第33話 バンドを組んだぜ!

「そういう訳で、私の祖父が悪の組織の会長なんです」


私に告白した事により他のみんなにも黙っているのも心苦しいと由利亜が言うので、朝礼の時にみんなの前で告白した。

みんな、どう思うかな。

馬鹿な連中だけど悪い奴らじゃないし、由利亜の事を悪く言わないとは思うけど…。

そう心配している中、直人くんが挙手をした。

「はい、直人くんどうぞ」

「はい。それよりも皆さんバンドを組んでくれませんか?」

「なんで!!?!」

挙手した直人くんにボスが発言を許可したら訳の分からない事を言われた。

いやまじでなんで?

「実は文化祭でバンドをやる事になったのですがバンドメンバーがいなくてちょうどいいから皆さんにメンバーになってもらおうかと。あとバンドしている兄さんの写真が撮りたいです。この目と耳に焼き付けたいです」

「なんでメンバーいないのにバンドやることになったの?あとそれだと直人くん楽器もボーカルも出来ないよね?何するつもりなの?」

さすがに真顔で直人くんに訊ねたら逆に呆れられた。

「文化祭の内容を決める際に兄さんの事を考えていたら知らない間に顔でバンドをする事に決定されていました。あと、さっきも言った通りバンドをやっている兄さんの写真を撮って目と耳に焼き付けてDVDを配布して兄さんの素晴らしさをより布教するためです」

「布教するまでは言っていない」

何を言っているか分からない、このブラコン。

私が馴染んだと思っていた直人くんのブラコンっぷりを久々に恐怖していたら由利亜が「私の決死の告白が…」と落ち込んでいたので慰めておいた。

「部外者が高校でバンドやるのもダメでしょ。そもそもミサキさんはどうなんですか?」

兄のミサキさんを見るとパンフレットを数冊見せられた。

「直人がここで貯めたお金で温泉幾つか連れて行ってくれるって言うから…」

「実弟に買収されてんじゃねーーー!!」

久々に三崎兄弟にブチギレているとアキさんが挙手をした。

「はい、アキくん」

「はい。私はドラムなら出来ます」

「なんで???」

アキさんがドラム出来るのも謎だけどなんでバンドやる前提で話が進んでいるの?もしかして私だけ別次元に置いてきぼりにされてるの?

「そもそも直人くんが学校の友達とバンドを組めばいいんじゃない?」

私が直人くんにそう言うと、直人くんが冷静に返してきた。

「僕に友達が居ると思っているんですか?」

「なんでドヤ顔やねん」

……もしかして、なんだけど。

「ミサキさんには?」

「…温泉があるので」

「温泉が免罪符になると思わないでくださいね?」

この兄弟は!この兄弟は!!

「ちなみにアキさんは……」

一縷の希望を込めてアキさんを見るとウィンクされた。いねーな、これ。

「ボスは友達いませんよね」

「いるよ!毎日スマホにもメールも来るし家にも投函されてるんだから!ほら!」

「ダイレクトメールとチラシじゃねーか!」

思わず溜まった鬱憤をボスにダブルリストロックをキメてしまった。

「…この流れ、キュートさんもいませんよね」

「まあ、僕より可愛い存在なんていないよね」

「そんな話じゃないです」

昨日の由利亜の友人がいない告白の方がまだ可愛かった!!揃いも揃ってなんだこいつら!

「わ、私はピアノとヴァイオリンなら出来ます!」

由利亜が焦ったように言うけどまじなんで私達がバンドをやるの決定事項で話が進んでいるの?

みんなバンドやりたかったの?

知らないところでやれよ。見に行かないから。

「山田さんは何が出来るんですか?」

直人くんに訊ねられて考える。

「トライアングルとタンバリンとマラカスかな?」

「これだから山田さんは」

呆れられたけど呆れてるのはこっちだからな?未成年への暴行はさすがにまずいと思っていたけどここは基地内。どんなことでも隠蔽出来るんだからな?

ていうか対人能力に問題があり過ぎる魔法少女ってどうなんだ?

私も散々就活失敗しまくったから人のこと言えないけどな!

気にしないようにしてたけど、就活失敗で魔法少女とかコメディじゃん!

しかもメンバーもろくでもない!!夢も希望もない!!あるのは給与だけ!!

「……分かりました。バンドをやりましょう!」

絶対後悔させてやるからな!!という熱意と共に、私達のバンド練習が始まった。

初日には私と由利亜しか来なかった。

バンドやる気あんのか?

そんなこんなで敵が襲来しても歌って踊りながら戦闘をした。

めちゃくちゃバズった。

この路線……売れる!!じゃなかった、練習しなくては。

練習に来るように説得して、なんとか時々来てくれるようになった。

ボスとキュートさんは差し入れにのど飴をくれた。

その優しさ、いつも欲しかったな。

しかし言い出しっぺの直人くんがまっっったく練習に身が入らずミサキさんを激写しているのに納得いかない。

日々、由利亜と二人で基地内の空きスペースで練習していて鬱憤が溜まりきってしまった。

こうなりゃ思い切りぶちかましてやろうじゃん。


そして迎えた直人くんの文化祭当日。

「由利亜、これを思い切り鳴らして」

「えっ、いいんですか!?」

「うん!ぶちかまそう!!」

我ながら血管切れそうな満面の笑みだったと思う。

由利亜がちょっと引いていた。


「やってらんねーーー!!!」


そんな叫び声から始まった私のデスメタは体育館を無言にさせ、背後では直人くんが幼稚園で歌うような歌を歌いながらトライアングルを鳴らすミサキさんを激写して由利亜が戸惑いながらタンバリンを盛大に鳴らしてアキさんだけノリノリでドラムを叩きながら私のデスメタについてきてくれた。

ありがとう、アキさん。

これからはピーマンに積極してても見て見ぬ振りして他人の振りするね。


こうして、直人くんは兄を激写しミサキさんは温泉三昧で兄弟だけ大満足な文化祭が終わった。


いや、まじでなんだったんだよ。

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