第47話 出戻り旅館

クビになった私は恥を忍んで以前働いていた旅館に出戻って働かせていただくことになった。

頭を下げる私に女将さんは何も尋ねなかった。

報道では連日私を除いたみんなが魔法少女に変身して戦っていた。

傷付くその姿を見て私も力になれたらいいのにと何度悔しい思いをしたことか。

魔法少女、なりたいな。

でも、敵側との問題解決方法もまだ何も見当がつかない。

私は、みんなと意見を交わした時から決めていた。

相手側と共存できるならしたい。

甘いと言われてもこちらの非道を許してくれて和解して共存出来るならしたい。

人間とかエイリアンとか関係ない。

無駄な戦いなんてしたくない。

人間の私じゃ同じ土俵に立てるか不安だった。

そもそも相手側の攻撃で生身の身体じゃすぐに傷を負う。

魔法少女になって、みんなを守って、相手側と話をして、平和な世界を作りたい。


なんて感慨に耽っていても仕事はある。

「山田さーん!これ菊の間にお願いね」

「はい!分かりました!」

夕餉を持って菊の間に向かいお辞儀をしながら精一杯の笑顔でおもてなしをする。

「本日は当旅館にお越しくださいましてありがとうございます。こちら本日のお夕飯になっております」

褒められ続けた営業スマイルを向けた相手はボスとキュートさんだった。

なんでやねん。

めっちゃデジャヴ〜!

そう思いながらお椀に山盛りご飯を盛る。

キュートさんも器用にナイフとフォークを使ってステーキを食べていた。

……キュートさんのくせに優美だな。

「それで、ボス達は今日は一体何をしに来たんですか?決死の思いで辞めた旅館に出戻った私を笑いに来たんですか?」

「それもあるが」

あるんかい。

でも、ボスの真面目トーンにツッコミをやめておいた。

「魔法少女の組織を買い取ってきた。今後は名実共に私が頂点だ」

ボスが言う。

私はそんなボスを見詰めながら思わずぽかんと口を開けてしまう。

「まじですか」

「まじもまじ。大真面目だよ。このためにパチンコと株で日夜資金を集め給料も節約してきた。魔法少女人気が低迷して株価が下がったのも大きかった。私が大株主として会長に辞任していただいて新たに自身がトップに就任した」

「ボス、頑張ったんだよ」

キュートさんがボスを褒める。

思考が追いつかない。

ていうかそんなこと急に出来るの?前々から計画していた?

「つまり、ボスがボスになったってことですか?」

「ああ。そういうことだ」

ボスがニカッと笑ってVサインを作った。

なんだそれ。

「山田真理亜くん。魔法少女に戻ってきなさい」

なんだそれ。

私がどんな想いで会長…前会長をぶん殴って辞めたと思っているんだ。

そもそもそれならボス達が辞めさせられる前になんとかしろよ。

言いたいことはたくさんある。

でも、魔法少女としての私を求められることが嬉しくてついツンデレみたいな事を言ってしまう。

「何度も転職してたら再就職する時に大変なんですからね!」

私の言葉にボスが豪快に笑った。

「それなら心配ないさ。魔法少女が君の天職だ。もう辞める心配もしなかていいよ。私がボスでいる限り、山田真理亜くんだけじゃない、君達魔法少女を全力で守る」

なんだそれ。

少し泣きそうになって着物の袖をぎゅっと握る。

ボスが格好良く思えるなんて、私もヤキが回ったもんだ。

ボスのステーキをつまみ食いすると、お椀をボスの方へ置いて立ち上がる。

ここまで言われたらやる事は決まっている。


女将さんにはとても丁寧に謝罪して辞めさせていただいた。

せっかく受け入れてくれたのに申し訳ない。

ここも居心地が良かったけれど、やっぱり私は魔法少女がしたい。

魔法少女が私の天職だと言われたけれど、今までのどの職場よりも楽しいと思えるのは魔法少女が一番だった。

それに、やりたいことも出来た。

またボスが今度はしょうもないヘマをやらかして、ボスじゃなくなって私までクビになるかもしれない。

それでも、何度でも魔法少女になれるチャンスがあるならなりたい。

みんなと一緒に、平和な世界を作りたい。


山田真理亜三十五歳、魔法少女に再々就職しました!

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