第48話 山田真理亜三十五歳、魔法少女に転職しました!

「と、いうことで何度も出戻ってすみません!これからはボスがなんとかしてくれるそうなので、なにかあったらなんでもボスの責任でお願いします!」

みんなの前で頭を下げてそう言うと拍手で迎えられた。

ボスだけ「なんでもは責任取れない」とか言っているけど無視だ、無視!

「おかえりなさい!真理亜!」

「ただいま!」

感極まった由利亜がハグしてきたので応じる。

由利亜も最初はよそよそしかったのに、感情を出すようになったなぁ。

三崎さんも直人くんも歓迎してくれた。

アキさんからはピッマーンを貰った。

私は未だにピーマンとピッマーンの区別がつかない。

ユウくんは見えないはずの尻尾がぶんぶん振られている幻覚が見える。

ボスとキュートさんは満足そうだ。


「さて、これで全員揃ったね」

ボスが真面目トーンでみんなに声を掛けた。

「まずは魔法少女のこと、相手側エイリアンの理由を説明してやれずに黙って戦わせてすまなかった。魔法少女の在り方に疑問を持ってしまったら辞めてくれても構わない。止める権利は私達にない。だが、信じて魔法少女をしてくれるならまだ力を貸して欲しい。今度こそ嘘偽りなく君達にすべてを明かそう」

魔法少女の在り方。

組織に所属しなくたって、いいじゃん。

魔法少女の心があれば生身だってなんとかなるかもしれない。

そう思って旅館にいた時も何も持たずに傷だらけになる仲間を見ていられなくて駆け出しそうになった。

でも、魔法少女にしか出来ないことがある。

それに、二度もクビになった間も私の心は魔法少女だった。

でも、そもそも、だ。

「魔法少女ってなんなんですか?」

「魔法少女の力は、相手側のエイリアンの惑星を侵略した時に奪った未知のエネルギーが元になっている」

「え」

「だからこそ相手側エイリアンは怒りを持つしこちらは対抗出来ている」

ボスが真面目な顔をして次々と衝撃の事実を言ってくれる。

そんなの、今まで敵だと思っていたエイリアンが実は先に蹂躙したこちら側が悪いと分かった時だけでも戦うのに躊躇するのに更に向こうのエネルギーを使って相手側を痛めつけていたなんて謝罪どころじゃない。

向こうにしたら完璧にこちらが悪だ。

今まで正義だと思っていた事が根底から崩される。

「やはり、魔法少女は戦うべきじゃないんでしょうか?」

三崎さんがボスに問い掛ける。

「……ああ。みんなにバレないように先にこちらが魔法少女研究生で攻撃していたのをメディアに緘口令を敷き黙らせていたが、こちらが攻撃しなければ向こうは反撃しないだろう。元々、大人しい種族だ」

「なんで、戦うんですか?そんなに未知のエネルギーが欲しいんですか?」

由利亜も挙手して質問する。

「ああ。彼等のエネルギーはエネルギー不足の地球には魅力的なものに見えたんだろう。各国の政府は全力を挙げて宇宙へと侵略していった」

「日本だけじゃないんですね……」

「そうだが、相手が現れるのは日本だけだ。恐らく、彼等に手を貸している早乙女会長がいるからだと思う」

「お祖父様が……」

由利亜の顔が強張る。

「大丈夫?」

肩を抱いて訊ねると、由利亜は気丈にも明るく返した。

「もちろんです!もう覚悟は出来ています!」

「そっか!」

由利亜がそう言うなら私がすべきことはないだろう。

でも、もし挫けそうになったら手を差し伸べるくらいは許してほしい。

「他に質問は?」

ボスがみんなを見回しながら聞くけど情報過多で何から聞けばいいのか分かんない。

「とりあえず、こちらが詫び入れる必要があるのは分かりました!」

「うん、そうだね。こちらが悪いのだからまずは受け入れてもらえるか分からないが謝罪から始めようか」

直人くんとユウくんも頷いた。

「それがいいと思います」

「正直悪の組織を辞めて正義の味方になったと思ったら逆だったなんて知ってショックですけど、悪いことをしたのなら謝るべきですよね」

「兄さんも、それでいい?」

以前、悪の組織への敵愾心が多少なりともあったことを気にしているのだろう直人くんが三崎さんの顔色を伺った。

三崎さんはそんな直人くんに小さく笑い頭を撫でた。

「直人がそこまで言うなら、こちらが悪いのも充分分かったしそれでいいよ」

「兄さん!」

直人くんがとても嬉しそうだ。

先日意見が別れたのを気にしていたのだろう。

可愛い兄弟愛だ。

直人くんはブラコンに度が過ぎているけど。

アキさんも大きく頷いて「ピーマンが滅されるならなんでもいいです」と言っていた。

いや、ピーマンが滅される事はないからな?

みんなの気持ちが一丸になったことにボスが満足そうに微笑んだところで毎度お馴染みけたましい警報音が鳴り響いた。


まじでダッシュ以外の現場への行き方はないのか?

毎回そう思いながらも今回も最後尾で到着した。

ステッキを握る手に力が込もる。

久々の変身に深呼吸をして天高くステッキをかざした。

「魔法少女のこんちきしょー!」

声高に叫んで変身する。

本当にこんちきしょうである。

魔法少女もエイリアンも人間も宇宙人も、すべてに対してこんちきしょうである。

何が未知のエネルギーだ!そんなもんなくったって地球は今のところなんとかやってるし、そんなもっと未来の話、偉い学者先生がなんとかしてくれる!筈!多分!きっと!!


「だから、こんな無意味な戦いは終わらせないとね」


変身すると身軽に飛べる。

ビルからビルへ飛び移って佐藤太郎がいるビルの屋上へ全員で乗り込んだ。

雑魚エイリアン……普通のエイリアンは本当に私達が攻撃しないなら無害なもので、戦闘がないと分かると椅子とテーブルを出してティータイムを始めた。

おい、どっから出したそんなもん。

それはともかく。

佐藤太郎に向き合う。

今は戦う事が目的じゃないからか、場の雰囲気は今までにないくらい穏やかだ。

佐藤太郎も落ち着いた様子でこちらの出方を伺っている。

ずいっと前に出て、今回の最大の目的を果たす。

「真実ってのは聞いた。あきらかにこちらが悪い。それはごめんって佐藤太郎からエイリアン達に言っておいて。許してくれるとは思えないけど……。あと、共存の話、詳しく聞かせてくれない?」

ぺこりと全員で頭を下げて謝罪をして、本当にあるなら選びたい共存とやらの道について訊ねる。

佐藤太郎にそう問うと、佐藤太郎の背後から杖をついた老人が出てきた。

「その話ならわたしが聞かせよう」

「お祖父様!」

由利亜が叫ぶ

「会長!」

佐藤太郎も慌てる。

えっ!?由利亜のお祖父さんってことは相手側の会長!?

いきなりのトップ登場に少したじろぐ。

「真実はすべて聞いてきたと言っていたね。君達のトップも多少はまともになったということか」

「ええ。ボスはどうしようもない人ですけど、確かに正しい人です」

「……あなたも、正しい人なんですよね」

三崎兄弟が問い掛ける。

「ちなみに会長さんはピッマーンはお好きですか?」

「アキさん、今それ心底どうでもいい」

私がツッコミを入れると早乙女会長は笑った。

「ピッマーンか。懐かしいねぇ。大昔に食べた事があるが甘くて美味しかったよ」

「おお!ピッマーンの存在を分かっているなんてあなたは悪い人じゃありませんね!」

このピッマーン判断どうにかしてほしいけど、それがアキさんなんだもんなぁ。

多少の呆れと相手のトップが出てきてもいつも通りのみんなに安心する。

「それでは、早乙女会長。共存の話を聞かせていただけませんか?」

私が切り出すと早乙女会長は大きく頷いた。

「魔法少女は夢の存在なんだよ」

……こちらの前会長は魔法少女は夢見る存在って言っていた。

夢見る存在と夢の存在の違いってなんだろう?

「魔法少女への変身パワーには、こちらのエイリアンのエネルギーが使われている」

「知っています。知りました」

「君達が変身しているのは、以前彼等の惑星を蹂躙し奪ったエネルギーが元になっている」

そのままこちらへ歩いてくる。

「彼等のエネルギーを人間が使う結果。それが魔法少女。私達にとっては未知のエネルギーを具現化した夢の存在なんだ」

「あなた方が擁するエイリアンの事は保護されているんですよね?そのエイリアンを蹂躙してエネルギーを奪った私達魔法少女が憎くないんですか?」

「憎い?確かに昔は悲しみと怒りはあったね。だが、私達には出来なかったことを成し遂げた君達の技術力は褒め称えられるものだ」

「魔法少女を信じているっていうのは?」

「その力があれば、戦い以外にも持つ人物によって宇宙にとってとても有益な物になる。私は、魔法少女がそのための存在になり得ると信じている」

早乙女会長がしっかりとした目付きでこちらを射抜くように見詰めた。

こちらが悪いことを謝罪して、共存のことを聞こうと思ったら魔法少女が宇宙にとってとても有益な物になるって。

それが早乙女会長が考える相手側との共存の道としての一歩なんだろう。

…でも、これだけは言いたい。


「魔法少女は、物じゃないです」

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