第15話 基地内での一幕

「……だから、ここはこうなるわけです」

「なるほど」

基地内にて、最初はミサキさんが好意的だったから早乙女さんに敵愾心バリバリだった直人くんが早乙女さんに勉強を教わるまでになった。

最初は私が教えようとしたが、高校時代にこんなこと習ったっけ…?難しすぎない…?と早々に役立たずが露見してしまったためお嬢様が通う高偏差値大学出身の早乙女さんが教えることになった。

私は悔しさとやるせなさと自分の不出来さを筋トレにぶちまけていた。

最近鉄アレイの重さも増えてきて魔法少女としての戦力的にも上がってきているはず!

賢さでは役に立たなくても腕力で役に立とう!

泣いてないよ!決して泣いていないよ!心の汗だよ!

だってこの世界は力こそ正義だもん!


それにしてもやばすぎる……。

高校の勉強すら分からないなんて…。

いやでも直人くん意外と進学校で私の平凡偏差値校と月とすっぽんなので仕方がないよね!ね!

などと誰に言い訳するでもなく自分の心の中で弁明していると負の感情が出すぎていたのか早乙女さんが遠慮がちにフォローに入ってくれた。

「でも、魔法少女に勉強は必要ありませんし、パンチひとつで敵を倒せる山田さんが

すごいです!」

「そう?そうかなぁ?へへっ」

褒められていない気もするけど一応気を遣って褒めてくれたのだ。

調子に乗っておこう。照れておこう。

私が早乙女さんに敵が現れるまで暇で磨きあげた筋力を見せ付けて感嘆の声を貰っていると勉強の邪魔をされた直人くんから辛辣な言葉が飛び出た。

「筋力バカも露見したしましたね」

「やかましいわ」

そんな様子を見ていた早乙女さんが楽し気に笑った。

「私、やっぱり魔法少女になって良かったです。こんなにいい人達ばかりで楽しい職場で…戦闘はまだ怖いですけれど、皆さんと一緒なら頑張れそうです!」

両手の拳を胸元でぐっと握りやる気アピールをする早乙女さん。

このあざとさが天然だからお嬢様まじこわい。

「そうですね…。僕も、兄さんと同じ職場で同じ空気が吸えるのはとても元気が出ます」

直人くん。爽やかに言ってもそのセリフはアウトだからな?

「さ、勉強再開しましょう。早乙女さん、よろしくお願いします」

「はい!喜んで!」

直人くんの言葉に頼られて嬉しい早乙女さんの声が弾む。

「そんなに勉強ばっかりしていていいの?青春なんて今しかないよ?遊んだりしないの?」

また一人除け者にされた私は手近にいたキュートさんをもにもに揉んで遊んでいた。

「友人と遊んだりはしています。でも、これからいい大学に入っていい会社に就職して一生涯兄さんを養っていくには勉強も魔法少女のお給料もとても大切なんです!邪魔しないでください!」

「まじなんでそんなにブラコンなの?」

「兄さんみたいなこの世のすべての美しさと気高さと優しさと浮世離れした雰囲気を持った人なんていません!」

「単なる温泉馬鹿じゃん」

美しさは認めるけど気高さと優しさと浮世離れ…は、温泉のことしか考えてないから現実感ないよね。そこは分かるよ。

でも気高さと優しさどこから来た?

「……山田さんごときに兄さんの素晴らしさが理解できる筈がなかったですよね。熱くなってすみませんでした」

ふぅ、と溜め息を吐かれて呆れられた。

ちょっとそろそろ直人くんとは一度肉体言語で理解し合わないといけない気がするな!

苛立ちでキュートさんのもにもに揉みに力が入る。

「そろそろギブギブ」

キュートさんからギブされたので離してあげる。

「ごめんごめん」

「山田真理亜くんの握力も魔法少女として立派なものになってきたね!」

キュートさんに褒められたが魔法少女に握力は必要なんだろうか?

いや、日曜朝にやっている魔法少女ものは筋力で敵を倒すこともあったか…。

やはり力こそパワー…。私は強い!




私が謎の自信を得ていると、直人くんに勉強を教えていた早乙女さんがふと思い立ったように訊ねてきた。

「悪のエイリアン、で一纏めにしていますけど、彼等は何をしたいんですかね?」

早乙女さんの素朴な疑問が場を支配した。

何をしたい?地球侵略に決まっている。

最初の悪のエイリアンはそう言っていたらしいし、追随するエイリアンがいてもおかしくはないだろう。

「そんなの!地球侵略だよ!そのために魔法少女が地球を悪のエイリアンから守るためにいるんだよ!」

キュートさんが言うと一気に嘘っぽくなる。

「でも、魔法少女が誕生する前、最初に市街地で暴れたエイリアンも地球を征服して植民地にするって言ってたんでしょ?他のエイリアンも悪の組織に所属して地球を狙ってるんだからやっぱり倒すべき相手なんだよ」

私がそう言うと、早乙女さんが少し寂しそうにした。

「でも、せっかく地球に興味を持って宇宙からやって来てくださったんですから、争わずに和解して観光でもして帰ってほしいですね」

にこり、とまた後光オーラが早乙女さんから出る。

思わず対早乙女さん用のサングラスを掛けてしまった。

しかし、和解か。

考えたこともなかったな。

私が魔法少女になったときから変身して戦うものだと決まっていたし、歴代の魔法少女も戦ってきた。

戦わなくて済むならそれが一番だけど、難しいよな。

相手は最初から滅ぼす気でやって来るし。

悪の組織だってある。


早乙女さんは直人くんから質問を受けて答えている間に悪のエイリアンとの和解を忘れてしまったのかそのままになってしまった。




悪のエイリアンと和解して平和な世界になったら、魔法少女の存在意義はなくなるんだろうな、とは思った。


そしたらまた無職かー。

せめて再就職先が決まってからにしてほしいな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る