第18話 チャントと魔法

ダジンと共に書庫に入ると既にニアールが待っていた。

子爵が言うに待たされると怒るとの事だったがどれぐらい待たせたのだろうか。

少しびくつきながら挨拶をする。


「おはようございます。お嬢様。お待たせいたしました。」


「おはようジェニン。いいわ、お父様によばれていたのでしょう。」

どうやら怒っていないようであまり待たせなかったみたいだ。

僕は安心しながらニアールの隣の椅子に座りダジンは僕とニアールの正面に立った。


「あの、今日はお嬢様と勉強をするように僕は言われているんですが何から始めるんでしょうか?」


「まずはチャントから始めます。チャントについては私が知識があるので講師を務めます。」そうダジンが言う。


「だから講師のお客様を見なかったのね。よろしくねダジン。」

ニアールは合点がいったかのようにそういう。

僕は四つしか違わないダジンがチャントについての知識がある事に驚いたがニアールと同じように頼んだ。


「よろしくおねがいしますダジンさん。」


「はい、ではまず概要についてになりますがお嬢様はご存じだと思いますがジェニンはチャントがどういったものか知っていますか?」


「武器や何かに魔法や魔力を付与するもの程度の認識しかありません。」


「概ねは合っています。ただ付与するにあたって神に祈る必要があります。基本的には歌を歌い祈ります。とはいえ必ずしも歌である必要はありません。雄たけびや叫び、呟きで付与する者も居ます。祈りを音に出すことが肝要なのです。そして音を出すことができれば人には限らず魔獣が使ってくる事もあります。」

魔獣のエンチャントはヴァナホッグでダイアウルフの亜種と戦った時身をもって知っている。あの時は冷静でなかったから歌えない魔獣がチャントを使う事に違和感を覚えなかったけれど歌でなくてもいいという事であれば、あの時は咆哮や唸り声で付与したのだろうと合点がいった。


「なるほど。では具体的にはどうすればチャントを付与できますか?」

「まず二つ。祈る心と魔法の知識が必要となります。祈りに関してはただ祈ればいいだけではありません。例えになりますが恵みの神に破壊や殺傷の付与を祈っても効果を得られなかったり、得られても僅かばかりの効果しか得られません。だからと言って破壊の効果が欲しいがために破壊の神に祈っても効果を得られません。何故なら神に真摯な祈りをしていないからです。ただ欲を出しているだけだからですね。ですので祈る神は自信の心と向き合い相性のいい神に祈る必要があります。

そして次に魔法の知識です。魔法を使える必要はありませんが知識は必要となります。魔力を付与するだけなら必要ありませんが何か特性、先ほどの例のように殺傷力のある効果ですね。例えば火の能力を付与しようとすれば火の魔法についての知識が必要となります。どういう魔法を付与するかを神に祈る必要があるためです。神もただ祈られても何を与えていいかわからないからですね。」


「お嬢様、ジェニンここまでで何か疑問はありますか?」


「はい、ダジンさん魔力の付与だけの場合は必要な魔法の知識や祈る神との相性などはどうなるのでしょうか?」

ダジンが口を開こうとするとニアールが声を出した。


「私が答えましょう。まず最低限の魔法の知識は必要になるわ。祈る神によって魔力の付与だけでも効果が変わってきます。あなたは剣を使うみたいだから剣で例えるけれど切れ味や凄く上がったついでに少し頑丈さが上がったり、その逆だったり、他にも沢山の効果が起きる事があるわ。ただ剣なら基本的には強度や切れ味が上がったついでに何かが少し付与されるイメージになるのよ。これであってるわよね?ダジン。」


「はい、お嬢様。ですので祈る神との相性がとても大切になってきます。チャントは自分と向き合い、正しく祈る神を見つければ誰でも使えるものになっています。なのでジェニンもお嬢様もいつか使えるようになるでしょう。」

何となくのチャントの知識に肉付けされた事で遠い存在に感じていたものが少し近づいたように感じた。

だがチャントを使うにあたって少なくとも最低限の魔法の知識が必要ならば習う順番なら魔法が先なのではと思い質問をしてみる。


「お二人ともありがとうございます。チャントについての概要はわかりましたがそれなら魔法の勉強から始めるべきでは?」


「系統立てて勉強をするなら最短は魔法から学ぶほうが良いでしょう。ただ魔法に関しては適正の有無があり、チャントと違って学び知識を得ても必ず使えるものではないのです。極端な話をすると学習をしなくても魔法を使えるものも居ればどんなに学んでも生涯魔法を使えない者もおります。なので必ず使えるチャントの基礎を学び魔法が使えなくても、学習意欲が落ちないようにするためにチャントから学ぶのが合理的とされています。」


なるほど……。確かに勉強しても一向に魔法が使えなければやる気が下がってしまうのはわかる。ゴールがチャントでその過程なら使えずともある程度のやる気は保てそうだ。


「ちなみにダジンさんは魔法やチャントを使えるのですか?」


「私は魔法は少し聞きかじった程度なので生活に利用できる程度のものを僅かばかり、チャントの適正はかなり高いと講師におっしゃっていただいております。とはいえそれを活かす能力が今はないので無駄になっていますが。明日からチャントを活かすための訓練が始まりますけれどね。」


にこりと僕に笑いかけながらダジンはそう言った。

明日から始めると言っていた護身術の事を言っているのだろう。


「そうね。使いきれていない能力を活かしきるのは良い事だわ。」

ニアールは何故か急にぶっきらぼうにそう言った。


「それでは基礎にして最も肝要な自信が祈るべき神を考えるために自信に向き合っていただきます。これと言って何か特別な事をするのではなく自身の考えや経験から連想するものを思い浮かべてください。はっきりと思い浮かべる事ができれば、神から呼び声をいただけるでしょう。そうなれば次は祈りになります。祈りは私が教えられるものではないので講師が来てからとなります。今日からお嬢様とジェニンには毎日自分と向き合ってもらいます。」

多分僕の祈る神は冬の神。冬の魔道具の守り手としてこれ以上合う神はない。

そう思っていた。

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