれる。野太刀を突き込む。
ドクトのほうに体を身をかわし避けられた。薙ぎ払えない。
突き出した野太刀を引き込み今度は下段から逆袈裟に斬り上げる。
これも避けられた。ドクトもチャントを付与した剣で斬りつけるが避けられている。盾での攻撃しかまともに当たっていない。そしてキマイラは僕に飛びかかってきた。
爪で突き、薙ぎ払い、蛇頭の尻尾で噛みつき、尻尾を振るう。
爪をよけ、薙ぎ払いを両刃剣を少し抜き刀身で受け吹き飛ばされる。
「ジェニン!大丈夫か!?」
尻尾の噛みつきを体を捻り避け、尻尾の薙ぎを野太刀で受けた。野太刀で受けた尻尾は千切れ飛びキマイラは叫び声をあげた。
キマイラの叫び声をかき消すように僕はドクトに答える。
「大丈夫です!剣で受けました!ただ両刃剣は今受けたので折れました!」
おれた剣が胴に当たり鈍痛があるがそう痛いものではない。木剣揉まれてできた打撲より少し痛い程度だ。
そして二人でまた飛び込む。
僕への強烈な殺気。尻尾を斬られた事への明らかな恨み。
キマイラの注意は完全に僕に向いていた。僕は負けじと睨みつける。
ドクトがキマイラの背後に回り込めていた。キマイラは爪で僕を抉り屠ろうとしてくる。
僕は冷静にキマイラの攻撃を野太刀で受けようとする。がキマイラは先ほどの尻尾の件で学んだのか爪を引っ込め体を縮めると見えていないはずの背後のドクトに腕を振るった。
ドクトは盾で受けるが盾に爪が深々と刺さった。恐らく盾越しに爪が腕に傷を与えている。
ドクトの顔が険しい。僕は今飛び込まないといけないと判断し、折れた両刃剣を投げつけのその陰に野太刀の刀身を隠すかのように突き込む。
キマイラは短くなった尻尾で両刃剣を弾き飛ばしたが、野太刀には気づけずに深々と野太刀の刀身が突き刺さった。そしてドクトは同時にチャントを付与した剣をキマイラの目に突き立てていた。僕は念のため突き込んだ刀身を捻り逆袈裟に斬り上げた。
「ふぅー……、痛ってぇ……。ジェニン盾から爪抜くの手伝ってくれ!」
ドクトがそう言いながら手招きしているので走っていく。
「傷は深そうですか?」
引き抜く前に確認をした。
「そこそこだな。ヴァナホッグの時のお前に比べりゃ軽いもんだ。一気にいってくれや。」
そこまで深刻ではないようだ。
「では。」
僕は盾に足を掛け腕を持ち爪を引き抜いた。
「ッッ」
ドクトは少し唸ったが声までは出さなかった。
「サンキュー!」
傷を見ると申告通りそこまで傷は深くは無さそうだが手首の近くで何かと動きに制限がかかりそうだった。
ドクトは慣れた手つきで一人で手当てを済ませていた。
「ジェニン行くぞ。」
「その腕でですか?もっと危険な魔獣と対峙した場合不味くないですか?」
「お!お前冷静だなあ。その通りだ。だが俺が抜けたら誰が原因を突き止めるんだよ。」
「僕が居ます。」
きょとんとしている。
もう一度僕は言う。
「僕が代わりに先に進みます。ドクトさんは戻って腕を治療したほうがいいです。」
「お前なあ…両刃剣も折れてまともに野太刀振るえないのに一人で行くってのか?」
「そうです。多分今の僕なら行って帰ってくるだけなら大丈夫です。ドクトさんの言ったセオリーは守ります。」
「ふー……。」
無精ひげを撫でながら考え込んでいた。
「わかった。行け。俺の傷から発する血の臭いに魔獣が寄ってくる可能性もある。協力な魔獣がポンポンやってこられたらそれこそやられちまうしな。」
「はい、行きます。食料だけ少し分けてもらってもいいですか?最悪酷寒の吹雪を少し使うのでエネルギーの補充を多くする可能性があります。」
「わかった。全部もってけ。俺は夕方には街に戻れるしな。基本は敵とは合わないように迂回しろ。避けて逃げろ。自分が倒せないと思った敵を見たら原因がわからなくても帰ってこい。命より大事なものはない。それにここでお前が命をかける理由もない。」
「わかりました。敵は避け深くへ行き原因を調べます。不味いと思ったら逃げの一択ですよね?」
「そうだ。お前が原因を突き止められなくてもポートさんに言って新しい傭兵を雇ってもらうか私兵を使って掃討も視野に入れてもいい危険度だ。本当なら俺と帰るのがベストだとも思うがお前は行きたいんだろう?なら俺の言いつけは守れ。」
「そうです。僕は行きます。死にたくないのでドクトさんのセオリーは守りますよ。」
「それじゃあ行け!」
「はい!」
馬に乗って僕は駆けだした。
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