第23話 魔獣の森Ⅲ
僕は決断した感情を優先する。
そして里の時の二の舞にはならない。魔獣との戦いは実践を積んでいる。強敵のダイアウルフの亜種との実戦経験もある。だから僕は着いて行く。
恐らく子爵とドクトは今後どうするかを話し合っているはずだ。
子爵の執務室に僕は向かう。
途中ダジンと会った。
「ジェニン、剣を試していたようですね。どうでしたか?」
「良い物でした。鍛冶場の親父さんにも伝えておいてください。僕はしばらく探索にでます。」
「探索に?魔法の勉強が明日からありますがまたどうして?」
「詳しい事は後程ポート子爵から話があると思います。僕はこれからポート子爵に用があるので執務室に向かいます。では」
僕はダジンの横を抜け執務室へ向かう。
「わかりました。あまり根は詰めないようにするんですよ。」
温かい言葉を背後から受け決意をより固めた。
執務室にノックをする。
「ジェニンです。入ってもよろしいでしょうか。」
「ジェニン?構わないよ。」
怪訝そうな声をした子爵から許可が下りた。
「失礼します。」
扉を開け入るとドクトが額に手を当てため息をつきながら僕に話しかけてきた。
「どうしたんだジェニン。今ポートさんと俺は森の件で話し合うのに忙しいんだが。」なんの用か分かっているはずだがあえて問いかけてくるドクトに僕は答える。
「森の探索に僕も参加します。足手まといにはなりません。」
「はぁー……。」
ドクトは先ほどとは違い大きなため息をつく。
「ジェニン君、君が優秀で実力があるのは知っている。だが先ほどドクトからは参加させる気はないという風に聞いていたのだが何故?」
「そんな話を?ドクトさんがどういうつもりでそんな事を言ったのかはわかりませんが僕は行きます。これは僕のためです。実績が欲しい。自信が欲しい。経験が欲しい。実力が欲しい。そしてドクトさんを手伝いたい。すべて僕の意志です。」
「お前なあ…。まあお前が決めてここに来たんだ。言っても聞かないだろうし、ポートさん悪いけどこいつも参加させてくれ。実力はあるし単独で行動はさせないし俺と組ませる。」
「いいのかい?」
「経験はまだ浅いがそこは俺がカバーする。一人よりかはリスクは下がるしより奥地に行けて情報は増える。デメリットは弟子がリスクを負うぐらいだ。」
僕を連れて行ってくれる理由を挙げているが最後は僕への苦情のようだ。
里での一件や冬の魔道具の守り手としての事をふまえた上での気遣いを無下にしたのだ。多少何か言われるのは仕方ないだろうと僕は受け入れる。
「わかった。ではジェニン君にも今回の流れを最初から説明しよう。まず当初の予定ではドクトがザイン森林の山手側奥地に向かい以上の原因を特定する。奥地に近づくにつれて危険度が分かっていく。ドクトの報告に合わせて私は私兵を投入、あるいは新たに傭兵の補充をする。そして奥地まで向かうのであれば馬を使っても三日はかかる。ドクトには安全を考慮して細やかに報告を行ってもらうために新たな魔獣や発見があれば都度帰ってきてもらう予定だったが二人で行くという事だからその辺りは二人で相談して決めてくれるといい。だが早く原因は特定してほしい。アウルベアが森に入ってすぐのところで出てきたなんて報告は今まで一度もない。ドクトの言う通り異常だ。不安の種は早く摘みたい。」
元からやや、やつれていた子爵の様子はいっそうやつれて見えた。
「まあこういうわけだ。お前が来るならペースは上がるだろう。下手すりゃ一度も戻らず奥地までいけるかもしれねえ。まあそこは運だがな。」
「なるほど、予定はわかりました。探索はいつからで?」
「今からだ。と言いたいところだがお前が疲れてるだろうし明日からにする。今日はもうすぐ休め。あとの細かい話は詰めておく。探索の道中話すからお前はもう行け。」
「わかりました。では先に休みます。失礼します。」
扉を開け自室に向かう。途中ニアールと出会った。
「ジェニン!ダジンからチャントは諦めたと聞いたけれど気を落とさないでね。明日からまだ魔法と魔術があるのだから。」
ややバツが悪そうにニアールが僕に話しかけてきた。
「ええ、ありがとうございます。でも僕はしばらく探索に出ないといけなくなったので魔法や魔術の授業には出られなくなります。」
そう言うとニアールは俯いてしまった。
「お嬢様どうかされましたか?」
「その……ごめんなさい。私負けず嫌いで……。お父様が年下のあなたの事を優秀だと褒めているのを聞いて負けたくなくて……。それでチャントがすごくうまくいったから少しあなたに意地悪にあたってしまったわ。謝るから気にせず一緒に勉強しましょう?」
どうやら探索に出る理由が自分にあると思ってしまっていたみたいだ。
「いいえ、謝る必要はありません。」
そう言うと顔を上げ不安そうな表情でこちらをニアールが見る。
「僕がチャントを諦めたのは諸事情があっての事ですし、探索に出るのは今ザイン森林で異常事態が起きておりその原因を師のドクトさんが調べに行くのを手伝うためです。それと僕自身の経験のためです。だから謝って頂く理由がありません。」
それを聞いたニアールは少し安心した表情になったかと思うとまた不安げな表情に戻る。
「その……理由があるのはわかったわ。でも異常事態の探索に向かうのは危ないのではなくて?ドクトが向かうのであればあなたは行かなくていいじゃない危ない事はやめましょう?」
「心配してくださってありがとうございます。でも僕は僕のために絶対に探索に行く必要があります。」
ニアールはまた俯いてしまった。
「お嬢様。この騒動が終わったらまた一緒に講義を受けさせてください。そして失礼かもしれませんが友達になってくれませんか?僕にはダジンさんしか今友達がいないんです。」
笑って僕がそう言うとニアールは顔を上げて真面目な表情で答えてくれた。
「わかりました。友達になりましょう。でも友達がひどい目に合うのは嫌だから必ず無事で帰ってくるのよ。」
強くそうニアールに言われる。
「わかりました。僕にはやらなくてはいけない事があるので必ず帰ってきますよ。では明日からの探索になるので今日はもう休みます。」
「わかったわ。それじゃあまたねジェニン。」
「はい、お嬢様。ではまた。」
そう言葉を交わし僕は自室に戻り眠った。
目が覚める。
外はまだ薄暗かった。
僕は野太刀と両刃剣を持ち、庭に出る。
両刃剣を振るう。納刀し野太刀を振るう。そしてまた両刃剣を振るう。野太刀を振るう。どんな状況になっても最善を尽くせるように野太刀、両刃剣ともに使い分けられるように交互に振るう。重さの違い。間合いの違い。使える戦術の違い。それらを頭と体に叩きこんだ。
よし、いける。今度こそ僕は力になれる。
緊張はない。落ち着いている。僕は詰所へ向かった。
詰所に行くとドクトが既に居た。
「おはようございます。」
「おう、早いな。陽が昇ってからくるものだと思ってたがやる気だな。」
「僕もドクトさんが既に居るとは思わなかったです。」
「まあ俺は寝坊してもいいようにここで寝てただけなんだけどな。」
冗談か本当かわからない事を言った。
「それじゃあ行くか。馬は門の前に控えさせてる。」
「はい、行きましょう。」
僕らは馬に乗り出発をする。
「それじゃあ道すがら行動方針から話してくか。まずは命優先だ。これは絶対条件な。んで道中魔獣を見つけても狩るかどうかはその場で俺が決める。基本は戦わずに山手奥地へ向かう事を優先する。魔獣の速度が馬を上回る場合や執拗に追いかけてくる場合はやる。だが山手側に向かう分には恐らく追ってくる事はない。山手側から追いやられた原因に向かっていくわけだからな。」
「わかりました。帰路はどうしますか?恐らく魔獣が追ってくると思いますが。帰りは魔獣を狩って血の臭いでおびき出し一気に駆け抜ける。それを繰り返す。戦闘は最低限だ。目的は原因の特定であって解決じゃない。」
「了解です。」
「そろそろ森だ。気を抜くな。」
「はい!」
僕たちは森の中に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます