第6話 押し掛け魔法少女がやってきた

いつものように会社という名の魔法少女の基地に出勤しようと出入り口を潜るところで美少年に声を掛けられた。

もう一度言おう。

美少年に声を掛けられた。

えっ!?やだなにこれ事案!?

普段の行いが神様に認められた!?

「おはようございます~!何かご用かな?」

まあ、普通に考えてそんなことはないのでさっさと美少年から用件を聞いておく。

まだタイムカードは押していない。そもそも事務所にすら入っていない。

このままでは遅刻扱いになってしまう。




「僕を、僕を魔法少女にしてください!!」

美少年が 90度直角に腰を曲げて懇願してきた。

「えーーー!!!」

驚き大声を出してしまっても許されたい。

だってこんな美少年が自分から魔法少女に志願してきたのだ。

「もっと、自分の人生を大切にした方がいいと思うよ!」

人生の先輩として懸命に説得するも美少年は頑なに譲らない。

タイムカードも気になるのでとりあえず中に入れてキュートさんと相談することにした。




「と、いうわけで魔法少女志願者の美少年です」

「やったね!若くて可愛くて素直な子を魔法少女に出来るよ!」

「いやいや!若すぎるし、君!人生を無駄にしない方がいいよ!魔法少女なんてろくでもない職種だよ!!」

若くてのところからキュートさんを締め上げて美少年に説得を続ける。

すると美少年は少し顔を伏せた。睫毛長いな、おい。

「実は、僕の兄も魔法少女なんです」

「えっ、まじで?…あ、ミサキさんの弟?」

アンニュイな表情で言われて唯一の男子、ミサキさんを思い浮かべた。

そう言われれば似ているような気もする。

「そうです。三崎直人と申します。よろしくお願いします」

礼儀正しい!ピュア!最近関わってこなかった人種のため後光すら感じてしまうよ直人くん!




まずは直人くから話を聞くことにする。

お茶請けのお菓子は延々とキュートさんが食べてしまうのでお茶しか出せなくてごめんね!

「兄さんとは、昔はあんなに仲が良かったのに魔法少女に就職してから家に帰ることが少なくなってしまって…」

まあ、温泉地巡りしてるからね!

「僕も、兄さんの手伝いをして助けてあげたいんです!」

そのお兄さん、温泉地巡りしかしてなくて魔法少女として働いたことないけどね!


いやでも直人くん、健気な兄想いのいい子じゃん…。

こんな子を魔法少女としてワンオペ魔法少女として働かせるわけにはいかない!

あとどう見ても未成年!

「ちなみにご年齢は?」

「17歳の高校二年生です!バイトは大丈夫な高校です!」

うーーーん!アウト寄りのセーフ!

えっ、ていうか17歳って私の歳の半分以下…うっ、ごほごほ!!考えたくないことにより体が拒絶反応を示している!




瀕死になりながらキュートさんに訊ねる。

「どう思う?キュートさん」

「そうだね…そもそもミサキが苗字で兄弟なら被ってしまうから魔法少女になるならミサキ2号か他の名前を考えるしかないね!」

「そういう!ことじゃ!ねー!」

いたいけな未成年に見えないようにキュートさんをしばく。

キュートさんも最近は耐性が上がったらしく初めてどついた時には苦し気だったのに最近はケロリとしている。

エイリアンの耐性すごいな。




私がこっそりとキュートさんと攻防している間にも直人くんの昔語りは続いていた。

「兄さんは昔からなんでも出来て、僕の憧れで、ヒーローでした」

あの温泉地巡りしかしていないミサキさんが…いや、私も一度しか会っていないからそう簡単に人を判断しちゃいけないな。

例えその一度しか会えていない原因も温泉地巡りしてるからでも。

「そんな兄さんが家に帰れないくらい魔法少女として苦労しているなら僕が手助けしてあげたいんです!」

もう一度真摯に言われてもね。

ミサキさんが家に帰ってないのは温泉地巡りしているからであって魔法少女のせいではない。

しかも一切戦いもせず経費で温泉地巡りしているのである!単なる不良債権である!




いたいけな未成年な美少年直人くんをどう説得して諦めてもらうか考えてしまうが気になることがひとつだけ。

「ちなみにミサキさんが魔法少女だって、何で知ったの?」

「夕食の席で魔法少女に就職して各地の温泉地巡ってくるって言ってました」

ミサキさーーーん!!!魔法少女って身内にも正体を秘密にしなきゃいけないんじゃないんですか!?

私が心の中で突っ込みを入れているとキュートさんは「まぁ、別に秘密にしてないけどね!正体とか!基地とか!なんなら案内所の横に魔法少女饅頭とか土産物も売ってるしね」

そういやあったな、そんなもん…。

魔法少女、秘密じゃなかったんか…。

いやでも普通に恥ずかしくない?みんななんでそんなにオープンなの?

むしろ私がおかしいの?

いやでも直人くんのやる気があっても、やっぱりボスが昼間からパチンコに行ってるような職場で働かせたらご家族になんと言われるか…!




「とにかく、君はまだ汚れちゃならない。青春を大切にしなさい」

「それは、僕がまだ未成年だからですか?」

17歳という若人の真摯な瞳に負けそうになる。

「でも僕は!愛する兄さんを助けたいんです!あわよくば魔法少女として活躍しているところを間近で観察したい!!写真に収めたい!!魔法少女姿の抱き枕がほしい!!!」

「アウトーーーーー!!!」

ダメなブラコンだこの子!!

余計に魔法少女の人選が悪くなると必死に追い出そうとするも後ろから要らない援護射撃が入る。

「いいや!魔法少女に年齢性別種族性癖は関係ないよ!」

「キューーートさん!!!」

思わずエルボーをキメてしまった。

年齢性別種族はもう諦めたけど性癖は頑張って魔法少女から論外にしてほしい。

自由すぎる。魔法少女。




ハッスルしすぎた直人くんと私を落ち着かせるためにお茶を改めて用意した。

直人くん…まともないいこだと思ったのにな…。ワンオペ魔法少女を任せるのに躊躇いがなくなってしまった。

「お兄さんがとても大切なんだね」

私には兄弟はいないけど、兄弟愛って素晴らしいな。

「はい!将来の夢は兄さんの人生を一生涯支えることです!」

「アウトーーーーー!!!それはちょっと兄弟愛の範囲を越えてるかなー!?」

アウトが多い!!!

やはり魔法少女を志願してくる子にろくな子はいなかった。

ミサキさんなら温泉与えておけば勝手に幸せになるだろうから温泉の元でもプレゼントしておけ。




直人くんにワンオペ魔法少女を任せても罪悪感がなくなったところで都合よく警報音が鳴り響いた。

敵の悪エイリアンの出現だ。

「直人くん!今から悪エイリアンを倒しに行くよ!初出勤だよ!大丈夫?」

「大丈夫です!いつでも兄さんと一緒になれるように魔法少女になったあとの妄想を繰り広げていました!」

「うん!心強いね!行こっか!」

もう気にしたらだめだ。ブラコンは。

今日も今日とて現場までダッシュした。

直人くんの方が断然早かった…これが歳の差………うっ、苦しい…。

考えないようにしてたのに…。

新人入ったし早く魔法少女辞めたい。




ゼーゼー言いながら現場につくと直人くんが律儀に待っていてくれた。

同じく遅く来たキュートさんが直人くんに毎度お馴染みゴテゴテの変身ステッキを渡す。

「さあ!これで三崎直人くんも魔法少女だ!」

「僕が…魔法少女に…!」

やっぱり不安がありつつも早く新人に仕事を覚えてもらって辞めたい私は指導する。

「何か気合いを入れる掛け声で変身した方がやる気出るよ」

先輩としてアドバイスしながら自身も魔法少女に変身してみせた。

「なるほど…頑張ってやってみます!」

緊張しながらも直人くんはゴテゴテのステッキを天に掲げて叫んだ。

「兄さん!大好きーーー!!」

「それはちょっとよろしくないかな!?」

とはいっても変身はする。

だって魔法少女だもん。不思議パワーというやつさ。




地毛より明るくなったオレンジ寄りの金髪なツインテールとオレンジの瞳にヒラヒラは抑え気味ながらのオレンジのミニというよりミニすぎない程よいタイトスカートにニーハイで足首丈のチャームが着いたブーツ姿の美少女が目の前に居た。

黄色というよりオレンジ枠の魔法少女か…。


正直私より可愛くて悔しい。

もしかしてミサキさんも変身したら超美少女になるんだろうか。

元がいいからな、この家系…。悔しい…!!女なのに男の子に美少女魔法少女の外見として負けるの悔しい!!




私が地団駄踏んでると直人くんが躊躇いがちにスマホを差し出してきた。

「申し訳ありませんが、兄さんに送りたいので写真を撮ってもらってもいいですか?」

「えっ、大丈夫?ミサキさん卒倒しない?」

少なくとも私は私を慕ってくれる弟が居たなら、そしてそんな弟が自分に憧れて魔法少女になったら卒倒する。


ノリノリでポーズをキメる姿を写真に納めてスマホを返す。

「いいね!直人くん!かわいいよ!別角度でもう一枚いってみようか!」

なんてこちらもノリノリで撮影会してしまった。

いやもう…なんでもいいや!

余所のご家庭に口出すの、良くないよね!

決して投げやりではなくてね!ご本人達が納得してるなら、いいよ!




「そんなことしてないで早く悪のエイリアンを倒してよ!」

そうだった!忘れてた!

「この変身ステッキが鈍器になっていい感じだけど、想いに反応してエネルギーとして攻撃も出来るよ!」

「えっ、魔法少女の変身ステッキを鈍器として扱うんですか…?」

危ない女を見る目をしてるけど、お前の兄に対する想いの方が絶対やべーからな。

なんていうのは大人なので黙っておいた。

「でも、想いに反応するなら僕の兄さんへの想いは誰にも負けません!」

「うんうん、その意気だよー!さあ、その想いを敵エイリアンにぶつけるんだ!」

突っ込んでいたらいつまでも倒せないので黙っておく。

直人くんはステッキにエネルギーを込めて敵エイリアンに撃ち放った。

「入浴前のウキウキしている兄さんも、入浴後のしっとり兄さんもすきだーーー!!!」

「スリーアウトチェンジ!!!!!」

私の叫びは直人くんの異様なエネルギー波の音に書き消された。

敵エイリアンは無事消滅した。

私の心に多大な疲労を残して。




こうして、魔法少女としての後輩が出来た。

ミサキさんの反応は分からない。

私は転職活動頑張るから各自で好きにやってくれ…

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