第8話 目の前でくじの全部買いされたらショックだよね
突然だが、私には集めているキャラクターがいる。
いわゆる、ゆるキャラ的な感じでSNSから流行ってグッズから何から出されている。
いい歳して恥ずかしいかもしれないが、スマホケースもこのキャラクターだ。
職場環境に問題がありすぎるせいか、余計に癒される。
そして、そのキャラクターがくじで発売されるというのだ。
上位賞はぬいぐるみ。
似たような商品を持っているだろうと言われても、これはくじ用に書き下ろしたデザイン。
絶対ほしい!
前日はお参りしてゲット出来ますようにとお祈りまでして就寝した。
さて、楽しみにしていたくじの発売日。
今日は幸い休みだ。勝っても負けても祝杯を上げる準備は出来ている。
販売店舗のレジに並んでウキウキで待っていると、私より二人前のお客さんが「全部ください」と言った。
私は耳を疑った。
全部ください?
と、いうことは私は買えないということだ。全部買うつもりならあらかじめ予約するなりなんなりしろよ!!
私は激怒した。
しかし、怒っても私が買えないことに変わりはないので急いで下調べしておいた別店舗へと向かった。
悪エイリアンが現れる度にダッシュで向かっていた脚力が試されたが、今までのことを思えば目的が楽しみな分、足取りも軽い。
くじの景品が残っているのかドキドキしながら店舗に入る。
良かった。まだ残っていた。
欲しかった上位賞もまだ残っている。
私の他にお客さんはいない。
今度こそ、期待を込めてくじを引く。
5回だけと決めて、1枚ずつ捲っていく。
下位賞が続いてガッカリするがラスト2枚前で念願のA賞が当たった。
「やった!」
思わず出た喜びの言葉に店員さんも「おめでとうございます」とにこやかに対応してくれた。
最後は上位賞のぬいぐるみキーホルダーだった。
早速スマホに着けよう。
そう心に決めて店舗を後にした。
目の前で全部買いされた時にはどうしてくれようかと思わず魔法少女に変身してやらかす手前までどす黒い感情が芽生えたが、念願のA賞のぬいぐるみとぬいぐるみキーホルダーがかわいいから許す。
下位賞もかわいいことにはかわいいのだ。
小物入れにしよう。デスクに飾ろう!
ぬいぐるみも使い道とかはないけど、抱くと癒されるから…ちゃんと使用目的はあるから…。
これは無駄遣いじゃない!!
心の癒しを求めた結果の大切な購入なんだ!
心の癒しを手に入れた私はルンルンで家に戻った。
35歳でもスキップまだ出来た。
「かわいい~!」
翌日、くじの下位賞の小物入れをデスクに置いた。
キャラクターが大きな瓶を持っていて、その瓶の中に物を入れられるようになっているのだ。
小さいのであまり物を入れられる容量はないし何を入れようか悩んだ末にクリップを入れた。
求人内容を纏めるのにクリップで止めること多いもんね!かわいいうえに実用的~!
デスクに置かれたお気に入りのキャラクターにテンションも上がって求人をネットで探す。
あ、ここ良さそう。
お気に入りボタンで保存しておく。
そのまま見て回って気になったところは求人サイトのお気に入りで一時保存しておく。
「おや、山田真理亜くん。このキャラクターは最近見掛けるものだね。君も好きなのかい?」
デスクに置かれた小物入れを見掛けたキュートさんが訊ねてくる。
「そうなんですよ!かわいいですよね~!昨日はくじの発売日で、これもくじで引き当てたんです。なんと!A賞も手に入れたんですよー!すごくないですか!?このスマホに付けたぬいぐるみキーホルダーもそうです!」
ドヤッとスマホをキュートさんにかざすと、キュートさんは微妙な顔をした。
「こんなものよりボクの方が絶対かわいい……」
ぎゅむっとした顔をする程度にはキュートさんはどうやらこのキャラクターに対抗心を持っているようだ。
そりゃキュートさんも外見だけはかわいいけど、中身は屑だしろくでもないし、その点このキャラクターはゆるっとしていてとてもかわいい。
「いや、この子の方がかわいいですよ」
事実を言っただけなのにキュートさんが床に転がってジタバタしだした。
「ボクの方が!かわいい!!」
「はいはい、そうですねー。キュートさんもかわいいですねー」
なげやりに答えたら満足したのか、またそこら辺をふよふよ浮遊しだした。
「キュートさん、床で転がって汚いからシャワー室行った方がいいですよ」
ちゃんとアドバイスも忘れない優しい私。
キュートさんがまたぎゅむっとした顔をした。
これは拗ねているのか怒っているのか。
どっちでもいいか!
デスクのキャラクターを時折チラチラ見ながら癒しをもらっていると毎度お馴染みけたましい警報音が鳴り響いた。
これだから癒しがほしくなるんだよ。
ちなみに私と入れ違いで三崎兄弟が本日は休みだ。
なんでやねん。一人ずつ交代で休もうぜ。
直人くんがミサキさんの休みと合わせたいと駄々をこねて負けてしまったのだ。
ブラコンのせいで結局ワンオペ魔法少女。
昨日出勤なら悪エイリアンも出なかったのになー。A賞の運がこっちで回ってきたかな?
いやでもA賞のぬいぐるみかわいいから許す。
ささっと悪エイリアン倒して、帰って癒されよう!
昨日に引き続き全力ダッシュして現場に来た。
「魔法少女のこんちきしょーーー!!」
掛け声と共に気合いを入れて変身した。
さぁ、悪のエイリアンをささっと倒して癒しと戯れますか!
「魔法少女のリア!華麗に見参!」
びしっとキメてもスルーされる。
うん、やらないって決めたのにやりたくなったのはA賞で浮かれていたからであって、べ、別に悲しくなんてないし!
私は今、美少女だし!!
吹っ切って悪エイリアンと対峙する。
今日のは随分とでかい。ビルの三階建てくらいある。
敵側も強化してきたってことか?
まだ民間人が多いな。
避難誘導どうなってるんだと人の山の方を見ると、一人の人間が我先にと他人を押し退けているせいで混乱がより大きくなっている。
あ!あいつ、私の前でくじを全部買いしたやつだ!!
A賞で浮かれていた気持ちから、あの時のムカつきが思い出される。
避難している側に回り込み、この苛立ちをエネルギーに変える。
「くじの景品を全部買いするなら予約しろ!予約不可で当日全部買いしかないなら店舗側が許しても、他の買いたい人の気持ちを考えろ!スマッシュ!!!」
私の怨恨が大きなエネルギー波となって華麗に悪エイリアンにぶつかり、避難誘導されている側とは反対側に倒れこんだ。
今日も元気よく勝てた!
悪エイリアンが倒れたせいで崩壊したビルは知らん。
早く帰って求人探して、帰ったらA賞のぬいぐるみ抱き締めよ!癒されよう!
ルンルンスキップで基地に帰宅した。
途中で奇異な目で見られたけど、そういや今は35歳山田真理亜だった。
昨日も35歳山田真理亜でスキップしたから、まぁ、いっか!
過ぎたことは気にしない!
なお、私のくじへの恨みは一部のくじを引けなかったオタクの心に突き刺さったとかなんとか。
みんなで清く正しく推し活できたらいいね!
魔法少女リアとの約束だぞ☆(ゴテゴテのステッキ(凶器)を握り締めながら)
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