2-13 騎士団長マカロンと俺の彼女(かもしれない人達)

「騎士団長殿、我ら重戦士四天王、冒険のお迎えに上がりました」

「うむ……」


「騎士団長」は頷いた。


「して今日の目的は」

「今日は難敵ですぞ。横丁の駄菓子屋を狙う、野良猫一味です」

「それに地蜘蛛の巣もたくさんあります」

「わあ……地蜘蛛、おいしいよね。こう……巣を地面から引っ張り出してぱくつくと」

「いえ……騎士団長殿、地蜘蛛はおやつでは……」

「野良猫を追い払えば、駄菓子屋から褒美の上納品、すこんぶがもらえます」

「なに、それを早く言ってよっ!」


「騎士団長」ことマカロンが、俺を振り返った。ビーチのプライベートカヴァーン。俺とノエル、タルト王女とティラミスがごろごろしている。あーもちろん、プティンもな。プティンは身バレしたから、もう隠れてない。俺の胸の上で昼寝してるわ。


「ねえパパ、冒険に行ってもいい。悪者退治だよっ」

「ああ、行ってこい」

「楽しんでらっしゃい」

「うんママ。よーしみんな、行っくよーっ」

「わーい」

「わーい」


 なんやら知らんが、四天王とかいう五歳くらいのガキ五人と、マカロンは駆けて行ってしまった。てか四天王なのに五人かよ。それに重戦士とかいうけど、鎧や剣どころか、全員ボロ服で腰の帯に木の枝を差してるだけだけどな。


「ふふっ、楽しそうね」


 傍らのテーブルから冷えた香茶グラスを取り上げると、ノエルが喉を潤した。


「ここ南国リゾートだから、ビーチは汗かくわね。お茶がおいしいわ」

「まあなー」


 もちろん全員、水着姿。かわいい女子に取り囲まれて、俺は幸せだ。


「にしてもマカロンちゃん、モテモテですね、ブッシュ様」


 タルト王女が、くすくす笑う。


「サメ退治が広まったしなー」


 子供なのに凶悪モンスターをやっつけたというので、マカロンは一躍注目を浴びた。リゾートの子供連中からも。なのでなんだか知らないが取り巻きがたくさんできて毎日、四天王だとか近衛兵団、謎の忍者集団とかなんとか、そういう自称ガキがとっかえひっかえ、マカロンを遊びに誘いに来る。


 平和なリゾートだし、ごっこ遊びも将来のパーティー運営の訓練になるだろうから、俺は大歓迎だ。それにマカロンにも、子供時代の遊びはたくさん経験させたかったしな。ホームレス時代は汚いし臭いしで、友達なんかできるはずもなかったはずだし。……ついでに俺は俺で、かわいい女子三人+妖精と、オトナのリゾートライフを楽しめるってわけよ。


 一石二鳥どころか一石百鳥くらいの感じだわ。


「ブッシュ様……」


 水着姿のタルト王女が、俺の頭を腿に乗せてくれた。


「よしよししてあげますね」


 頭を撫でてくれる。


「いいですね、姫様。……それなら私も」


 俺の隣に横になると、ノエルがくっついてきた。


「少しお昼寝しようかしら。朝のお酒が残っててふわふわするし」


 すがるように、俺の胸に手を置く。柔らかな胸が脇に密着し、心地よい。ノエル、年頃の女子らしく、いい香りするしな。


「あの……ブッシュパパ……」


 足元に女の子座りして、ティラミスがもじもじしている。


「おいでティラミス、少し寝よう」

「は、はい……あっ」


 手を引いて、俺の上に乗せてやった。落ちないように、体に手を回して。水着を通して、ティラミスの鼓動が感じられる。


「ブッシュ……パ……パ」


 うっとりと、ティラミスが瞳を閉じた。


 ティラミス、女神権現なのに、随分人間らしくなったな。もう、十五歳の大人しい女の子……くらいの反応に変わったから。


 俺も少し眠くなってきた。目を閉じ、ティラミスとノエルの体を感じながら、ゆっくりとティラミスを撫でてやる。タルト王女は面白がって、俺の髪をくりくり巻いている。あーちなみにプティンもティラミス同様、俺に乗っかって寝てるぞ。


「……ブッシュ」


 顔を起こすと、ノエルが唇を近づけてきた。


「……ん」

「……」

「……は……あ」

「よしよし」


 ノエルも抱き寄せてやった。からかうように背中を撫でていると、気持ちよさそうに瞳を閉じる。


「ブッシュ……様」


 体を倒すと、姫様も俺の唇を求めてきた。


「ん……」

「……」

「……好き」

「……」

「お慕い申し上げて……おります」

「私も……んっ」

「ん」

「ん……はあ」


 ふたりのキスを代わる代わる受ける。ふと気づくと、ティラミスが胸から俺を見上げていた。


「ブッシュ……パパ……」


 瞳が潤んでいる。まさかな……と思ったが、頭を撫でると、体を伸ばしてきた。


「パパ……」


 遠慮がちに、唇が重なった。唇で促したが、開きはしない。子供のようなキスだ。


「……」

「……」

「……あ」


 長いキスが終わり、唇が離れた。ぽつりと胸になにかが落ちた。ティラミスの涙だった。


「よしよし」


 また頭を撫でてやった。幸せそうな顔で、ティラミスが俺の胸に唇を寄せてくる。


「よしよし」


 撫でてやりながらまた、姫様やノエルともキスを交わした。


 なんだろな。俺達、ダンジョンで同志愛を育んできたが、それが次第に恋愛に発展しつつあるのかもしれん。まさか、神体であるティラミスまでそうなるとは思わなかったが。


 でもティラミス、俺の側にいると影響を受けて、人間化の過程で失われた神通力が、次第に蘇りつつあると教えてくれた。もしかしたら人間としての感情や愛情も、俺の側にいることで発達しつつあるのかもしれない。


 いずれにしろ「母親」が感情を持つのは、マカロンの成長にもいいことだ。俺と母親が仲が良ければ、精神だって安定するはず。マカロンはいずれ主人公として、厳しい戦いの日々を過ごす身。そのとき、子供時代の幸せな記憶があれば、辛さに耐える力だって生まれるはず。俺はそう判断していた。


「……」


 きらびやかな南国リゾートで、みんな開放的になってるのかもな。


「……」


 もしかしたら俺、三人に対し、もっと踏み込んでもいいのかもしれない。今はこうして子供のようにキスしているだけだが、ひとりずつ寝台に誘うとか……。


 俺、前世社畜時代は女子とそういう経験をしたことは皆無。転生のごほうびといて、そのくらいは味わってもいいのかも。実際三人とも、かなりかわいい。それに俺のことを好きでいてくれる。よく考えたらそこに、なんの障壁もない気だってする。


 これまではマカロン育成第一だったからあまりその手のことは意識していなかったが、マカロンの教育に悪影響が出ないなら、他の娘の幸せに応えてやってもいいのかも……。


「……」


 俺は体を起こした。


「ブッシュパパ」


 ティラミスが俺の体を抱いてくる。


「パパ……」


 訴えるような瞳で見上げてくる。ノエルと姫様は、俺達を見ている。もしかしたら、「次は自分」とか考えているのかも……。


「……」


 ティラミスは瞳を閉じた。俺の首に腕を回し、伸びをして……。


「パパーっ!」


 どたどたと、マカロンの足音が響いた。


「見て見て、ほらっ!」


 飛ぶようにカヴァーンに飛び込んでくると、握っていた手を開く。中に何匹もの蜘蛛が蠢いていた。


「地蜘蛛、大量だよ。ねえ食べる? ねえねえ、パパ」

「なんか微妙にプティンの口癖移ってるぞ、マカロン」

「この子達は、自然に返してあげましょうね」


 ティラミスは、一瞬にしてママの顔に戻っていた。マカロンからそっと蜘蛛を受け取ると、木の根元に放つ。


「マカロンのおやつはほら、ここにありますよ。パパの分もね」


 テーブルのバスケットを取り上げる。中にはたくさん、クッキーやフルーツが入っている。例のリゾートマネジャー、ショーン・ウォルシュの心遣いだ。


「じゃああたし、クッキー食べるー」


 がっつり握り込むと口に放り込み、もしゃもしゃ始めた。


「ママも食べて。ノエルさんや姫様、それにプティンも」

「はいはい」

「わあ、ありがとう」

「優しいのですね、マカロンちゃん」


 なんとなく微妙に大人びていたこの場。それを一瞬にして健全に引き戻すこの力。恐るべしマカロン。


 俺は舌を巻いたよ。ちょっとだけ残念な気持ちを押し隠しながら。


「じゃあパパももらおうかな」

「はい。パパは特別に蜘蛛トッピングの奴」

「いや突き出されても……」


 てかまだ一匹、隠し持っていたのか。蜘蛛クッキーを受け取ると、食べるふりして蜘蛛だけそっと砂浜に落としてやった。


 とっとと逃げていった蜘蛛が一瞬、俺に礼をするような動きをした。


 まあいい夏の日だってことさ。

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「パパ活」モブの下剋上 ――ゲーム世界転生直後に追放され、異世界でも最底辺に転落した俺。勇者に成長する孤児を拾うと、美少女ママがもれなく付いてきた。王女や聖女にも頼られ神速で成り上がり、ざまぁ満喫する 猫目少将 @nekodetty

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