第2話 魔獣の森Ⅱ
相も変わらず理性と感情がああでもないこうでもないと争いを続けているとノックとともにダジンの声が聞こえてきた。
「ジェニン、入ってもよろしいでしょうか。」
僕はベッドから立ち上がり扉を開ける。
「どうぞ頼まれていた剣です。」
予備も含めた二本の剣をダジンは渡してくれた。
「剣というのは中々重いものですね。これを明日から振るうと思うと少し気が重くなります。」
苦笑しながらダジンがそう言った。
――明日、恐らく使用人の訓練は明日から無くなる。
ザイン森林の異変の調査に私兵の多くをあてがう事になり訓練に回す余裕はなくなる。あくまで憶測なのでダジンには言わないが多分そうなるだろう。
「ダジンさんならきっと大丈夫ですよ。」
僕は笑顔でそう言うがきっとその心配がない事を知っているからこその嘘。
「ありがとうございます。では私は仕事があるのでそちらに戻ります。」
そう言いダジンは去っていった。
僕は渡された両刃の剣を一本起き、試しに軽く振ってみる。
僕の体格に合わせてあるとはいえ野太刀と違い重みがあり感覚がずれがあるのを感じた。ザイン森林へドクトに着いて行くのであれば少し訓練が必要に感じた僕は使用人の訓練に混ぜてもらおうと庭へ向かった。
庭に着くと使用人達は筋力トレーニングをさせられているようであった。
恐らく最低限の筋力が足りていないと判断されたのだと思う。
僕は訓練の指導者の兵に声をかける。
「すみません、僕はジェニンと言います。少し剣の訓練をしたくて場所をお借りしてもかまいませんか?」
「おぉ!君がドクトの弟子のジェニン君か!構わないぞ!相手が欲しくなれば声をかけてくれても構わん。俺はアーゼンといういつでもよんでくれ。」
随分と友好的でドクトを呼び捨てにしている辺りどうやら仲が良いようだ。
「ありがとうございます。ところでドクトさんは仲がよろしいんですか?」
「ああ、やつとは前にここに来た時からの見知った仲だ。」
「ドクトさんはここに来た事があったんですね。前はいつ頃ここに?」
「確か七、八年程前だったか。新兵が多くて街の守りが薄かった頃に傭兵としてここに来ていた。半年ぐらい滞在していたな。そう長い期間ではなかったが傭兵の割には珍しく酒を飲まないやつだったからよく覚えてる。」
「そうだったんですね。今回とは違い短い期間だったのによく覚えてらっしゃいましたね。」
「ああ、それがドクトのやつは傭兵には珍しく酒を飲まんでな。奴が言うには酒精が戦士の寿命を縮めるそうだ。」
「そうなんですか?お酒は飲み過ぎると毒とは聞きますが戦士としての寿命を縮めるというのは初めて聞きました。」
「俺も半信半疑ではあるがこの街を守る者としては、その可能性を知ったからには俺も酒を辞めたもんだ。」
「でもそれだとドクトさん酒屋の人には恨まれてそうですね。」
「それが酒を飲むのを辞めると飯が進むものだからその分で収支はそんな変わってないらしい。」
アーゼンが笑いながらそう言った。
「それは良かった。一応僕はドクトさんの弟子なので師が恨まれてなくてよかったです。では僕は少し修練させてもらいます。」
僕は笑いながらそう言った。
「ああ、さっきも言ったが相手が欲しくなればいつでも呼んでくれ。」
アーゼンは気さくにそう言ってくれた。
「はい、ありがとうございます。」
僕は少し離れ木剣を振るっていた時の事を思い出しながら片手で両刃の剣を振るう。上段から袈裟に振るい、そのまま返し斬り上げる。横に薙ぎ払う。振るう、振るう、振るう。振るえるには振るえるがやはり片手で振るうと少し重く感じる。野太刀の感覚に慣れ過ぎていた。両手で持ち直しまた振るう。しっくり来た。野太刀も両手で振るっていた事もありしっくりきた。片手で振るう時は重さと遠心力を活かしたり、左手を自由にさせた時だけに絞るほうが当面はよさそうだ。
それがわかったので相手が欲しくなりアーゼンに声をかける。
「アーゼンさんもしよければ少しお相手してもらえませんか。」
「お、ジェニン君構わないぞ!当然だが寸止めで頼むよ。」
笑いながらアーゼンはそう言う。
「もちろんです。では。」
僕とアーゼンは抜刀する。
アーゼンは片手盾を持ち剣を下段に構えた。
恐らく僕の実力を評価している。短期で決めず持久戦を持ちかけようとしている。アーゼンは中々に容赦のない男のようだ。
僕は上段に刀身を立てるように構えた。野太刀よりもはるかに短い間合いを考慮しつつもすり足で間合いを詰める。相手のほうが間合いが広い。僕は相手の間合いに入る直前すり足をやめ一歩踏み込むように動きを見せる。アーゼンは逆袈裟で剣を振るってきた。僕はそれを剣で受け払い、もう一歩大きく踏み込みアーゼンの盾を持つ腕をつかんだ。
「参った。」
アーゼンから降参の声があがった。
「上手いな。剣を弾き盾を封じられ、間合い詰められ、こちらの間合いを殺されてはあとは剣を突き立てられるしかない。ドクトの弟子だから強いとは思っていたがここまでとは思わなかった。また相手をしてくれ。」
「はい、僕は今日はもう休みたいのでまた後日。」
「そうか。ゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。では。」
両刃剣がちゃんと扱える事がわかった僕はザイン森林の異常事態、ドクトの探索に着いて行くことを決めた。
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