第16話 反省

やつらの頭と手をバッグに入れ詰所に戻るとドクトが休んでいた。

「おっ、ジェニンじゃん随分疲れた顔してるな。ヤバイやつと出会ったか?」

僕の様子を見て核心をついた問いかけ。

「初めて見る魔獣なんですけどコイツについて教えてください。」

僕はそう言いながらさっきやつらの頭と手をバッグから出す。


「ハイエナか。数が居ただろ。何で逃げなかった。」

急に真剣な面持ちになりこちらを真っすぐ見つめてくる。

「アームエイプの死体を見に行って魔獣を観察しようと思ったら急に後ろから風が吹いてしまって……。バレたので逃げましたけどまあ追い付かれて戦わざる得なかったんです。幸か不幸か七体のうち三体はアームエイプの死体に夢中で四体だけで済んで助かりました。」


「なるほどな。ヴァナホッグの亜種の時もそうだけどお前運ねえな。多分俺より慎重に立ち回らないと死ぬぞ。今度一回俺と探索するか。死んでしまいそうで怖いよお前。まあでもその歳で亜種殺して複数体魔獣をやれてるのは凄いぞ。」

僕から顔を逸らし椅子の背もたれに寄りかかりながらドクトはそう言うと何かを指折り数え始めた。


「ありがとうございます。ぜひお願いします。昼アームエイプの手が沢山あるのを見て経験の差を感じてたので色々学ばせてほしいですね。それでハイエナでしたっけ。あいつら何なんですか。ダイアウルフに少し似てますけど統率が取れてて僕を狩りに来てましたよ。それにダイアウルフよりも素早くて動きがしなやかでした。」


「あぁ、そうね。説明する事は今お前が言った通りだ。七体ならまだ少なめの群れだな。まあまだ運が良かったな。俺が出くわした中で一番多かった時は二十超えてた事もあった。んで補足するとこいつらは基本的には狩りはあんましねえ。死体に群がる事が多い。死体じゃ食べ足りなかったり食うのを邪魔したら狩りを始める。そんな感じだ。今回は食べ足りないと思ってた矢先に餌のお前が居たから狩りに来たんだろうな。」


「なるほど……。二十ですか……。その時ドクトさんはどうしたんですか?」

「そりゃあ気取られる前に逃げたよ。バレるような距離まで詰めなかったし馬に乗ってたから見つかっても追い付かれなかったからな。仲間がいるなら二十でもやれるだろうが俺やお前みたいに一人で動くなら基本奇襲で一匹ずつチマチマやるのが正解だ。複数体やる時は勝つ算段がある時だけだ。今回のお前みたいにどうしようもねえ時はあるけど慎重にがセオリーだ。」


「流石に倒したわけじゃないんですね。」


「当たり前だ。それこそ魔道具とか魔法とかねえ一人で二十なんて物理的に無理だっての。あ、そんでお前は明日から少しの間こっちの仕事は休業だ。お嬢様とお勉強だ。」


「勉強?僕公用語も地理も覚えましたよ。」


「お前魔法も魔術もチャントも使えないだろその辺の基礎的な勉強をちょうどお嬢様が始めるから俺がねじ込んどいた。ポートさんと仕事の話した時にお前の報酬に学も入れといたろ。それだ。あとは一応護衛だな。」


「護衛?ポートさんの私兵が他にも居ますよね?なんで急に……。」


「お前なんか使用人に護身術を身に着けるように言ったんだろ?それが採用されてしばらくお試しで私兵と使用人の時間が潰れるみたいでな。お前が言い出した事だしお前が尻を拭け。急なのは俺が言い忘れてただけ。」

割と大事な事だと思うが言い忘れって大丈夫だろうか……。


「でもこっちのほうは……。」


「いい、いい。元々一人でやる仕事だったんだ気にすんな。あ、でもちょっとこっち来てお前が探索した場所地図に書け。見つけた魔獣もだぞ。つっても浅いところだとハイエナとアームエイプぐらいか。俺もそれ以外見てねえしな。場所だけでいいや。」

そう言われ僕の探索エリアを丸く囲む。地図で見るとちっぽけな範囲だった。


「おー、思ったより進んでるじゃん。助かる助かる。」


「ちなみにドクトさんはどれぐらい探索進んでるんですか?」


「んー、ここからここぐらいだなあ。」

そう言って指さした範囲は僕の三倍近くあった。魔獣の討伐量から見てそれぐらいの差だろうなとは思っていたがはっきりと可視化されるとショックだった。

「まあ気を落とすな経験の差だ。その歳でこんだけやれてんのは相当なもんだ。俺と同じ歳になりゃあお前のほうがやれるようになるさ。」

そう言いながらドクトは僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。


「んじゃあ帰るか。俺は予定通り探索出来てるしお前も今日はもう死にかけて疲れてるだろ。」


「そうですね。これ以上は精神的に無理ですね。間違いなく注意散漫でひどい目に合うか死にます。」


「よし、それがわかってりゃあいい。ほれ、行くぞ。」

ドクトは僕の肩をぱんぱんと軽く叩き帰路へと促した。

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