第5話 履歴書の書き損じって自分のミスだけどムカツクよね

書類選考、それは就活への第一歩である。

今までの自分の経歴や資格を書き記し、己がどういう人生を歩んできたか紙切れ一枚に凝縮し企業に提出するのだ。

たかが紙切れ。

されど紙切れ。

この書類選考で落とされるのは、自分の人生を否定されるようでとてもつらい。

面接で落とされても実技試験で落とされてもつらいけど。


そして、この書類選考のための履歴書または職務経歴書、自分で書いておいて書き損じるとムカツクところがある。




「あー!またミスった…。今日はダメな日だな…」

「どうしたんだい?山田真理亜くん。溜まった報告書が進まないのかい?」

「ミサキさんと一緒にしないでくださいよ。私、これでも期日内にしっかり納める女なので報告書は大丈夫!でも履歴書の書き損じが今日は多くて…。なんで自筆じゃなきゃだめとかって会社が未だにあるの?もうテンプレ作ってメールで送信でいいじゃん」

ぶつくさ言いながら書き損じた履歴書はあとでシュレッダーにかけようと横に置いておく。

先日ミサキさんに業務外のことはプライベートタイムにやれと思ったけど、敵が出るまでやることなくて暇なんだよね。

ごめんね、ミサキさん。




「山田真理亜くん!君はまさか転職をしたいと考えているのかい!?」

「箱根から熱海温泉に行ったミサキさんとピーマン撲滅のために各地を巡ってて帰ってこないアキさんをなんとかしてくれたら考え直します」


ワンオペ魔法少女きつい。


すべての仕事を私にさせるの、以前いたブラック会社と変わらない。

いや、会社自体はホワイトだし上司がイケオジだしキュートさんは名前の通りかわいいし同僚のミサキさんは三度見するくらいイケメンだけどみんな言動に難がありすぎる。


「それは困ったな。好きなときに経費で温泉に自由に巡っていいよっていうのがミサキくんとの契約内容だからね…」

「もうそれ魔法少女として活動しなくていいってことじゃないですか!?」

「あっ!」

「あっ!じゃねー!」

「道理でミサキくんが魔法少女になったことないわけだ…。ずっと各地の温泉に行っていたから…」

「しかも魔法少女として働いてないんですか!?アキさんは!?ピーマン撲滅活動以外に魔法少女したことありますよね!?」

「アキくんがピーマン撲滅のため以外に活動しているところを見たことがないな!」

「もう二人とも魔法少女やめちまえ!!!」

キュートさんが胸を張って言ってくれたからボディブローが華麗にキマった。

まじで私以外の魔法少女が辞めてきた理由が良く分かった…。

職場環境が悪すぎる…!

今まで真面目に働いてきた魔法少女の苦難を思うと目から涙が出てしまう。




悪エイリアンを退治することが仕事だから悪エイリアンが出現するまでは魔法少女の基地内で待機で何をしていてもいいという怠惰な生活にも慣れてきてしまうのも怖い。

真面目な私はちゃんと働きたい。事務員さんに事務の仕事をちょっと回して貰ってやっているくらいだ。

そして職務経歴書に事務員をしていたと書くのだ。

前職が魔法少女はさすがに書きたくない。


でも魔法少女って、何歳まで出来るのかな…。

35歳でも男でもエイリアンでも出来るけど定年くらいあるだろう。

…定年聞いてなかったな。

「キュートさん。魔法少女に定年ってあるの?」

キュートさんはお茶請けのお菓子を無限に食べていた。

「魔法少女…それは永遠の存在…つまり定年なんてないよ!」

「無期雇用!!!?嫌ですよ!?75歳魔法少女とか!!!」

定年すらなかった!!!退職金もないのかもしかして!説明の時そこ聞いてなかったなー!

「大丈夫だよ!35歳山田真理亜くんだってかわいい美少女小中学生に変身出来ているんだ!75歳のおじいさんだってかわいい美少女小中学生に変身出来る!多分!」

「多分?」

「さすがに75歳を魔法少女にスカウトしたことないよ!」

キュートさんが指を親指を立ててキラーンと輝かせてみせた。

「あっ、ですよねー」

さすがに75歳で魔法少女として変身して悪エイリアンと戦わせるのは酷すぎる。

「ちなみに最高齢は山田真理亜くんの35歳だよ!」

「やかましいわ!!!!」

今日も今日とてキュートさんを締め上げてしまった。

キュートさん、いつも一言どころか多言がひどいんだよな。




「さて、キュートさんと戯れてリフレッシュしたし履歴書の続きでも書くかー」

肩を回してデスクの履歴書と向き合う。

今度こそ、ちゃんとしたまともな会社に雇われますようにと願いを込めて一文字づつ丁寧に書く。

そんな私の周りをキュートさんが阻止するかのように飛び回る。


「山田真理亜くん!なんでそんなに辞めたいんだい?なんだかんだで上手くやって来ただろう?悪エイリアンも就活への怨みから無事に退治してきただろう?」

「そう…また就活しなきゃと思うとめちゃくちゃ気が重いけど、ここの人間関係よりはましかなって…思ったんです…」

前のブラック企業は会社がブラックなだけで逆に人間関係は一致団結していた気がする。

「それは困ったな。優秀な人格者のボスやエイリアンは他の部署に回されてしまっていて僕達しかいないんだ!」

「悪エイリアンと戦う魔法少女の部署以上に必要な部署あります!?」

いや、あるかもしれないけどさぁ!政府や他エイリアン組織との折衷役とか!色々!

でも現場のことも考えてほしいな!!


「………ああ、もう!また漢字を間違えた!キュートさんのせいですよ!」

「そうやって人のせいにするのが山田真理亜くんの悪いところだと思うな!」

「まあ、確かに私のせいですけどね!キュートさんは存在自体が私の中で存在が悪です!でも履歴書とか職務経歴書って自分で書いておいて書き損じるとムカつきますよね。自分でやったことなのに」

シュレッダー用の山に書き損じた履歴書を置く。

「もう今日はダメな日なので履歴書は明日書こ…」

「そもそも転職しないでくれたまえ!君がいなくなったら戦える魔法少女がいなくなってしまう!」

キュートさんが懇願してくるが、自業自得だから同情できない。

「新しい魔法少女…スカウトします?」

そしたら私もワンオペ魔法少女で追い詰められずにすむ。

「なるほど!その手があった!性格がひん曲がった35歳より若くて可愛くて素直な子をスカウトしよう!」

「うるっせーーーーー!!!!!でも新しい子が入ってくれるととても助かるのでスカウトは私も同行してまともに働いてくれる子を選ばせていただきます!!!」

キュートさんを締め上げて新しい魔法少女をスカウトする方針を固めると、定時になったので帰り支度をし始めた。




翌日。

スカウト活動の前に再度大量購入した履歴書を鞄に入れて出勤した。

「おはようございまーす」

言いながら履歴書をデスクに広げて書き進める。

今日こそ書き損じない!

しかし、こうして整理して書くと私の人生って薄いよな…。

大学を出てから良かった会社なのに若いからもっと何か出来る!なんて無責任な考えで辞めてしまって職が決まらず、なんとか職に就けても問題が山ほどあって自分に納得できる職場に辿り着けなかった。

今も魔法少女なんてちょっと変わった職種に就いてしまったが、人間関係に難有りだし…。

…そういえば、新しい子をスカウトしても私が辞めたら今度はその子がワンオペ魔法少女になっちゃうんだよな…。

申し訳ないな…。まだ転職先決まってないけど。




今日は考え事しながらも書き進められた。

腕を天に向かって伸ばしストレッチをする。

そろそろキュートさんとスカウトに関して話し合いでもするか…。

そういえばボスって昨日から見掛けないけどどうしたんだろう?

またもお茶請けのお菓子を無限に食べていたキュートさんに話し掛けた。

「キュートさん。スカウトの話の前にボスって昨日から居なくない?どこか出張?」

「パチンコへ行ってるよ!」

「本当に人間とエイリアンがろくでもない会社だな!!!!」

ごめん!まだ見ぬ新たな魔法少女!!

スカウト成功しても私は退職します!

恨むならダメな上司とキュート系エイリアンと同僚を怨んで!!




私が怒りのあまり無表情で書き損じた履歴書や職務経歴書、不要な書類をシュレッダーにかけていると警報音が鳴り響いた。

よしきた!今日の私は最高にイライラしてるぞ!

現場までのダッシュも今日は不満すらない。

むしろ早く合法的に敵をボコりたいとすら思っていた。




ゴテゴテのかわいいステッキで恒例の「魔法少女のこんちきしょーーー!!」という掛け声で変身し「魔法少女のリア!華麗に見参!」と決めポーズをした。

もう恥じらいとかは荒川に捨てた。


いつものようにステッキでぶん殴りながら戦っていたけど、なんだか今日はそれ以上のことが出来そうな気がする!

力が溢れてくる!

私はその力を感じるまま敵にぶつけた。


「書き損じ履歴書・職務経歴書カッター!!」


私の魔力を込めて想像上の書き損じた履歴書と職務経歴書を出しカッターのようにて敵を切り刻んだ。


我ながらしょうもない技を編み出してしまった…。

でも最近のイライラもスッキリ出来て良かった!


正体がバレないように路地裏に赴き変身を解除して会社に戻る。




この時の私は知らなかったのだ。


変身するところからすべて見られていて、魔法少女の秘密が一人の人間にモロバレしていたなんて…。


いやまあ、私が恥ずかしいだけで魔法少女の存在自体は秘密でもなんでもないんだけど。

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