第15話 ポーツ領ザイン森林Ⅱ

滝のように出る汗。鼓膜を揺らし続ける心臓の鼓動を無視しアームエイプの手を切り取りバッグに入れ野太刀を納刀する。血の臭いで他の魔獣が寄ってくる前に僕は街のほうに駆けだした。

息が切れ足にだるさを感じ始めた頃、平原に戻ってこれた。見晴らしのいい所まで駆け、周囲の警戒をしながら座り込む。

「ハァッー……ハァッー……。」

また痛い目にあってしまった。今回のは油断というよりは頭の回転の問題だったがいい経験になった。アームエイプは何度も倒しているから危険度が低い魔獣だと思っていたが上方修正した。落ち着いた頃街に戻り詰所にアームエイプの手を置く。

見てみるとドクトも何度か戻っているようでアームエイプの手が九つ程置いてあった。

まだ陽が真上のあたりにも関わらずこれだけ狩ってくるのはやはり実力と経験の差が出ている事を実感する。あとは自分を慰めるなら野太刀が足を引っ張っているぐらいだろうか。

短く取り回しの良い武器であれば二体同時に切り払う事も出来ただろうと考える。だが今回死ぬ目にあったのは判断ミスだった。これだけは間違いない。

その時その時の状況、条件でやれる事をやるしかないのだ。

そしてやれない事をやろうとしたのだ。しばらくは一体ずつ不意打ちのセオリーを守る。


最低でも新しい剣が届くまでは。

昼食をとり再びザイン森林に向かう。

北東に位置する山に対して僕は南東側からダクトは北西から探索をしている。少しずつ北東寄り、少しずつ深くザイン森林を潜っていくのだがこの分だとドクトとはかなり差をつけられていそうだ。

無理をしてはさっきの二の舞だから僕は僕のペースでやっていくが冬の魔道具の守り手として、経験を積み強くならないといけない。ただ毎日、日課をこなすかのように漫然と探索をしていてはいけないのだ。

僕の強さは今、冬の鎧と野太刀の軽さと切れ味に依存している。僕が冬の魔道具を使いこなせるならそれでいい。けれど使いこなせない以上僕は剣を振るう以外冬の魔道具の能力を使えない。酷寒の吹雪を使えば冬の魔道具の居場所を露見させるし威力も範囲も中途半端だ。奇襲にしか使えない。剣だけで戦える百戦錬磨にならなければならない。

一つ一つの経験を活かしていくのだ。


思考している間に森林が近づいてきた。気を引き締めていく。

先ほどと同じ経路で入るとやはり魔獣が集まっていた。

初めて見る魔獣だ。見た目は少しダイアウルフに似ている。だが模様や骨格が少し違う。やや小柄だし毛皮に模様があるそれに少し背中の骨格が丸く見える。未知の魔獣に加えて数が七かなり多い。気取られる前に逃げよう。ドクトか門兵にどういう魔獣か聞いてから狩っても遅くない。そう思い静かに後ずさる。



不味い……風上になった臭いでばれる。思考よりも先に足は駆けだしていた。全力で走りながら後ろをちらりと見る。

四体、残りはアームエイプの死体に残ったか?

それでも四対一。野太刀で四体を相手するのは無理だ。間違いなく負傷する。それも良くてだ。悪ければ死ぬ。だがこの分だとすぐに追いつかれる。

アームエイプを狩った時と同じく身を翻して一体でも減らそうと野太刀を突き出す。殺った。そう思ったのに奴らはあれだけの速さで走っていたにも関わらず野太刀に屠られず止まり切った。空いていた距離は無くなり野太刀のギリギリ届かない位置に奴らは四体。それも少しずつ回り込み僕を四方から襲おうとしている。

狩りの知恵もある。牙と爪だけじゃない。頭もある。どうする?何も思いつかないまま完全に囲まれた。四方から同時に飛んできた。


気づくと咄嗟に僕は人生で初めての木登りをしていた。

何とか死の間際からは少し遠のいたようだ。

ここからだ。木の上にいるだけじゃ残りの三匹も寄ってくる。下手すればもっと集まってくるはずだ。そうなればあとは僕の体力が尽きるのを待つだけだ。今奴らを殺すしかないそう思った時には野太刀を抜き飛び下りていた。一体飛び下りながらきりつけ確実に倒した。これで一対三。ダイアウルフをやった時は一体四だったのだ。今回もいける。そう自分を鼓舞した。

狡猾さ、素早さや動きの品やかさはダイアウルフより上だ。単純だが狩りとして有効な手段をとってくる上に基本的な能力が上ときたものだ。一瞬、酷寒の吹雪を使い後ろに居た一体を殺した。

二体になった半分になったやつらは左右に分かれて僕を挟んで同時に飛びついてきた。僕は半身になり右側のやつの攻撃を柄の先で受け左側の奴を刀身で刺し殺した。

これで一対一。もう負けない。正眼の構えをとりじりじりとすり足で近づく。野太刀の間合いに入った。だがこの距離だとやつは避ける。まだ詰める。半歩、また半歩、そして突き殺した。最後に殺したやつの首を刈り取り、残りの三体は右腕を背嚢に入れ森林から離れた。

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