第24話 新兵器と保養所があるらしい

「おはようございまーす」

「山田くん、ちょっと」

朝一で出勤したら手をこいこいされてボスに呼ばれる。

他のメンバーはまだ来ていない。

やばい。何がバレたかわかんない。

とりあえず真っ直ぐボスのところまで行くとキュートさんは相変わらず茶菓子吸引マシーンになっていた。

この味わうこともされず無惨に吸い取られているだけのお菓子も魔法少女課のキュートさん代とかいう謎費用から捻出されてると知った時には思わずキュートさんを伸ばす手に力が籠った。

ボスは珍しく真面目な顔をしていた。

黙っていたらイケオジなのになぁ。残念だ。

「なんで呼ばれたか分かる?」

「さっぱりですね」

心当たりが多すぎて。

「上司への暴行問題とか愛玩系マスコットエイリアンへの暴行問題とか色々あるよね?」

「真理亜、上司やマスコットエイリアンがあまりにひどい言動をすると口も手も出ちゃうタイプだから~テヘペロ☆同僚には暴行問題を起こしていない分褒めてほしいです」

「あのメンバーでそれはすごいけど35歳でテヘペロ☆舌出しは相当痛い自覚はあるかい?」

「あるので今消え去りたいです」

あのメンバーがやべー自覚はあるのかよ。

なんで雇った?

そして今更過ぎる問題を聞かれて動揺して相当痛い言動を取ってしまったのでわりと本気で消え去りたい。

「まあ、それは今更だし山田くんの筋力が上がっていて魔法少女として実力をつけていると実感出来ているいい機会なんだけどね」

「ちょっとマゾっぽいですね」

「減給」

「すみませんでした!!!」

なんてコントをやっていたら本日のシフトメンバーがやって来た。

今日はボスから大切な話があるとかで全員集合だった。




「実は、悪の組織で社長まで倒したが新たな役員会議で社長、専務、パシリが決まった。また振り出しに戻ったんだ…」

ボスがしんみりして爆弾発言をした。

「まじですか!?そんなにパシリのポジション必要ですか!?」

パシリは役員会議で四天王に戻さなくてもいい役職じゃない!?

「パシリにはパシリの良さがあるんだよ。多分。悪の組織的に」

「悪の組織的に……」

悪の組織やべーな。そんなにパシリ必要なの?

「また倒せば問題はないですよ」

なんて、ミサキさんは言うがまず出勤しろ。働け。それに社長戦以外戦ってなかったじゃん。しかも倒したの早乙女さんじゃん。

社長戦はセレブな早乙女さんがいなかったらやばかった。

貧乏人しかいない魔法少女に勝ち目はなかった。

……みんな、欲望に正直だからな…。

私も散財しているつもりはないのに言うほどお金ないしな……。侘しい…。


「そんなこんなで敵戦力も戻ってしまったわけだから今度こそ役員会議でも決まらない程の圧倒的戦力で敵を捩じ伏せたい!みんな!頑張ろう!!」

「はい!」

元気良く返事をしたのは神妙に聞いていた真面目な早乙女さんだけだった。

まじでチームワークないな、このメンバー。


「でも、圧倒的戦力ってなんですかね?玩具会社的には新商品が出るパターンですよ」

「ふっふっふっ、実はうちの技術開発課がとても頑張ってくれているのだ!これで完成して戦闘中に君達が格好良く使用して勝利してくれれば販売促進課に怒られずにすむ!」

ボスが得意満面にふんぞり返った。

「ええっ!ということは新兵器があるんですか!?」

「まあ、とても楽しみです!」

「ふっふっふっ。そうだろう、そうだろう。楽しみにしていてくれたまえ!でも個人の戦闘力も上げておいてね。兵器に頼らない人間社会のためにも」

「はーい」

注意されて軽く返事をしても新兵器というものが楽しみで仕方がない。

というか、今までスデゴロ勝負しかしてなくない?兵器とかなく腕力と筋力に頼って戦闘していたよね?

魔法少女パワー的なのもたまーに使っていたけれど、ほぼワンオペの私が力でしか解決していない。

他のみんなはそもそも出勤しろって感じだし、唯一真面目にシフトに出てくれる早乙女さんも私の真似をしてしまって魔法少女パワー的なのはあまり使っていない。

ブラックカードスラッシュとかいうえげつない技しか記憶にない。

……出来れば早乙女さんにはあの技は使ってほしくないな。

メンタルダメージがとんでもないから。

同じ…いや、私の方がちょっと多いくらいの給料のはず……はず…元が違うしね!

人と比べたって仕方がないよね!!

「ちゃんと兵器を活用して『ママー!あれ買ってー!』と言われるぐらい活躍してくれたまえ」

「ボス、それ買って貰えないやつじゃないですか~」

「そうだな!」

あっはっはっと私とボスが笑い合っていると早乙女さんがショックを受けた顔をした。

「えっ、子供が望むものを買い与えてくれない親がいるんですか!?」

その瞬間、庶民である私とボス、幼少期よりなんでも買い与えてこられたであろうお金持ちである早乙女さんの間に見えない時空間が発生し庶民派の私達だけ時間が少し止まった。

しょ、庶民派ならこっちの方が数が多いもん!

なんとなく対抗意識を燃やして庶民派仲間に声を掛ける。


「ミサキさん!温泉地の別荘買えそうですか!?」

「それが…よくよく考えたら一つの温泉に縛られるのも温泉に失礼なんじゃないかと思いまして…。別荘を購入して一ヶ所に留まるよりもこれまで通りあちこち放浪した方が温泉にいいかと思いまして」

なんだその一人の女に決められない優柔不断なナンパヤローみたいな言い方は。

さも自分に非がないように言っているのが腹が立つ!……対象が温泉だけど!

「大丈夫だよ!兄さん!兄さんの貯金がなくなっても僕の兄さん貯金があるから!」

私がミサキさんにちょっとイラッとしていると直人くんが安定のブラコンしてきた。

「直人くん…直人くんが働いて得たお金は直人くんのために使った方がいいよ」

「いいんです!兄さんの幸せが僕の幸せなんです!」

「ありがとう、直人。ありがたく使わせてもらうよ」

「兄なら弟に遠慮して?」

本当になんなんだこの兄弟。

「アキさんも庶民派ですよね!?」

「そうですね…スーパーでピーマンに説教をしていると営業妨害とかで何故か金銭を取られるのです」

まだそんなことやってたんかい!

ていうか地球の常識教えて上げてよ!!




「……そういえば、魔法少女の保養所があるんだけどみんな行ったことあったっけ?」

ボスがまた爆弾発言をした。

「温泉はありますか?」

「食事にピーマンは混じってますか?」

ミサキさんとアキさんが食い気味に訊ねた。

「いやもっと場所とか聞くとこあるじゃん?」

「すっかり言うのを忘れてたんだけど、せっかくだし親睦も兼ねてみんなで行かないかい?」

「親睦……今更ですか?」

直人くんが冷静に訊ねる。

まったくもって今更だ。

「なんだかんだで魔法少女の入れ替りが激しくてこんなに長期間同じメンバーでいることもなかったからね。記念に行っておきたいのさ」

その言葉は少し切なそうだった。

そうか。今までも数々の魔法少女が戦っては去っていったんだ……。

「……行きましょう!保養所!みんなで!」

「そうですね!みんなで思い出作り、楽しそうです!」

私と早乙女さんが盛り上がるとボスもなんとなく嬉しそうだ。


「じゃあ!新生四天王を倒す活力を得るためにもみんなで魔法少女の保養所を楽しみましょう!!」


こうして、魔法少女の保養所とかいう夢もない施設へみんなで行くことになった。

波乱とか愛憎劇とかないといいな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る