第49話 魔法少女として
「魔法少女は物じゃない。生きている人間です。笑ったり泣いたり怒ったり喜んだりする普通の人間です。確かにこの力は有益な物になるかもしれない。でも、それは使う人物次第じゃないですか?」
「つまりは?」
「私達を物扱いするあんたらに力を貸す気になれないってことだよ!」
共存の可能性があるならその道を選びたいしわざわざ戦いたくはない。
こちらに非があるのも事実だ。
けれど、だからといって物扱いされてまで選ぶ道じゃない。
もっと、早乙女会長が選んだ以外の道があるはずだ。
「そちらに戦う意思がないのは分かりました。こちらも戦う意志はありません。魔法少女の力を使うことに抵抗がないかって聞かれたら少しはあります。けど、物として扱うなら別です。私達魔法少女は人間です」
「魔法少女は魔法少女という存在だよ」
早乙女会長は引かなかった。
会長って職に就く人物は己の過ちを正す人がいなくなるせいか馬鹿な盲信に陥りやすい。
真理亜、ひとつ賢くなった!
一歩前に出て一息ついて早乙女会長に立ち向かう。
「私があなた方の組織にボロクソに負けて引きこもり状態になった時、魔法少女のアニメを見たんです。アニメの中の彼女達は負けても立ち上がった。絶対負けないって戦い抜いていた」
みんな黙って聞いている。
「私達が魔法少女をクビになった時、新しい魔法少女が次々と現れては辞めていった。戦いの痛さで泣いた子も絶望した子もいるかもしれない」
由利亜が痛ましい顔をする。
「私が転職した旅館から出戻って魔法少女に就職した時もみんな優しく迎え入れてくれた」
三崎兄弟とユウくんと由利亜は頷いてくれた。
アキさんは手持ちのピーマンで軽く握り締めたりして痛めつけていた。
おい。こちとら真面目な話をしてるんやぞ。
「またクビになって同じ旅館で働いていたらボスとキュートさんが迎えに来てくれた」
いつの間にかボスとキュートさんが息を切らしてこちら側についていた。
いや、キュートさんはボスの上に乗ってるだけだから息を切らす意味が分からん。
「こちらの前会長は魔法少女は夢だって言っていました。人類が夢見る戦い方の一つだって。それってあなた方と変わりはないんじゃないんですか?」
「リア……」
佐藤太郎がこちらを見て近付こうとするのを制して続ける。
「魔法少女は夢見る存在でも夢でもない、生きた人間なんです。だから戦うんです」
「そうですね。戦わなきゃ温泉地を守れないと思ったから魔法少女になったんです。山田さんが加入するまで変身して戦うなんてことしたことありませんけど」
「僕は兄さんが魔法少女だったから魔法少女な兄さんの記録を撮るためになりました」
自重しろ、三崎兄弟。
「私はピッマーンの素晴らしさを広めてピーマンを撲滅するために魔法少女になりました」
いや、魔法少女関係ないやんけ。
「私は職業紹介所の前で声を掛けさせていただいてなりました」
あの時は驚いたよね。
「俺は姐さん…山田さんの拳に惚れて魔法少女になりました!」
うん。それもどうかと思う。
早乙女会長も佐藤太郎もこいつらで魔法少女やってて大丈夫か?みたいな目線になってくる。
分かるよ!その気持ち!握手したいなぁ!敵だけど!!
「魔法少女とは、そんな普通の人間がやっているから魔法少女として活動出来るんだと思います。多分」
「多分かね?」
「いやぁ、後ろの連中の事を思うと断言出来ないですね!」
特に地味にずっとピーマンと格闘しているアキさん!!気付いているからな!!
ボスもそれパチンコ屋の景品の袋だろ!?店名書いてあるぞ!!寄ってきたから遅くなったんか!?
まったく、どいつもこいつも最終決戦だというのに緊張感のない。
早乙女会長に近付くと、佐藤太郎が守ろうと会長を背にして拳を繰り出した。
「まともな拳になってきたじゃん」
「ああ!リアに認めてもらえるように通信教育で空手を始めたんだ!」
すげーな、通信教育。
「でも、安心して。話の続きがしたいだけだから」
佐藤太郎は早乙女会長に振り向くと、早乙女会長は頷いて佐藤太郎を下がらせた。
「交渉は決裂かね」
「いいえ。だってあなた方もエイリアンを保護して助けた。魔法少女のエネルギーだって最初は何かいいことに使う予定だったんですよね?だったら探しましょうよ。双方が納得いく魔法少女について」
私の言葉に早乙女会長は笑った。
「若い者は発想が自由じゃなぁ。由利亜。いい友人を持ったな」
「はい!お祖父様!」
由利亜は祖父と和解出来て安堵の笑みをし眦にきらりと光るものが見えた。
「お互い、これから頑張りましょう」
そっと手を伸ばすと握り返された。
それはそれとして。
一発、今までの分を込めてぶん殴っておいた。
入れ歯も飛んで体も吹き飛んだ。
前会長もそうだったし、歳を取ると体って軽くなるんだなぁ。
なんて思っていると早乙女会長が「なにをしゅる!」と、こちらの前会長と同じ事を言っていて、悪い事を考えるお爺さんって似るんだなぁなんてことを思って笑いが出てきた。
「お祖父様!」
「会長!」
由利亜と佐藤太郎が近寄って早乙女会長を介抱している。
上を見ると雲一つなくとてもいい天気だった。
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