第9話 転機Ⅱ
船が揺れている。
良い匂いががして目が覚めた。
横を見るとテーブルの上に料理が置いてありドクトが椅子で眠りこけていた。
まだ料理は温かい。
怪我人でも食べやすい具の少ないスープをすする。
味付けが母上の作るスープに似ていて涙が出た。幸せな夢をまた思い出してしまった。
きっとドクトが作ったのだろう。この味を知っているドクトについていくと決めてしまった。
理性はまだ疑えと言っているがここまでしてもらって話に乗らない理由がなかった。ベッドの上に置いていた野太刀を床に置きスープを啜り食べ終わるとまた眠った。
「……ニン、ジェニン」
ドクトの声で目が覚めた。僕は決めていた答えをドクトに伝える。
「ドクトさん僕はあなたについて行きたいと思っています。」
「は?起き抜けにどうした?俺は悩んでいいって言っただろ。」
ドクトが心底わからないという表情でそう言った。
「あなたのスープを飲みました。母のスープに似ていました。父の名を知り母のスープを知っているあなたを信用するには十分です。そして父の見立てでは扱えないとされた冬の魔道具が扱えるかもしれないのであれば守り手としてはその可能性に掛けるべきだと思いました。」
「スープってお前…まあお前が決めたなら俺は別に構わねえが。リオンの息子が目の届く範囲にいるってのも俺としちゃ嬉しいしな。」
「それじゃあドクトさんよろしくお願いします。」
「おう、あと俺の事呼ぶのにさんはいらねえよ。」
「いえ……流石に父上のご友人を呼び捨てにはできません。語学も学ぶんですよ。散々失礼を働いてますがこれ以上は失礼を働けません。」
そうだ。彼は助言を無視して死にかけた僕を助け、自分の得にならない事を申し出てくれているのだ。礼を尽くさねば父上に顔向けできない。騙されたとしてもその時は鎧の吹雪がある。
「一応言っとくがよ、善意だけじゃなくて打算も込みだぞ。冬の魔道具には興味ない。だがリオンの息子で気にかけてる面もあるが子爵んところでの依頼は子爵とその家族の護衛もある。子爵の所のガキがお前と歳が近いからお前に押し付けようとしてる。そんなに俺の事を信用するなよ。お前は冬の魔道具の守り手だろう。」
ドクトの本音だろう。
「構いません。冬の魔道具が守れればそれでいいのです。冬の魔道具に興味がない事はすでにドクトさんの行動でわかっています。その上命を助けてもらってます。多少利用されて丁度いいぐらいです。」
「はぁー、リオンの息子らしいな。まあいいやじゃあ着いて来い。んでお前が船に乗ってもう五日経ってる読み書きの勉強しなきゃお前は護衛の仕事で役に立たなくなる。明日から勉強だよく寝ろよ。」
一方的にそう言ってドクトは部屋を出て行った。
それから僕はドクトに公用語の読み書きを習った。途中船が目的の漁港に着いた。腕の傷を見てもらうのに三日ほど滞在しその間、これから向かうヴァーフェス国についても習った。
大陸の南西に位置する大国らしい。三年程滞在するポート領は肥沃な土地で魔性生物も多いとの事。僕たちはポート子爵の護衛もとい便利屋として魔獣を狩ったりするのも仕事らしい。そして船で半月もかかる理由がなんと小国ぐらいの大きさはある大河があり流れも強く魔獣も多いため船では渡れないため海へ迂回していたらしい。そしてここから東に荷馬車で二月かけてヴァーフェス国の最南東まで進みとの事であった。
そして荷馬車に乗りポート領へまた進んだ。
道中多くの畑がありカラフルな作物を見た。西の果ての里では作物なんてものは見られなかったため正直心が躍った。食事は魚とホワイトウルフにホワイトベアの肉ぐらいのものだったためこれだけ色鮮やかな食べ物があるものだと驚いた。
景色に夢中になったところをぺしりとドクトに叩かれ語学を学び地理を学んだ。
あまりにも僕が注意散漫な状態で学んでしまった事もあり語学に遅れた出てしまったためドクトはペースを落として作物を観察したり、作物を育てる人と話す時間を設けてくれた。
そのおかげで二月かかるところが三月かかってしまった。
その間に左腕は傷痕が残りはしたが完治していた。野太刀を振るっても違和感も痛みもない。
万全の状態でポート子爵の元へ行けそうだ。
明日には子爵のいる町に着くらしい。
読み書きも覚え腕も完治しあとは何でも屋の私兵として働くだけだ。ドクトは忙しくなるから早く寝ろと言うと馬車の奥でいびきをかき始めた。
僕も寝よう。
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