第40話 疑惑は広がる

佐藤太郎が言っていた意味が分からない。

真実ってなんだろう?

本当の悪はあの組織じゃないってどういうこと?

謎が謎を呼び、魔法少女達から何も説明されない組織への猜疑心が生まれてしまって一週間。

私はボスとキュートさんを問い詰めていた。

後ろには他の面々も構えている。

「一体どういうことなんですか?佐藤太郎の言っていたことはなんなんですか?」

壁に拳をめり込ませた壁ドンにもボスは無言を貫いていた。

キュートさんは隣で逆さ吊りにしておいた。

ここまでしても喋らないなんて。

疑惑は不安へと変わっていき、みんなと話し合うことにした。


「どう思う?」

ボスとキュートさんが不在の間にみんなで集まって尋ねると、みんな他の人を見ては押し黙ってギクシャクした雰囲気だった。

「私は今、悪の組織の意味もこの組織の意味もよく分からなくなっている。佐藤太郎が言っていた真実が何か知りたい。今度現れたら白状するまでしばくつもり。みんなはどうする?」

「……戦います。あちらが街を攻撃しているのは事実です」

由利亜が控えめに言った。

「そうですね。なんにしても攻撃は食い止めなくてはいけません。温泉地が潰れてしまいます」

ミサキさんが同意した。

「兄さんとの思い出の地を壊させる訳にはいかない。僕も戦います」

直人くんも頷いた。

「ピーマンの撲滅をするまでは街に被害を出すわけにはいきません」

アキさんが燃えていた。

いや、街に被害が出たらピーマンどころじゃ無いだろ。

「じゃあ、とりあえず次に敵が現れたら今まで通りに戦っていくってことでいいね?私も佐藤太郎が現れたら色々聞くよう拳を我慢するよ」

我慢とか出来るのかよ、こいつって目で見られたからもう一度壁ドンで視線を黙らせた。

基地内の壁に穴が二つも空いたけど、そういうオシャレもあるよね、大多数の人類が知らないだけでそういうのが好きな層も居る筈!多分きっと!

でも世は無常で修繕費を給料から差し引かれた。

しかも足りなくて数ヶ月に数万ずつ引かれることになった。

くそっ!これも組織がはっきりしてくれないからなのに!こんなところだけはっきりさせて!

私がプンスカと自業自得ながら怒っていると警報音がけたましく鳴り響いた。

身内がだんまりなら敵側を問い詰めるしかない!

待ってろよ、佐藤太郎!今度こそ真実を吐かせてみせる!


「魔法少女のこんちくしょーーー!!!」

現状を鑑みて心の底から叫んで、もはや凶器と化しているゴテゴテメルヘンステッキで変身して現場に颯爽と登場すると、やっぱりあちらの組織のエイリアンが街を破壊していた。

これが悪じゃないというのならなんなんだろう?

真実ってなんだろう?

佐藤太郎はどこだろう?

雑魚敵をみんなに任せて適当にぶん殴りながら探しつつ敵の内部へと進んでいくと下っ端と佐藤太郎が高笑いしながら指示を出していた。

うっわ!恥ずかしい!まじでなんで私ってばアレと付き合っていたんだろう……。私が若気の至りと佐藤太郎と下っ端の高笑いに背筋がぞわりとしていると、向こうも私に気付いたらしく佐藤太郎が「リア!」と言いながら尻尾があったら振ってる勢いで来た。

おい。敵同士やぞ。別れてんやぞ。下っ端が前にぶん殴ったところを抑えて戸惑ってんじゃねぇか。

「佐藤太郎!お前に聞きたい事がある!」

肩をブンブン回して拳を我慢するとか言っていたけど本人を前にするとつい手が出てしまう。

下っ端は蒼白だ。もう悪の組織辞めろ。まともな職に就け。人のこと言えないけど。

佐藤太郎とNEW下っ端相手に対峙する。

「リア、今度こそ話を聞いてくれ」

「うん。聞く気で来たよ。なにがどんな真実か、本当のことが知りたい」

「それがどんな真実でもかい?」

佐藤太郎が真剣な眼差しで尋ねてくる。

頷いて一歩踏み出して近付く。

「覚悟は決めた」

「そうか。リアは昔から決めたことを曲げないからね…そういう頑固なところも好きだよ」

「あっ、今はそういう思い出話とかいいんで本題さっさと終わらせてください」

しんみりと過去の思い出トークを始められそうになったのでバッサリ切った。

佐藤太郎は寂しげにしながらぽつりと呟いた。

「……本当は今日にでも話すつもりだったんだけどね、会長からまだ時期尚早だって止められてしまったんだ」

会長……由利亜のお祖父さんか。

まだ話すべきではない真実なんて余計に気になる。

ここはやっぱり力尽くで吐かせるしかない。

私が構えると佐藤太郎は早々に「それじゃあ」なんて言って帰って行った。エイリアンももういない。

居るのは何故か残ったNEW下っ端だけだ。

「あんたは帰らなくていいの?」

じっと見られて居心地も悪かったのでとりあえず聞いておく。

NEW下っ端相手なら楽に勝てるし、問題はないだろう。

肩を鳴らして臨戦体制になると、NEW下っ端が土下座した。

あまりのことに面を食らっていると、NEW下っ端は声高に叫んだ。

「俺、悩んでたんですけど決めました!姐さんの拳に惚れました!ぜひ弟子にさせてください!!」

「ええっ!?」

見た目は完璧美少女リアに対して姐さんなんて言うNEW下っ端。

おいやめろ。ただでさえない人気がニッチなものになるだろ。

「姐さんの拳だけじゃない数々の技のお話は佐藤専務からよく聞かされていました!」

佐藤太郎…お前が元凶か!!

「俺が魔法少女になれるなんて思っていません!でも、姐さんのお力になりたいんです」

「いや、とりあえず土下座はやめよっか。メディアの目が痛い」

「これは姐さんに恥をかかせるような真似を…!すいやせん!!」

うーん。バリバリの下っ端根性。

私がどうするか悩んでいると敵を倒し終えたみんなも集まってきた。

そして逆さ吊りにしていた筈のキュートさんも。……どうやって来た?

「敵が魔法少女になれないなんて規則はないよ!なっちゃおうよ、魔法少女に!」

「軽いっ!!えっ?まじで?いいの???」

あまりの展開に私がキュートさんに問答しているといつの間にかステッキを受け取ったNEW下っ端が「俺が魔法少女に…!」と感極まっている。

なんだこの展開。


こうして、敵のNEW下っ端は悪の組織を辞めて私達の組織に寝返った。

いや、殴られてこっちに来るなんて佐藤太郎共々ドMじゃん!やだよ!こんな人選!!

けれどこれはチャンスかもしれない。

下っ端から色々と聞き出せたら……。

「あ、俺まじで下っ端なんでなにも知らないっす!」

「使えねーーー!!!」

私の叫びはまたもメディアに撮られて口も態度も力技もすぐ出る魔法少女として広く知られることになってしまった。

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