第3話 孤独の少年
父から冬の魔道具を剥ぎとった後、それを着て、走って走って走って、少し休んだらまた走った。
走っている間は里の事を考えた。見捨てた家族と友人、隣人達のいる里。
父に「無理だ逃げろ」と言われたから逃げた?だが最終的には自分が決めた。
父は致命傷だったからまだ……まだ納得が行くが冬の戦士や母上、友達は?
今更どうしようもない考えが頭の中をぐるぐると回る。
そして僕は逃げたからには絶対に冬の魔道具を守り切らなくてはならないという強い義務感から疲労感が麻痺するまで走り続けた。
気づくと明るかったはずの周囲は暗くなり夜になっていた。
この吹雪の中追手はないと判断した僕は雪穴を掘り気絶するように眠った。
目が覚めると空がやや明るくなっており朝を迎え始めていた。
まずは追手を撒いて生活基盤を整えなくてはいけない。
家族と里を亡くして一晩しか経っていないにも関わらず冷静な自分がいた。血がつながっていないから……いや考えるな。父に託された冬の魔道具を守る事だけを考えるんだ。
追い付かれたら終わりだ。それなら逃げずに里で戦って死ぬほうがマシだった。だから絶対に追いつかれないようにしなくてはいけない。
まだ冬の魔道具を十分に使いこなせはしないが酷寒の吹雪を短時間使い、雪に残る足跡を消しながら走る。冷えていく体は走る事で体温を上げてカバーした。
問題は食料だった。火をおこすと追手に気取られてしまう。
にも関わらず食べられるものは凍った水の中にいる魚ぐらいのものだった。
冷えた体を温めるために必要な食糧で体を冷やすという悪循環ではあったが動くために必要と割り切って食べた。
そんな事を繰り返しているといつしか天候が暖かくなり緑が見え始めた所で追手から逃げ切れた事を確信した。
酷寒の地である里からここまで酷寒の吹雪を浴びながら僕以上のペースで動く事はできなかったはずだ。
そして追手は食料や荷物がある事を考えると遅々として歩き僕の痕跡を探しているだろう。
気が抜けた途端座り込んでしまったがまだ油断はしきれない。
僕は立ち上がり歩みを進めた。
少し歩くと森林地帯があった。母から聞いた話と書物でしか知らない場所ではあるが足元に気を付け群生生物に注意を払うように言われた事を思い出した。
ふとした事で母の事を思い出し少し涙が出たがどこか冷静な自分が涙を拭き、次はどうすれば良いかを考えていた。
西の果ての里から来た以上連中も東に来るのは間違いない。
撒き切る事を考えれば荷馬車や船にのって遠くに行くのがいいはずだ。問題は人を見つけるのとお金をどうするかだ。里をでるなんて事を考えた事はなかったから昔興味半分で見た世界地図も朧気だ。
順当に考えると海沿いを歩き港町を見つけるのがベターであると決めた僕は森林地帯から離れ海沿いへ向かい始めた。
――海沿いを歩き続けて5日程経っただろうか。
木の実や釣りで飢えを凌ぎ歩き続けた。
里を出て少なくとも10日は経つ。精神的にも体力的にも限界を感じ始めていた。気が休まらない。食事も満足に食べられていない。体が休まらない。そしてなにより独りという事実に耐えられなかった。
里にいた時は父と修練をし終われば歳の近い友人と遊ぶという日々を過ごしてきた。誰も居ない見知らぬ地で冬の魔道具を守り抜かなければならないという重圧に数秒後潰れてしまってもおかしくないと自分でも感じている。
だが歩くしかない。冬の魔道具を守るのが僕の使命なのだから……。
弱音と義務が頭の中で交互に浮かんでは消えまた1日が終わった。
寒くもなく暑くもない過ごしやすい気候ではあるが鎧を脱ぐ事は絶対にしない。
鎧を脱ぐときは本当に安心できる瞬間のみとあの日から決めていた。岩場の影に隠れ気絶するように僕の意識は落ちた。
気づくと日が昇り太陽が真上に来ていた。眠りすぎた……!
いくら追手から距離を離しているとはいえ半日無駄に過ごしてしまったのは気が抜けているとしか言いようがない。すぐさま起きて普段よりも歩調を早め歩いた。
食料調達の時間は最低限に抑え歩きながら食事をする。
そしてすぐに夜になってしまった。できればロスした半日分進めたいところだったが少し先に明かりが見え港町が思っていたより近くにあり、明日の朝から歩けば昼過ぎにはつきそうな距離だと分かると素早く意識を手放した。
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