第4話 出会い
昨日とは違い陽が昇りきる前に起きた。
昨夜見えた明かりのほうへ歩き出した。目標が見えているためか足が軽く心持ちも軽く感じる。
あとはお金と言語の問題である。
言語の問題か解決すればお金の問題も恐らくは問題ないが言葉が通じなければ僕は幼児未満の能力しか発揮できない。
そして言葉が通じず悪目立ちしてしまうとこの格好だ。町から追い出されてしまっても仕方ないという事実は依然としてあった。だが今ここで考えてできる事と言えば言葉が通じる事を祈ってあの町へ向かうしかない。
里が滅び父母を見せてて亡くしたこと以上に悪い事は起きないという、ほぼ開き直っている状態でもあった。町の門が見えてきた。行商人らしき馬車が多くの列でにぎわっている。言葉が伝わるかは彼らに話しかけて確認してみよう。これだけの列だ待ってるのも暇だろうし多少なら付き合ってくれるだろうという浅い考えで一番近くの者に話しかけてみた。
「あの、この町はなんという町なんでしょうか?」
「_______」
あっこれ通じてないな……。身を翻して町の門から少し離れてどうするかを考える。
考えていると荷馬車から帯刀した精悍な顔つきをした男が近寄ってきた。野太刀に手をやりいつでも抜けるように警戒をする。
「あーあんた多分西の果ての里の人だよな?さっき話してて言葉通じてないみてえだから困ってんじゃねえかと思って話しかけに来たんだけど大丈夫か?」
里の事を知っている。言葉も僕に合わせている。冬の魔道具について知っていてもおかしくないし狙っていてもおかしくない。どうするべきか考えていると向こうから思いがけない名前が飛び出してきた。
「リオンってやつと友人なんだが知らねえか?困ってるんだったら手助けできるかもしれねえぞ。」
父の知り合い!?父の名を知る予想外の人物に混乱が生じた。
「あなたはリオンさんとどういう関係ですか?里の者の名前は基本里の人間しか知らないはずです。」
「あー、西の果ての里の近くで倒れて助けられた事がある。それからしばらく世話になった。だから同族が困ってるなら今度は助けようかねってね。」
里の周りには里に近づけないように方向感覚を狂わす魔術が張られてる。にも拘わらずこの男は里に近づいた上に、本来部外者を入れる事がない里に入ってしばらく生活もしたという。
かなり怪しい。僕の限界が近くなければ絶対に乗っていない。けど今は乗らざるを得ないそんな状態。警戒は解かずに案内だけ頼むのが良さそうだ。
「失礼な態度をとってしまいすみません、少し諸事情があり人を疑うような状態だったためお許しいただければ幸いです。是非ご助力いただきたく思います。」
「オーケー色々あるもんだし仕方ねえよ。俺の名前はドクト。傭兵をしている。お前は?」
ドクトが手を差し出しながら言った。
「僕はジェニンと言います。リオンの息子ジェニンです。」
この男、ドクトが父に助けられたというのであれば最大限利用すべく父の名をだした。
「お前リオンのガキか……そうか、なるほどな」
「ドクトさん先ほどの通り僕はこちらの言葉がわかりません。でもこの町に入ってお金を稼ぎ船に乗りたいのですが何かいい方法はありませんか?」
「金と船か……。金は多分船に乗るための運賃って事だよな?リオンのガキって事なら力になれん事はないが聞きたい事がある。お前リオンの息子なら次の冬の魔道具の守り手だろ?なんで里の外をうろついてるんだ?」
聞かれたくない事を聞かれた。というよりも思っていた以上にドクトが里の事情に詳しかった。
冬の魔道具の事だけでなく守り手についても理解している。
父の息子を名乗ったのが失敗だった。
「一時的な家出みたいなものです。家出というよりは見分を深めるための旅みたいなものですね。こう見えて剣術は一人前として認めてもらっています。」
「ほー、結構お堅そうなところだったが意外と許されるもんなんだなあ。それよりジェニン、お前歳いくつだ?随分幼く見えるがリオンから剣術で一人前を言い渡されるなんてやるじゃねえか。」
「そうですね。僕もダメもとでお願いしてみたら許可が出てビックリしました。歳は今年で12歳になりました」
なんとか誤魔化せたようだ。
「12で剣術免許皆伝か。いくつか条件はあるが運賃を出してやってもいい。どうする?」
条件ありとはいえ船に乗れるのはありがたいが条件とはなんだろうか。
過去里に訪れているのであれば冬の魔道具の身なりを知っている可能性がある。
もし冬の魔道具を要求してくるようであれば……。とにかく条件を聞いてみよう。
「それはとても有難いですが条件とはいったいなんでしょうか?僕にできる事であればいいのですが。」
「俺の次の仕事についての話になる。。2日後に船に乗り半月かけて漁港に向かう。そのあと2月かけてヴァーフェス国に向かいそこでポート子爵の私兵として雇われる予定になっている。で、条件だがまず一つ目だが2日後の船に乗るまでの間にこの近辺にいるある魔獣を狩ってもらう。条件二つ目は俺の傭兵の仕事を手伝う事だ。差し当たってポート子爵の私兵として長期で雇われる事。条件その三に船に乗っている間に公用語を覚える事だ。傭兵の仕事を手伝うにしても言葉が話せなきゃどうしようもないからな。以上だがどうする?」
思っていたよりも条件が多いし長期の私兵は特にネックだ。同じところにとどまり続けるのはリスクになる。雇われ先が子爵とはいえ追いかけてこないとは言い切れない。だけど今の僕にとってこの話は渡りに船だ。言葉も覚えられるし乗らない理由がないとも言える。乗ろう。
「わかりました。その話ぜひ乗らせてください。差し当たって魔獣の討伐ですがどんな見た目のものを狩ればいいですか。察しているとは思いますが言葉も土地勘もないので魔獣の名前を言われても多分わかりません。」
「だろうな。ちなみに魔獣の討伐経験はあるか?」
「里の近くに居たホワイトベアやホワイトウルフであれば。他はありません」
「なら多分問題ないな。門から見て正面に森林地帯があるだろう。そこにダイアウルフというホワイトウルフに似た魔獣がいる。見た目は毛が黒くなっただけだ。ホワイトウルフよりも基本的には弱いから問題ないだろう。ただダイアウルフには亜種と強希少種がいる。緑の毛色とお前の二倍以上の大きさをした個体を見たら逃げろ。他に何かあるか?」
亜種と希少種……初めて聞く単語だった。
「亜種や強化種はそんなにも強いのですか?」
「強い。お前の強さがどの程度かわからんが12の子どもが相手をするのはおすすめできない。見つけたら絶対に逃げろ。戦えばおそらく死ぬ。他の個体が見つからず二日の期限が経とうとしても戦うな。命よりも大切なものはない。」
「わかりました。ではそのダイアウルフを狩ってきます。」
僕は踵を返し森林へと歩みを進める。
「あ、おい待てお前まともに飯食ってないだろこれをもってけ。」
ドクトはそういうと僕に少しの食事と飲み水を渡してくれた。
「ありがとうございます。」
今度こそ僕は森林地帯へと向かった。
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