第21話 なぜなら!魔法少女だから!
今日も魔法少女の寮の自室で静養中ということになっているが、辞めていないだけで実質ニートだ。
仲間に散々ニートだなんだと言っておきながら私がニートになるなんてね。
……魔法のステッキはまだ返却していない。
戦うのも怖い。
魔法少女でいられなくなることも怖い。
全部がこわい。
メディアもSNSも好き勝手言い募る。
もうやだ。
そんな気持ちで心が落ち着くと評判のキャンプ動画の焚き火のシーンを延々と見る始末。
……魔法少女のアニメでも見てみるか。
テレビ越しの魔法少女は、どんな時でも諦めなかった。
そういう風に脚本が書かれているんだから当たり前だ。
誰にも応援されず、人知れず街を、人を仲間と守っている。
彼女達は孤独を感じないんだろうか?
「私達は!どんな時でも諦めない!!」
テレビ越しの魔法少女が啖呵を切る。
じゃあ、どんな時に諦めるんだろうか?
いい歳した大人がアニメの少女に意地の悪い疑問を持つ。
この脚本を書いた人に訊ねてみたい。
本当に完膚なきまでに負けて絶望して諦めた魔法少女が再び変身ステッキを持って戦うにはどうしたらいいのか。
……他のみんなはなんで戦いに行けたんだろう?
あんなに普段やる気もなくて、温泉地を巡ったり兄の抱き枕がほしいと欲望に忠実だったりスーパーマーケットでピーマンに説教をしたり……早乙女さんは特殊で世界の平和を願っちゃうような人だけど。
私が一番シフトに入っていたから一番戦っていたし勝ってきた自信もある。
その私が負けたからあの時も早乙女さんはあんな絶望的な顔をしたんだろう。
他のみんなはどうだろう?
……しないんだろうなぁ。みんな自由だし。きっと、私のことなんて気にせず仕事だから魔法少女になって戦っている。
なんだか、あれこれ考えている私が馬鹿みたいだ。
私がいてもいなくても、誰かが魔法少女として戦っている。
今までも、これからも。
今までも魔法少女は絶望して辞めたことがあるとキュートさんが言っていた。
他の魔法少女がどんな子達だったかなんて私は知らない。何故辞めたかも。
私は、気が付いたら寮から出て基地に向かっていっていた。
基地に辿り着くと、ちょうど悪のエイリアンが出て出動したばかりだと言う。
私は再度走って現場まで走っていった。
走って、走って現場まで辿り着く頃には、キュートさんに頼んだ仕掛けが用意されていた。
キュートさんには、登場には派手な爆音とカラフルな煙を頼んでおいた。
ステッキを握り決め、気合いを入れる。
「魔法少女のこんちきしょーーー!!!」
本当にこんちきしょーーー!!!である。
何故、私が魔法少女をやらなくてはいけないのか。
何故、私はそれでも戦うのか。
そんなことはもうどうでもいい。
いや、良くはないけれど、今はいいんだ。
なんだって。
ただ、みんなが戦っているのに一人で燻っているのがいやだ。
既にみんな戦っているが、負けのイメージがあるせいか動きが悪い。
今の一番の理由はこれ。
負けて悔しいなら次は勝とう。
絶対に殴り倒す!
「魔法少女のリア!華麗に見参!!」
震えも怯えも精一杯隠して爆風と爆音で吹き飛ばして堂々と登場した。
「リアさん!」
ユリアさんが駆けつけてくれた。
他のみんなも応戦しながら目はこちらに向けてくれた。
おかえり、と言ってくれたような気がしたのは気のせいじゃないと思いたい。
今の私は感傷的なんだ。それくらい許してくれ。
他のみんなと雑魚敵を殴り倒しながら引きこもっていた鬱憤を晴らす。
「おんどりゃー!!」
敵が尻込みしながら私から距離を取る。
逃すと思うなよ!
逃げる敵を追い掛け時には間接技をしたりステッキという名の鈍器で殴りつつ雑魚敵の数を減らしていった。
立っている敵もあと僅かというところでパシリが目の前に現れた。
前に倒したことがあるから余裕だとでも思われてるんだろう。
先程から「パシリパシリ」と何事か話し掛けてきている。
「うるさい!!」
恫喝するとパシリも負けじと言ってきた。
「パシリ、パシパシ、パシーリ!!」
「パシリパシリうるせーわ!このパシリ!!」
以前より強い右フックでパシリを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたパシリはよろけながらも弁明した。
「……いや、このパシリという喋りは悪のエイリアン的なキャラ付けというかなんというか…」
「知らんがな!!!」
顔面に向けて渾身のパンチを繰り広げるとパシリはもう立ち上がらなくなった。
パシリを倒すと新たな悪のエイリアンが現れた。
「パシリを倒したか。しかし、やつは悪のエイリアン四天王の中でも最弱。次はこの専務が……」
「やかましい!!!」
飛び蹴りかまして黙らせた。
「何が専務だ!エイリアンの癖にカッパハゲしてんじゃねー!」
「リアさん、それ以上はエイリアン組合との問題になりますので…」
ユリアさんが、私が汚い言葉で罵ろうとしたのを引き留めてくれた。
「そうだった、そうだった。リアうっかり!てへぺろ☆」
片目ウィンクしてメディアにアピールしておいた。
これで問題はないだろう。多分。
事実、後のSNSでは炎上とギャップ萌と半々の反応をして多少は賑わせた。
……もっと盛り上がれよ。
茶色くても、負けても、立ち上がって暴言吐いて戦ってるんだ。
もっと、応援してほしい。
魔法少女は戦場では孤独だ。
仲間がいるからといってそれだけで戦える訳じゃない。
街も人も守りたい、そう思わせてほしい。
私には、給料以外で働く理由なんてそうそうない。
戦う理由も敵をぶん殴ってお給料が貰えるからという最低な理由だ。
更に褒めて応援してくれたら余計に嬉しい。そんな平凡で単純な魔法少女なんだ。
魔法少女なんてやっていても、メディアやSNSの反応に一喜一憂する小市民なんだ。
「みんなー!これからも頑張るから、魔法少女への応援よろしくー!」
テレビに向かって、ニカッと笑ってVサインを作って元気にアピールする。
諦めさせない、理由でいてくれ。人類。
帰還後、キュートさんをもにもに揉みながらしみじみ呟く。
「今日も疲れた~」
キュートさんの無限お菓子を摘まみながら揉みしだく。もにもに。
「山田真理亜くんが魔法少女を続けてくれてよかったよ!重大な戦力の喪失になるところだったからね!」
「えー。辞めても構わないみたいなこと言ってませんでした?」
キュートさんに少し意地悪く訊ねると、なんてことのないように返された。
「辞めるのは自由だとしか言ってないよ。強制はできないからね」
それでも嬉しそうに揉ませ続けてくれるキュートさんに教えてあげる。
「魔法少女は、どんなときでも諦めないらしいよ」
「なんだい、それは?どこの、誰の魔法少女の言葉だい?」
まさかアニメのセリフだなんて言えずに「さてね」と揉みながら 返しておいた。
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