第20話 チャントⅡ

ザイン森林に向かう道中話したかった事をドクトに相談する。

冬の魔道具については彼以外には話せないからだ。

「ドクトさんチャントの事なんですが。」

「俺にチャントや魔術について教えられる事無いって言っただろ。」

やれやれといった様子で言われたが僕は続ける。

「ドクトさん僕は一番大切なものは冬の魔道具で絶対に守ると決めています。そして祈る神は冬の神様でした。冬の神様の想像はできたのに声はかかりませんでした。ダジンさんが言うには一番大切なものが間違っていると言われたんですがどう思いますか?」

ドクトが足を止め無精ひげを撫でながら顔を伏せた。

僕はドクトの考えが終わるのをじっと待つ。

「多分わかった。けど言わねえ。悪い事は言わねえお前チャントは諦めろ。多分チャントを身に着けて良い事ねえぞ。そもそもお前は冬の魔道具を扱えれば魔法もチャントも魔術もいらねえだろ。ここで三年魔道具を守り抜きゃその後俺が例の所へ連れてってやる。だからチャントは諦めろ。いいな?」

真面目な表情で強く、そして有無を言わせないような圧のある話し方だ。

ドクトは冬の魔道具を使えない僕に可能性を捨てさせなかったのにも関わらず今回は諦めろという。

何か理由があるのだろう。

「ちなみになぜですか?三年守り抜けばいいと言いますが、正直野太刀を扱いきれていない現状僕は普通の武器を使用したいと思っているのでチャントを使用できるとすごく助かるので一つ返事ではいとは言いかねます。」

「じゃあ言い方を変える。当初の約束と変わって悪いとは思うがチャントを諦めないと例の場所には連れて行かねえ。これならどうだ。」

そう言われるとはいとしか言えない。

元々ドクトの善意があっての前提だ。

「そう言われてしまうとはいとしか言いようがないですね。でもそこまで言うからにはちゃんとした理由があるんですよね?」

「ある。そしてそれはお前のためだ。できればこのことについても考えるなお前のためにならない。チャントや大切なものについては忘れろ。お前は自分の命と冬の魔道具を守る事だけ考えろ。」

「わかりました。」

「んじゃあ切り替えて森に入るぞ。」


ドクトの言う通り気持ちを切り替えて森に入る。

出なければドクトの足を引っ張るか僕が死ぬ。

入ってすぐにドクトが左手で僕を制し正面を指さす。

ドクトが指をさすところを見ると見た事ない二体の魔獣が居た。

鳥のような頭に逞しい体をしている。体の大きさは僕の一,五倍程はあるだろうか。

ドクトは次に元来たほうへ指をさし下がる。引く……という判断だろうか。

僕は頷き森の外へとでる。

するとドクトが口を開いた。


「アウルベアだ。」


「アウルベア?」


「見た通り体がデカい。リーチもあるしタフだ。個体にもよるが皮膚が分厚くて剣が通りにくい。おまけに怒りっぽくて狂暴だから斬られようがお構いなしに突っ込んできたりすることもある上即死を狙うには頭や心臓の位置が高くてやりずれえ。幸いハイエナやアームエイプのように賢くはねえからハメる事はできるがまあ面倒くさいやつだ。」


ひとしきり僕に説明をしてくれたドクトだが無精ひげを撫でながら険しい顔をしている。


「僕では足手まといですか?」


「いや、やれない事はない。けどそれより問題なのは本来あいつらは山手のもっと奥のほうにいる魔獣って事だ。あいつらがこんな森に入ってすぐの所にいるのは異常だ。三年かけて悠長にやってる場合じゃねえかもしれねえ。とりあえずさっきの奴らを狩る。あいつらはつがいだ。まずは俺が突っ込む。俺に注意が向いたらお前は側面から一体を軽く斬りつけろ。できれば足にしとけ。そんで俺が引き離して一対一にする。お前はそのよく切れる野太刀を使ってカウンターで頭をブッスリやっちまえばいい。動きはハイエナほど早くないから回避もできるだろ。言わなくてもわかると思うが油断はするな。いけるか?」


「はい、やれると思います。」


「よし、じゃあ森に戻るぞ。」


ドクトの後ろについて森に戻る。アウルベアが見えたところでドクトが駆けだした。僕は木の陰に潜みながら少しずつアウルベアの側面へと移動をした。ちょうどドクトがアウルベアの注意を引けたタイミングのようだ。ドクトに負担がかかる前に僕は静かに飛び出し手前にいるアウルベアの足を斬りつけた。

一瞬こっちに二頭のアウルベアの注意が向くが無傷のアウルベアにドクトが飛びつき盾で殴りつけた。反応したアウルベアが宙を舞うドクトを腕で叩きつけようとするがドクトはアウルベアの胴を蹴り距離を取る事でそれを回避した。頭を殴られ胴を蹴られ、振るった腕は空振ったアウルベアはドクトにくぎ付けになりドクトは少しずつ僕から離れていく。

そして僕が対峙するアウルベアは足を斬られた事で怒っているようで足のケガはお構いなしに飛び込んできた。ドクトの言う通り僕は野太刀で頭を狙おうとするがアウルベアの圧に気圧され回避だけにとどまってしまう。するとアウルベアは右腕左腕と交互に腕を振るい僕に襲い掛かる。後ろに飛びのき避ける、避ける、避ける。背後に木。木を盾にするように回り込みアウルベアが木を腕で叩き折った瞬間僕は野太刀でアウルベアの頭を穿ち突いた。


「思ったより時間かかったな。どうした。」


にやにやしながらドクトが歩いてきた。奥のアウルベアを見ると頭が八つ裂きのような状態で倒れていた。


「正直、真正面で対峙すると思っていたよりも大きく感じて気圧されました。」


「正直だなあ、まあ初めてコイツを相手するやつは大体デカさにびびる。俺の言った通り一突きで殺すのがベストだがそれに囚われてしくじらずに倒しただけでも十分だ。」

そう言いながらドクトは僕の倒したアウルベアの首を刈り取り僕にその頭を投げ渡した。


「ほれバッグに入れとけ。」僕は血で汚れないように避けて落ちた生首を拾いバッグに入れた。


「ドクトさんはいいんですか?」


「俺はいいや、多分これからもっと稼げるようになるしあそこまで頭がズタズタだとアウルベアとして認めてくれねえかもしれねえしな。」


「そういえばあれはどうやったんですか?剣で斬ったにしては傷が多すぎます。」


「お前に忘れろと言った手前悪いがチャントを使った。お前がやばかった時いつでも割って入れるように速く倒したかったからな。」


「チャントであんな傷を与えられるんですね……。」


「もう一度言うがチャントの事は忘れろ。それが条件だ。お前が冬の魔道具を扱いきれればチャントなんてちんけなものになる。」

そう念押しするドクトの表情はやはり真剣なものだった。

僕は素直に頷くとドクトは満足そうな表情をし森の外に歩いていく。

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