第16話 和解の道はない

「おんどりゃー!」

今日も元気よく魔法少女に変身して街を蹂躙する悪のエイリアンと戦う。

華麗にアッパーが決まったときは筋トレ頑張って良かったという充足感がある。

「リアさん!こちらの敵も倒し終わりました!」

「お疲れ様~。じゃあ、後片付けは後片付け班に任せて基地に戻ろうか」

「はい!」

早乙女さんが元気よく返事をしてくれる。

清々しくてもう一戦できそうだ。

変身を解いて普通の山田真理亜と早乙女由利亜に戻り帰路につく。

「早乙女さん、かなり戦いが上手くなってきているね!倒すスピードも早くなったし、すごいよ」

これならいつでも辞められるという言葉は飲み込んでおく。

生け贄が充分育ってからでないと、辞めるに辞められない。

「そんなことないですよ!……でも、山田さんに褒めてもらえて嬉しいです!毎日特訓をしていただけてる成果ですね!」

えへへ、と微笑む早乙女さんを退職するために戦力に育て上げて生け贄にするために毎日特訓をしているなんて絶対言えない。

こんなピュアオーラが出ていて未だに対早乙女さん用のサングラスを用意しないと目がやられるのに。

ちなみにこれは心根が腐った者にしか効果がないらしく、直人くんは平気だった。

ボスとキュートさんは浄化されて灰になろうとしていた。

もうこれも立派な技なんじゃないかと思う。早乙女ピュアオーラ。いいんじゃないかな!歯磨き粉で同じ名前の商品あった気がするけど!商標登録とかはボスがなんとかしてくれるだろう!多分!!




他愛ない話をしながら基地に戻るとボスが優雅にハンモックで揺られていた。

「どうしたんですか?それ」

「ふっふっふっ、いいだろう!通販で買ったのだ!貸さないからな!早乙女くん以外!!」

「普通にえこひいきしないでくださいよー!」

と、無防備な鳩尾に一発食らわせてからデスクに戻った。

ボスはハンモックに揺られたまま反応がないが生きているだろう。多分。

多分だらけの不確定な世の中だなぁと、キュートさんが無限に食べていた茶菓子を数個奪い取り食べる。

働いたあとの甘いものって格別だよね。

早乙女さんは真面目なのでもう今回のレポートを書き始めていた。

そこでふと先日の早乙女さんとの会話を思い出してボスに訊ねてみた。

「ボスは悪のエイリアンとの和解の道ってあると思います?」

「ない」

鳩尾に華麗に入ったのでまだ喋れないかと思いきや間髪入れずに即答された。


「悪のエイリアンがいるから我々がいて、我々がいるから悪のエイリアンがいるのだ」

「なんですか、それ」

「某有名低年齢向けアンパンアニメもそうだろう?それに、少なくとも記録では悪のエイリアンが地球を征服して植民地にしようと蹂躙したことが始まりだと記されている」

確かにそれはそうだ。

だけど早乙女さんじゃないけどやられたらやり返すっていうのはどうなんだろう?

「ここで無理矢理勢いで魔法少女になった山田くんと早乙女くんに悪の組織について事情を説明しておこう」

ボスがハンモックから降りて急に真面目な顔になった。

久々の真面目な話か?とこちらも姿勢を正す。

「悪のエイリアンは悪の組織という名目で四天王がおり形成・運営されている。その名も会長、社長、専務、パシリだ」

「パシリってなんですか!パシリって。せめて平社員じゃだめだったんですか!?」

「せめてその四天王を倒さなくては地球に平和は訪れない」

「なるほど……」

現状、パシリなんて名前の四天王とやらすら出てこない。

パシリの相手すらさせてもらえないなんて、実力を舐められてるな。

これはもっと特訓のしがいがある!

「ボス!トレーニングルームの用品、もっといいの買ってください!鉄アレイしかないじゃないですか!せめてパシリくらい倒していきましょうよ!」



「今月の予算、パチンコでスッたからな……」

ボスが神妙な顔で言い放った。

思わず手も口も出した私は悪くない。

「もっと販売促進課が頑張ってくれたら運営資金も増えるんだろうが、他の子達のグッズは売れているのに山田くんのは売れ伸びず……むしろ在庫を抱える始末だし…企画課にも営業課にも苦情が来る始末だし…」

ボスがいじけるがショックを受けるのはこちらの方だ!

「聞きたくなかった!!そんな事実!!嘘でも売れてるって言ってくださいよ!!!」

「ちなみに後から入ったメンバー、というか山田くんが今いるメンバーで魔法少女になったの最古参だが一番売れていない。魔法少女としての後輩に魔法少女グッズで負けまくっている。由々しき事態だ。ちなみに売上一位は主人公っぽいアキくんだ」

「ちょっと販売促進課と企画課と営業課に殴り込んできます」

拳を鳴らしながら向かおうとすると早乙女さんに止められた。

「待ってください!私は山田さんのグッズ持っていますよ!」

「えっ!?」

身内に持たれているのもそれはそれでなんだか嫌だな、とは言えない。

「いつでも一緒に居てインステにも載せてるんですよ!」

ほら!と見せてくれた早乙女さん自身のアカウントであろうインステには私のアクリルスタンドと早乙女さんのツーショットがよく載せられていたり食べ物と私のアクリルスタンドとか、バリエーションに事欠かない。

内心、うわー…とは思っても楽しそうな早乙女さんにやめてとは言えない。

身内に持たれてこんな大活躍されてるの恥ずかしいやらなんやらでどうにかなりそうだが、貴重な購入者だ。

「ありがとう、早乙女さん!」

そう言うしかなかった。

まだまだ私のグッズが出てきそうな早乙女さんの様子に、どうこの話を切り上げていいか思い悩んでいると都合よく警報音が鳴った。

「早乙女さん!行こう!」

「はい!」

今日も現場まで全力ダッシュだ!




「そいやっ!!」

今日も悪のエイリアンを叩きのめしている。

こいつはか弱い小さな女の子を人質に取るようなやつなのでしっかりしばいておいた。

そこでグッズ販売に流されて忘れていたことを思い出した。

悪のエイリアンと、悪の組織との和解……しなくてもいっか!

四天王を倒すって話も出てるしね!!

したくなったら向こうからリアクションしてくるだろう。

それまではただひたすら敵を倒すのみ!

明日も筋トレ頑張って魔法少女として街を守らなくちゃね!

あと販売促進課と営業課と企画課に殴り込みにいかなきゃ!

えいえいおー!!

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