第12話 新人加入

「新人をスカウトしたいんだけど、やっぱり山田真理亜くんのように職業紹介所に通っている子の方が話に乗りやすいと思うんだ!」

「そうですね…。私もそれで引っ掛かりましたしね」

キュートさんの言葉に頷く。

ブラック企業に人間関係。

転職・就職に悩む人間は多い。

「出来れば若くてかわいくて特技や長所があって素直で優しい心根の正直な子が良いんだけど、なかなかそういう子は一般企業に就職が決まりやすいんだよね!」

「喧嘩売ってるなら買いますよ?」

腕を鳴らして臨戦態勢を取る。

「山田真理亜くんのそういうところが短所だとボクは思うな!だから35歳にもなって無考えで無職になるんだよ!」

「やかましいわ!」

今日もキュートさんに華麗なエルボーをキメてしまった。

転職を考えているけれど、やっぱり私、魔法少女が向いているかもしれない。




そんなこんなでキュートさんと職業紹介所の横に立ち、これはと思う逸材を探す。

……魔法少女になる、そう考えるとどの子もあまりパッとしない。

いや、35歳無職から魔法少女に転職した私が言うのもなんだけど。

少し興味を惹かれる子がいても、どの子もこちらが声を掛ける前にちらりとこちらを向いては足早に去ってしまう。

完全に不審者扱いだ。

声を掛ける前にこちらが職質されてしまうのでは?

職質されて「職業は魔法少女です」って言うの?35歳が?見た目は美少女小中学生の魔法少女に?……無理がある。

私も自分がならなかったら信じられなかった。

というか、中身が私だと知れたら夢が壊れる。

どうすべきかと出てくる人物を張り込んで見ていると、とうとう逆に声を掛けられた。


「あの、魔法少女の関係者をされていらっしゃる方ですか?」

美少女が訊ねる。

えっ!?素でも有名だった!?

「そうですが、何故それを…?」

「そちらのエイリアンさんが魔法少女と共にいることをテレビ中継で見かけたものですから…」

「あ、そうですか」

犯人はキュートさんだった。

しかしこれはまずくないか?

キュートさんが同行していたら騙して魔法少女に勧誘することもむずかしいのでは?

当のキュートさんは若くてかわいくて優しそうな女の子に声を掛けられたので嬉しそうにしている。

どつきたいが、今ここで手を下して魔法少女恐い…とせっかくの生け贄…違った!新たなる魔法少女になる可能性のある女の子に逃げられたくない!

キュートさんなんてもう渡すステッキを選んでるんだぞ!

ここで逃してなるものか!


「自己紹介もせずに突然申し訳ありません。初めまして、早乙女由利亜と申します」

かわいい美少女がぺこりと頭を下げた。

「初めまして、山田真理亜と申します。魔法少女のリアで活動しています」

挨拶を返すと早乙女さんが「えっ!?」と言って驚いた。

「……失礼しました。魔法少女は小中学生の女の子がしていて、関係者の方だと思っていたので…」

「あーーー!!そうですよね!普通はそう思いますよね!夢を壊してすみません!!魔法少女には性別も年齢も趣味も性癖も関係なくなれてしまうんですよ!人工美少女魔法少女ですよ!」

「そうなんですね…」

早乙女さんが驚きのあまり瞳がぱちくりしている。

瞳が大きいな。睫毛が長いな。さすがは人工ではない美少女。

そこでどうしても気になってしまい聞いてみた。

「あの……早乙女さんっておいくつですか?」

「今年で23歳になりました」

一回り下かーーー!!!

でしょうね!そう思ってた!!若そうって思ってた!!

でもいいんだよ!魔法少女の外見との誤差なんて10歳くらいだもん!

差なんてないようなもんだもん!

少なくとも35歳がやるよりも!!

「早乙女さんは職を探されているんですか?」

こんな子ならすぐにどこでも職に就けるだろうに、なんて思いながら魔法少女なんて人間関係最悪な職場に連れ込もうとしても罪悪感が湧かない。

自分でも驚くほどにまっっったく湧かない。

自分の性格の悪さに呆れながらも他のメンバーとボスとキュートさんを思い出すと早く生け贄を捧げて円満退職したい。

私が遠い目をしていかに生け贄もとい早乙女さんを魔法少女に勧誘するか考えていると、早乙女さんは意を決意したようにこちらに答えてくれた。

「あの!私なんかじゃ若くないし勤まらないかもしれませんが、魔法少女をやらせてください!!」

「うっ!!!」

「本当かい!?それじゃあ、君も今から魔法少女だ!ようこそ!早乙女由利亜くん!!」

一回り下の子から若くないと言われてショック死しそうになっている間にキュートさんが早乙女さんにステッキを渡した。

早乙女さんは、とても嬉しそうにステッキを受け取った。


「家の者が職に就くことを心配して今まで労働の許可をされてきませんでしたので、今回が初めての労働になり、期待に胸が膨らんでおります。不束者ですが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」

早乙女さんは再度ぺこりと頭を下げた。

……早乙女さんって、もしかしていいところのお嬢様かなにかかな?

なんか後光がセレブオーラ出しているし。

「こんなことをお訊ねするのは大変下世話かと思いますが、早乙女さんってお嬢様ですか?」

「そんな、古いだけの家で父が幾つかの会社を経営しているだけで私自身には何も力がありませんよ!」

早乙女さんが首をと手を横にぶんぶん振るけど、とんでもないお嬢様な気がしてきたなー。

「ちなみに、何故魔法少女になろうと?」

「世界平和のためです!」

曇りなき眼でそう言われて、己の魔法少女になった不純な動機が心に突き刺さる。

「う…っ、一回り年下なだけじゃなく天真爛漫なあどけなさによる正のパワーに押し負けてしまう…!」

私が路面に倒れて崩れ落ちていても早乙女さんの話は続く。

「あと、お恥ずかしい話なのですが、魔法少女に憧れて…世界に貢献する仕事ならば両親も反対しないだろうと思いまして…」

早乙女さんが少し赤くなって語る。

ごめんね!不純な動機で魔法少女になって!駄目な先輩でごめんね!!

「素晴らしい心意気だね!そんな理由で魔法少女やってくれる人やエイリアンなんていなかった!きっと君には素晴らしい素質があるよ!!」

キュートさんは若くて可愛くて素直で優しそうな子が魔法少女になってくれてご満悦だ。

きっとボスも喜ぶだろう。

なのに心の中からどす黒いものが湧き出てくる。これが嫉妬…?

若さへの嫉妬をする日がくるなんて…直人くんはなんか色々とあれだったし異性だからノーカンだけど、これから比べられるんだろうな。

いや、私は辞めるから関係ないんだけど。




そうこうしているうちに都合のいいことに悪のエイリアンが近くに複数現れたとの指示がきた。

「早乙女さん、初出勤前に初魔法少女になるけど準備はいい?今回は見学だけにする?」

ちなみに他のメンバーは相変わらず温泉地に行ったり学校だったりスーパーでピーマンに説教をしている。

営業妨害だから捕まってほしい。


「いいえ!やらせてください!私にやれることがあるなら、出来ることがあるならなんでもします!」

キラキラエフェクトが掛かって言われる。

早乙女さん、全体的にキラキラしていて目を逸らしたくなる…。


「このステッキを持って、己の願望とか夢とか言いたいことを言うとやる気が出ますよ!」

私がそう教えてキュートさんが早乙女さんにステッキの使い方をレクチャーした。

「願望…夢…」

早乙女さんが考え込む。

多分、望めばすべてが叶ってきた早乙女さんには特にないのかな?

そう思いながら私は変わらず「魔法少女のこんちきしょーーー!!!」と叫んで変身をした。

早乙女さんは再び瞳をぱちくりさせて見ている。

「魔法少女、なりたくなかったんですか?」

「……諸々の事情がありまして」

「そうなんですか…。世間は世知辛いときいておりましたが、本当にそうなんですね」

早乙女さんがフォローになっていないフォローをすると、自身が持っていたステッキを天に掲げた。


「世界の平和を、私の手で!」


うっ、ピュアなお嬢様は変身の掛け声もピュアだった!

キラリーン☆と、私の時には付かないような効果音で変身した早乙女さんは赤を主体とした魔法少女だった。

前髪パッツンのお嬢様ヘアはそのままに髪の毛が赤く染まり、ふんだんなフリルでボリュームのあるスカートに、高めのハイヒールが印象的な衣装だった。

やばい。変身後は同年代に見えても35歳と23歳。

茶色のパッとしない魔法少女とキラリーン☆という変身音がついてしまう赤担当魔法少女。

負けた。すべてが負けた。真っ白に燃え尽きたから白担当になりませんか?なりませんよね。


温泉にしか興味のない男性にも、ブラコン未成年の男性にも、ピーマン撲滅しか興味のないエイリアンにも、同じ日本人女性にもすべてが負けた。

もう、こうなったら悪のエイリアンを滅殺して魔法少女という職を失くすか転職しかない。

私の心が壊れる前に。

……私、この35年間なにしてきたんだろう?

特技も何もないのにパワハラにキレて職を辞めて、企業だって若い子を雇いたくなるのは分かっているのになんとかなると思ってなんともならなくて金銭的に苦労し始めて勧誘されるがままに魔法少女になってしまった。

すべてがなるがままだ。


「頑張りましょう!リアさん!」

早乙女さんがステッキを振るう度にシャララ~ン☆と効果音が付く。

私のステッキは無音だぞ!?何が足りないの!?単3電池!?




そして、悪のエイリアンが暴れている地まで走っていく。

辿り着くと悪のエイリアン達は近くをゴミだらけにしてマンゴージュースを飲んで喋っていた。

何をエンジョイしてるんだ、このエイリアン。

「魔法少女のユリア、いきます!」

本名はやめた方がいいって伝えるの忘れてたな。

でもユリアちゃんかわいいからいっか!

ユリアとマリアも、ユリアとリアもわりと被っているけど私は辞めるからもういいや!

もう……全部私の負けでいいよ!!!名前も似ていていいよ!!!こんちきしょーーー!!!


「負け犬が吠えているだけだと思うなよアタック!!!」

言いながら複数の悪のエイリアン達をステッキで殴り倒していく。

「すごいです!リアさん!」

早乙女さんのキラキラな目が眩しい。

「うっ」

あまりのピュアオーラで心にダメージが!

なんで味方にやられるんだ!

「私も…私だって!」

言いながら早乙女さんが悪のエイリアンにステッキを向ける。

早乙女さん、ステッキを鈍器として扱わないだけで充分早乙女さんの勝ちだよ。

もう負け犬でいいよ。

充分負け犬だったよ。


「負け犬が吠えているだけだと思うなよアタック!!!」

「ごめん!!!それ、呪文でもなんでもないから!!!」


私の真似をして早乙女さんが言いそうにもないことを言ってステッキからビームが出て悪のエイリアンを倒してしまった。

ごめんなさい、早乙女さんのご両親。

あなた方が大切に育てた娘さんに汚い言葉遣いをさせてしまいました。

悪気はなかったんです許してください。

えっ?許してくれる?やったー!ありがとうございます!

あまりのことにイマジナリー早乙女さんのご両親と会話をして許しを得たけど、早乙女さんにはしっかりと私の真似をしたら駄目だと注意をしておいた。


「ですが、やはり現在活躍している魔法少女のリアさんを参考にしたら私でも強くなれるかと思って…駄目でしたか?」


キラキラキラーンと目元に少し涙を溜めて訴えてくる美少女。

対するは負け犬である。

勝敗は明らかだ。

でも、ここで敗けじゃ駄目だ!早乙女さんまで負け犬根性が染み付いてしまう!!

「うん…、私の真似は負け犬になった時にしようね」

「負け犬?」

聞き慣れない言葉なのかキョトンとしてしまう姿までかわいい。


とりあえず、新しい魔法少女は存在自体が私にダメージを与える存在になりました。

敵とやりあう前に早乙女さんのキラキラピュアオーラにやられないよう頑張ります!

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