第26話 嬉しくない知らせほど突然に
保養所は普通にいいホテルだった。
手続きをすると各々とりあえず部屋に荷物を置いて解散になった。
観光地だし温泉もあるし、どこから行こうか。
鍵を部屋割りした二人一組に渡していく。
ボスとキュートさんが同室なので鍵を渡すと「ボスなのに1人部屋がアキくんってどう思う?」
と訊ねられた。知らんがな。
だってアキさん大きくて一人部屋じゃないと入らないじゃん。大きなピッマーン星人を魔法少女に勧誘した自分を恨んでくださいよ。
着ぐるみサイズだからダブルベッドでよかった〜。
「じゃあ、僕と兄さんは同室なので」
うん、直人くんが一眼レフ首から下げてるの違和感ないな!慣れってこわい!ブラコンこわい!
ミサキさんは早く温泉に行きたくてそわそわしている。
そこすら直人くんが連写している。
「直人くん、共用のお風呂場内ではミサキさん撮るのやめてね。実弟でも犯罪だからね。同僚から犯罪者出したくないからね」
念の為注意をしておく。個室のお風呂なら、まあ、同意なら…兄弟だし……好きにして。
「もちろんです。これまでの経験からきちんと理解しています。でも兄さんは温泉に入浴中が一番美しいので嘆かわしいことです」
やらかしたことあんのかよ。ミサキさんも自分の弟の言動止めろよ。
もうこの兄弟にはツッコミとか関わらないようにしよう。それがわたしの心に一番優しい。
「私と早乙女さんが同室だよね。よろしくね」
「はい、人と同室なんて初めてで緊張しますがよろしくお願いします!」
最初は一回り年下のセレブ美少女に敵愾心とか負け犬根性つきそうだったけど、もう早乙女さんが癒しだよ。
他がまともなの居ないとも言うけどな!
せめて保養所ではのびのびしたい。
場所を教えてもらってから観光名所とか調べ済みだし!!精一杯楽しむぞー!
保養所の観光名所には美味しいものがたくさんあった。
せっかくの観光だし…という大義名分の言い訳があるせいで次々と食べてしまう。
カロリー?考えたくないな!
もぐもぐと現地の食材やデザートに舌鼓を打ちつつ食べ歩きまで始めたら遠くに早乙女さんが見えた。
黒服数名に何事か話しているけど、危ない感じはしない。
お父さんからの護衛のSPかなにかかな?
買い物行く時にも付けさせられるとセレブ愚痴を以前言っていたしな〜。
早乙女さんも穏やかに話しているから顔見知りなんだろう。
ここでナンパや怪しげな黒服なら助けるところだけど、問題はなさそうだな。
よし、ここは親子問題に首を突っ込まずに食べ歩き再開だ!!
夜になってくるとボスがみんなを呼び出して海岸に連れて行った。
この展開……なんとなく予想できるな。
ていうか、袋からはみ出して見えているのもあるし。
浜辺の中心部に着くとボスが声高に宣言した。
「みなさんお待ちかね!花火大会の時間です!!」
ボスが張り切って大量の花火を用意していた。
アキさんは打ち上げ花火が珍しいのかキュートさんと連打しまくるし、直人くんは花火より花火で遊ぶミサキさんを連写するし、ボスは自分でネズミ花火に火を付けたのに逃げ惑う。
まったく、なにをやっているんだか。
私はみんなと少し離れたところで早乙女さんと線香花火をした。
少し離れていても、あの集団の喧騒が耳を楽しませる。普段はやかましいと思うのに、場所が違うだけでなんで楽しく聞こえるんだろう?
パチパチと手で掴んだ棒の先で燃え光る小さな光。
ど派手な花火もいいけれど、私は線香花火も好きだ。
手元の光を眺めていると早乙女さんから小声で訊ねられた。
「山田さん。もし、私が本当は悪の組織の一員で会長だったらどうします?」
考えたこともなかったことを言われてドキリとする。
暗い中、線香花火から見える早乙女さんの顔は普段通り楽し気で、本当か嘘か分からない。
分からないけれど。
「そしたら早乙女さんと戦わなくちゃいけなくなるからやだなぁ」
本音を伝える。私はもう早乙女さんを仲間だと、この問題児ばかりの魔法少女を支える人身御供の一人だと思っている。早乙女さんと戦うのは悲しい。
私がそう答えると早乙女さんは微笑んだ。
「私も山田さんと戦うの、いやですよ」
悪の組織の一員で会長であることは否定せずに線香花火を見詰める早乙女さん。
「あ、私の花火終わっちゃいましたね。楽しいと終わるの早く感じてしまいます」
「うん、そうだね」
なんとなく真意を聞けないまま終わってしまった。
向こうの大騒ぎも収束しそうだったので後片付けをして合流した。
早乙女さんが悪の組織の一員で会長か…。
考えたこともなかったな。冗談…だといいな。
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