第41話 新たな魔法少女が元敵なのはお約束

こうしてNEW下っ端が新たな魔法少女になった。

いや、なんでやねん。

なんでうちの組織も受け入れているの?

まじでなんで誰でもウェルカムなの?

魔法少女として、企業としてそれはどうかと思うよ。

いや、でもその敷居の低さがなきゃ雇われてもらえなかった…悩ましいところだな。


由利亜は初めての後輩にウキウキで「この蛇口を捻ると水が出ます!」とか熱心に説明している。

いや、それはさすがに分かるだろ。

そう思ったがNEW下っ端はヨイショが上手かった。

「うわー!本当っすね!蛇口を捻ったら水が出てきたー!」

幼稚園か。

由利亜とNEW下っ端のコントを眺めている場合ではない。

「ボス。疑惑はまだあるし信用しきれないんですけど、あのNEW下っ端はどうするんですか?ヤっときます?」

指を鳴らしながら尋ねるとキュートさんからストップがかかった。

「NEW下っ端が寝返ってこちらについたことはメディアにもバッチリ撮られててニュースになったくらいだよ!次回の戦闘で出撃させなかったら何があったか勘繰られてスポンサーから怒られちゃうよ!」

「そっかー。そうだよねー」

チラリと由利亜とNEW下っ端を見遣ると、コピー機はコピーしたい物をセットすると同じ物がそのまま出てくるという説明にすごいすごい!と驚いた振りをしている。

NEW下っ端、演技派だな。

「仕方ないからNEW下っ端くんも魔法少女になってもらうよ。いざとなったら山田くん。君の腕力で解決してくれたまえ」

「結局力技で締め上げるんかーい!いえ、でも分かりました。NEW下っ端が敵側と通じていたり不信な動きをしたら締め上げます!」

「それでこそ肘鉄のリアだ!頼んだよ!」

「やだ〜!ボスったら〜それ初回でボツにした二つ名じゃないですかー!二度と言わないでくださいね♡」

言いながら肘鉄を喰らわせるとボスはよろめいた。


「とりあえずNEW下っ端くんのこと、なんて呼べば良い?ていうか本名教えて」

私が由利亜の基地内観光ツアーに付き合っているNEW下っ端にそう問い掛けるとNEW下っ端はちょっと顔色が悪くなった。

「本名……言わなきゃいけないんですか?」

「雇用契約とかもあるから印鑑とか証明写真とかも諸々も必要だよ!」

キュートさんが説明していく。

「本名……俺の本名は……」

NEW下っ端くんが言い淀む。

いや、NEW下っ端より恥ずかしい名前なんてあるのか?

「俺の本名は…真実乃英雄です……」

それきりNEW下っ端もとい真実乃英雄くんは俯いてしまった。

「しんじつの、えいゆう……」

キラキラネームなんてもんじゃねーぞ。

英雄くんのご両親はなんでご子息にそんな大層な名付けした。

私が復唱した事により英雄くんの顔が真っ赤になり涙目だ。

おいやめろ、こっちが悪いみたいになるだろ。

「俺、昔からこの名前で虐められていて…あそこの組織ならNEW下っ端って呼ばれて俺の本名なんて誰も知らないし魔法少女になったら普通の名前で呼ばれられると思って……。あ!姐さんの拳に憧れたのは事実です!俺がいじめっ子にも勝てていたらこんな卑屈な性格にならずに済んだかもって…今更なんですけど……」

流石の由利亜も掛ける言葉がないのか沈黙だ。

まさか六人目の新メンバーがとんでもないキラキラネームの卑屈な下っ端根性が染み付いている男だなんて魔法少女の人選に疑問が生じる。

「大丈夫だよ!本名がいやなら魔法少女の名前で呼ぶから!さっ、魔法少女の名前を決めようか!」

空気は吸うもののキュートさんは重苦しい雰囲気をものともせず英雄くんに契約書を持ってきて魔法少女としての名前を求めた。

「名前…魔法少女としての俺の新しい名前……」

英雄くんが顎に手を当てて一生懸命考える。

私達には見守ることしか出来ない。

せめて英雄くんのネーミングセンスが悪いものではありませんように!

呼ぶ側にダメージが来るものではありませんように!

「決めました!」

英雄くんがパッと閃いたという感じで顔を上げる。

「モナリザはどうでしょう!?世界一有名な女性ですしこれならちびっ子にも親しまれるはず…!」

「色々な問題があるので却下だよ!」

「色々な問題っすか…それじゃあ仕方ないですね」

再び英雄くんが考え出したが不安しかない。

私は由利亜と顔を見合わせるとまた英雄くんを見守るしかなかった。

「あ!これなら最高じゃないですか!?ユウでお願いします!」

「それならいいけど、なんでユウなんだい?」

「俺、昔から自分の名前が好きじゃなかったんすけど、一部だけでも魔法少女として使って好きになれたらいいなって思って……」

そう言いながら照れて頬を掻く英雄くんに思わず私と由利亜は拍手した。

「自分の苦手なことと向き合ってえらい!」

「そうです!それにユウってお名前可愛らしいです!これからはユウくんって呼ばせていただきますね!」

「はい!よろしくお願いします!」

この日初めて英雄くんの、ユウくんの笑顔が見れた。

「これからよろしくね、ユウくん!」

私が握手を求めると、ユウくんもはにかみながら応えてくれた。

「よろしくお願いします!姐さん!」

「姐さんはアウトかなー。とりあえず山田さんって呼んでね」

これだけは譲れないと握手からのコブラツイストでユウくんに教育的指導をすると、即山田さん呼びになった。

よかったよかった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る