第21話 魔獣の森

アウルベアを倒しドクトと帰路につく。


「ドクトさんアウルベアが森の浅瀬にいるのは異常だと言ってましたが具体的にどんな状態なんでしょうか。」


「そうだな。俺が想定できるパターンとしては何個かあるが一番楽なケースは山手側にアウルベアよりも強い魔獣が大量発生したパターンだな。」


「一番楽でそれですか……。ちなみに他に想定しうるパターンはどんなものがありますか?」


「精霊や神性のあるものが発生した可能性、協力で希少な魔獣が移り住んできた可能性、山手の土地側に何か問題が発生した可能性、亜種や上位種の大量発生、あとは考えにくいしあってほしくないが隣の国が山手側から攻めに来てるとかだな。一番あり得るのは最初に挙げた楽なケースだ。多分それだろうな。」

結構多くのパターンがあった。その上どれもかなりハードだ。

正直どれも僕には手に余る。山手側に行くと木々がの密度が薄くなるらしいから野太刀を振り回せるかもしれないがどこまでやれるかはわからない。

どうする?初めてだったとはいえアウルベアに気圧された僕は着いていけるのだろうか。僕は死ぬわけにはいかない。


「とはいえアウルベアはこの辺だとそこそこ強い。お前はその野太刀があるからバッサリ斬れてるが普通はそうはいかん。矢は刺さらんし魔法や魔術、チャントも中途半端な質だとほとんど効かねえ。その上やつらはタフで怒って被弾を恐れずに襲い掛かってくる。原生種で勝てるやつはそう多くないはずだ。まあこればっかりは深く潜って山手を実際に確認するしかねえな。お前はこの件降りていいぞ。」

手を引くか迷っていたらドクトのほうから降りてもいいと許可が出た。

理性は降りろ。安全をとれと言っているが感情はそう言っていなかった。


「自分で言うのはなんですが多少手間取りましたが僕はアウルベアを倒してます。戦力にはなると思うんですが何故ですか?」

僕は戦える。足手まといではないと思いたいという意地。里の時とは違うという実績が欲しいのだ。


「お前が来たいなら着いて来てもいい。だが場合によっては俺以外の傭兵がついてくる。その時はお前冬の魔道具の力は絶対に使えないぞ。ヴァナホッグの時の亜種はお前力使ったろ。それに守り手としては余計なリスク負いたくねえんじゃねえか?」

ドクトの言う通りだ。僕の冷静な理性もそうだと言っている。だけど感情はリベンジを、ドクトを少しでも助けたいと思ってしまっていた。


「少し考えさせてください……。」

理性と感情は真逆の事を言っており僕の頭は混乱していた。


「まあ好きにしろ。なんだったら原因を突き止めて危険度がわかってから決めてもいいし、一日二日で終わるような内容じゃねえ。後から着いて来ても構わねえよ。」

里の事もふまえたうえでさらに気を使われているのがわかる。


「一応言っておくがお前の歳で参加する修羅場じゃない。冬の魔道具の事もある。おすすめは降りてお嬢様とお勉強だ。ポートさんもお前を囲いたいみたいだし無理強いはしないだろ。一応名目は俺の弟子だから俺の許可が下りなかったとか言って誤魔化せるしな。」

そう言い終わると背中とぽんぽんと軽く叩かれた。


「ありがとうございます。」

そう言われつつもどうするか頭の中ではぐるぐると理性と感情が延々と戦い続けていた。

街の門まで帰ってきた。


「ポートさんに報告があるから俺は館に戻る。お前は詰所で休んでからでいいぞ。」


「いえ、僕も戻ります。ダジンさんにチャントは諦める事を言わないといけませんし。」


「そうか。んじゃもうひと頑張りだな。そういやお前鍛冶場で両刃の剣頼んでたよな。そろそろじゃないのか。」


「予定ではそろそろのはずです。できたらダジンさん経由で教えてもらえるはずです。」


「それならもしかしたら戻ったら出来上がってましたーとかあるかもしんねえな。」


「そうだと嬉しいですね。野太刀は軽くて切れ味抜群なんですが森の中だと長すぎて好きに振り回せなくて動きに制限があるのがつらいですね」


「その野太刀よく切れるんだろ?木ごといけないのか?」


「僕の力だと無理ですね。木の中心ぐらいまでいったところで止まってしまいますね。逆に僕の力でそこまでできる切れ味なんですよね。」


「木までいけるならお前相当やるんだけどなあ。突きと切り上げだけだろ今やってるの。そんな単調な選択肢でよくやってるよお前。」


「ありがとうございます。それももう少しで終わると思うので我慢ですね。」

そうこう話しているうちに館に着いた。


「僕はダジンさんを探してきます。」


「俺はポートさんに報告してくる。お前も早く休めよ。アウルベアで疲れてんだろ。」

ドクトと別れ僕はダジンさんの居そうな所を考える。

全くわからなかった。とりあえず今日使った書庫に行ってみると偶然会った。


「ジェニン、帰ったのですね。おかえりなさい。ちょうどジェニンに話したい事がありました。」


「ただいま戻りました。僕もダジンさんに少し話がありまして。」


「そうですか。ならジェニンからどうぞ。」


「ありがとうございます。チャントの件です。折角教えていただいたんですが、諸事情で僕はチャントを諦めようと思います。ネガティブな理由ではなくポジティブな理由です。あとあまり詮索をしないで貰えると助かります。」


「チャントを諦める……ですか。念のため確認しますがチャントは誰でも時間をかければ臨んだ能力とは限らないですが必ず使えるものです。それもまだ初日です。普通は時間をかけて習得するものですがそれが分かったうえで諦めるという事ですね?」


「はい、これは僕個人の諸事情です。先ほどドクトさんと話をしてそうしたほうがいいと自分で判断しました。」


「わかりました。ジェニンが考えたうえでそういうのであればこれ以上は何も言いません。それから私からの話というのは以前鍛冶場で頼んでいた剣が出来上がりました。既に受け取ってあるので後でジェニンの部屋までお持ちします。」


「わざわざありがとうございます。それじゃあ僕は部屋で休んでるのでいつでもいいのでお願いします。」


「かなり待ってたでしょうしすぐに取ってきますよ。それではまた後で。」

にこりとダジンは笑いながら剣を取りに行った。

僕は自分の部屋に戻るとベッドに倒れこみ山手の探索に参加するかを考え始めた。

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