第2話 孤独になった少年

「ジェニン!今日の修練は短かったな!」


「ジェニン!今日は沢山遊ぼうな!」


村を歩いていると皆が声をかけてくれる。


「うん!でも短かった分ちょっとだけ剣術の修練やってからね!」


そう答え、剣を取りに家に父と戻る。


「いいのか?たまには息抜きにと思って早く終わらせたのにお前は真面目が過ぎるぞ。」


「まだ冬の魔道具を扱う感覚が掴めていませんしせめて剣術だけは突出しなければ父上の子として胸を張れないのでお気になさらず。」


父の優しさを感じ、嬉しさとともにやる気が沸き上がってきた僕は単純だなと思うが

父にはそれを悟られないようにそう答えたその時、異変が起きた。

父の代になってからは手入れの時以外には鳴らした事がないと言っていた警鐘が鳴り響いた。


「ジェニン!」


「はい!冬の魔道具のマントを取りに戻ります!母上にはなんと伝えますか!?」


叫ぶようにして父に問いかけた。

父は膝を少し曲げ、頭の高さを僕に合わせると肩に手を置くと落ち着いた様子で答えた。


「急がなくてよい。だから母さんにこう言うんだ。を教えてくれと。」


「秘密……?とは一体……。」


「それを俺から伝えるのは母さんの役目だ。マント以外の冬の魔道具があるとはいえ余裕があるとは言い切れない。母さんのところに戻って話を聞いたらマントを持ってくるんだ。いいな?」


有無を言わせない表情で父はそう言った。


「はい!」


返事をするとほぼ同時に反射的に足が家に向かった。


息を切らしながら走り家に着くと普段にこやかな母が珍しく真剣な表情で出迎えてくれた。


「母上!父上から「あなたの秘密の事を聞くように言われたのでしょう?」」


父との会話を聞いていたかのように母は言い当てた。


「はい」


「父さんとの約束でね、いつか来るとわかっていたから準備していました。」


母はさも当然と言わんが如くそう言った。

そして僕の出生の秘密。

僕は父と母の実の子ではない事。

里の近くで行き倒れていた旅の者から赤ん坊の僕を預り、2人の下で実子として育てられた事。

実子でないため冬の魔道具を使いこなせない可能性が高い事。


本当の親じゃない、どうして今まで教えてくれなかったのか、本当の親は何を。

色んな事が頭に浮かび、混乱し、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。

自然と顔が下がり俯いていた。


「ジェニン……」


名前を呼ばれ母のほうを見ると不安と心配、それにつらさが合わさったような表情をしていた。


「わかりました。話したい事や聞きたい事が沢山できましたが今は父上にマントを届けに行きます。これがないと酷寒の吹雪を降らせられないはずなので!」


そんな母の顔を見て咄嗟に口を開いていた。






 ジェニンが戻ると父や村人が戦っているが分が悪そうであった。


「父上!マントを持ってまいりました!」


父へマントを届けるその一心で叫んだ。


「よくやったジェニン!お前は母さんの元に戻り皆を守れ!!」

父は今なんといった?でも背中も守らせてくれないのか?


「嫌です父上!僕は父上の背中を守ります!剣術は一人前だと言ってくれたじゃないですか!酷寒の吹雪は父上の近くにいればやわらぎます!」


この時父の言う事を素直に聞いていればと何度考えたかわからない。


「わかった。だが冬の魔道具を使う以上お前が無理をする必要はない。だから逃げろと言ったら逃げろ!いいな?」


この時の僕は息子として背中を預けてもらえた事に満足してしまい冷静な判断ができていなかったと思う。だが嬉しくて残るという選択肢を選んでしまった。


「はい!」


それから僕は父上に付かず離れず背中を守り続けた。

初めての実戦、冬の魔道具で発生させた酷寒の吹雪の中奪われる体温と視界の悪さ、さらに明かされた秘密によるストレスが体力を削り、限界が近づくのを感じ始めていた。

自分から下がると言うか迷ったその瞬間


僕は足をもつれさせ倒れてしまった。


「ジェニン!!!」


背後の僕に視線を向けた父の胸を飛んできた矢が貫くのをゆっくりと、そしてはっきりと見えてしまった。


「リエン……!!ジェニン!リエンの傷を見ろ時間を稼ぐ!」


隣人の冬の戦士が僕に指示を出した。


「父上!」


刺さった矢は胸に深々と刺さっている。

倒れた衝撃のせいか矢は刺さったまま体内で折れてしまっている。

あふれ出す血液の量から助からないという事を知らしめていた。


「ジェ…ニン」


消え入りそうな声で僕を父が呼んでいる。


「なんですか!?父上!?」


私から冬の魔道具を外してお前ひとりで逃げるんだ」

苦悶な表情の父が消え入りそうな声でそう言った。

何を言ってるんだ?


「父上!逃げません!僕が冬の魔道具で戦います!敵を倒したらすぐに母上を呼んでくるので待っててください!」


血が流れ弱っていくにつれ吹雪も弱まっている。


半ば泣きながら叫んでそう言うと父上は僕の腕を強く掴み絞り出すような声で僕にこういった。


「……敵の数は倒した5倍はいる。冬の魔道具の力を十分に発揮できるのであれば倒せるが今のお前には無理だ。母さんに聞いたのだろう……?早くいけ…!」


死の間際とは思えない父の強い声に反射的に指示に従い僕は冬の魔道具を父から剥ぎとった。



そして自分の里を捨てて逃げだした。

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