第13話 ヒロインの座

その日は珍しく魔法少女が全員が揃っていた。

新しく加入した早乙女さんを紹介するし、ちょうどいいんだけど珍しいな。

基地に入るの、一人だと恐いから一緒に入ってくださいと頼まれて事務所の前で待ち合わせてボスやみんなに紹介する流れだ。

早めに来て一度基地に入り、ボスに新しい子が入るのでよろしくお願いしますと説明したら「また了承もなしに…!」とプンスカされたけど、このあとの流れは分かっている。

若くて可愛くて素直で優しくてピュアオーラ全開の早乙女さんにデレッといくんだ。

間違いない。今日のおやつ賭けられる!




事務所の前で早乙女さんを待っていると、10分前にはやって来た。

「おはようございます」

「おはようございます!お待たせしてしまい、申し訳ありません!」

「いえいえ、まだ全然早いですよ!さ、中を案内しますね」

中の事務所を通って基地に向かう。

「おはようございまーす!こちらが先日魔法少女デビューした早乙女由利亜さんです!仲良くしてあげてくださいね!」

幼稚園児の紹介みたいだが考えてほしい。

ボスとキュートさんはともかく温泉にしか興味がない男とその弟のブラコンとピッマーン星から来たピーマンに恨みを持つエイリアンだ。

いきなり普通の女性を投下して大丈夫か不安だったのだ。

ただでさえろくでなしの集まりなんだからせめて仲良くしてほしい。

これ以上職場環境を悪くしないでほしい。

「……初めまして、ロックのミサキで活動しています。ミサキと申します。よろしくお願いします」

「弟の直人です!兄以外に興味はないけどナオで活動しています!特によろしくしなくても大丈夫です!」

「ピッマーン星からきたピーマン撲滅のアキです。ピーマン撲滅にしか興味はありませんがよろしくお願いします。」

及第点がミサキさんしかいねーーー!!!

せめて!初対面は!!印象を良くしろ!!




そう思っていたが、そうでもなかった。

みんな分かりやすく早乙女さんにちやほやしている!

ミサキさんは温泉饅頭じゃなくて温泉の素を渡しているし、アキさんはピッマーンをたくさん渡している。

ちなみに私は未だにピッマーンとピーマンの区別がつかない!!

ボスは案の定デレデレで、魔法少女達の席では座り心地が悪いだろうと自分の席を明け渡そうとしているくらいだ。

キュートさんもいつも一人で無限に食べているお菓子を別けている。

私にはくれたことないのに。


このままじゃ私のヒロインの座が…座が……あったかな?今まで?


唯一兄至上主義でむしろ早乙女さんに嫉妬している直人くんに近付く。

「ちょっと悔しいね」

「兄さんの一番は僕なのに…!」

いや、ミサキさんの一番は温泉じゃないか?という疑問は飲み込んだ。

大人だからね!

当の早乙女さんはみんなの好意に断りきれずあっちこっちで「ありがとうございます!」とお辞儀をしては貢ぎ物が増えていく。

そろそろ助けないと際限がないな。

「はいはい!みなさーん!若くて可愛くて優しくて素直でいいこが入ってきたからってデレッとしないでくださーい!いい加減溜まってる書類でも提出してくださいねー!」

手をパンパン叩きながら解散を促す。

取り仕切るお局って、いなきゃいけない存在なったんだな。

歴代の職場でのお局様に内心敬礼しておいた。

「すみません、ありがとうございます!断りきれなくてこんなに貰っちゃったんですけど、どうしましょう…」

うん、私はミサキさんから初対面の時に温泉饅頭しかもらったことなかったな。

「みんなの好意だから貰っておけばいいよ。多分非合法なものは入っていないと思うよ。多分」

「多分……」

「大丈夫だよ!」

グッと親指を立ててきちんとアピールしておいた。

ここで挫折されて辞められたら困る。

私が次の職場を見付けて円満退職するまでいてください!早乙女由利亜さん!

人身御供とか言うな!合意です!!




みんなへの紹介は済ませたので仕事の説明に入る。

とはいっても、私達魔法少女は敵が現れてからが本番だ。

あとは倒した敵に関する書類を記入したり、壊したビルやらなんやらの謝罪文を書いたりするのがメインだ。

こちらも本意ではないので本当に許してほしい。

「魔法少女って大変ですね…」

荷物をあてがわれたデスクに置き早乙女さんが呟く。

「いや!でも敵の悪エイリアンが現れたらボコって日々のストレス発散になるよ!」

「……えっ」

やばい。早乙女さんが引いてしまった。

「なんでもないよ!みんなから感謝されるし困っている人を助けるやりがいのある仕事だよ!」

慌ててフォローすると、早乙女さんが手を握りしめた。

「そうですよね。みなさんを助けられる、素晴らしいお仕事なんですよね。そんなお仕事に関われて、私、精一杯頑張ります!」

キラキラキラーンと輝く早乙女さんのピュアオーラにはサングラスで対応した。

……私は、温泉にしか興味がない男とその弟のブラコンとピッマーン星から来たピーマン撲滅に命懸けのエイリアンとヒロイン系ピュアオーラお嬢様との五人でやっていけるだろうか?

そういや五人ってテレビでよくある人数だな。揃っちゃったな。


そう感慨深く思っていると警報音が鳴り響いた。

悪のエイリアンのお出ましだ。




魔法少女五人での出動は初めてだ。

五人揃ってぞろぞろ走ると35歳の体力の減少が顕にされてしまう。

ぜーぜー息を切らしながら現場に辿り着くと、ほとんどの悪エイリアンは倒されていた。

ここまで走ってきて何もせずに終わりだと悲しいしやるせない。

せめて一発殴りたい。

すべては魔法少女と悪エイリアンが悪いんだ。


「魔法少女のこんちきしょーーー!!!」

掛け声と共に変身をしてそのまま敵に向かっていく。

敵は私の並々ならぬ殺意に今までにはなかった行動に出た。

合体したのである。

だからなんだってんだ!


「ヒロインじゃなくても人権がほしい!!!」


私の渾身の一撃で合体した敵は崩れ去った。

今日もいい仕事したな。

一人で黄昏ているとチームワークなんて欠片もない面々は自由解散していった。

唯一、早乙女さんだけは近寄ってきて「リアさん!格好良かったです!」なんていつものピュアオーラ全開で言ってくれるものだから、結局のところ私も早乙女さんのこと嫌いになれないんだよなあ。

「ありがとう」

にっこり笑ってお礼を言うと、早乙女さんも笑ってくれる。

そうだよね。ヒロインとか、そんなこと関係ないよね。

そもそも魔法少女自体が男性やエイリアンとかだしね。

「明日も頑張ろうね!」

「はい!」




ヒロインかどうかなんて、自分で決めればいいよね!

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