2-12 凱旋!

「戻ってきたぞーっ!」


 船が港に入る前から、ハーバーの大騒ぎが遠目でもわかった。


 人また人、漁船の入る小さな港、それに桟橋までごった返している。風体からして、漁師やリゾート関係者がほとんど。豪奢な身なりでお連れを引き連れた一行は、ここイビザンの為政者かなんかだろう。


 押すな押すなと桟橋で喧嘩していた連中が何人か海に落ちたが、水音すら聞こえない。それくらい歓声に包まれている。


「凄いねー、パパ」

「そうだな、マカロン」


 船縁に立ったマカロンに、みんなが手を振っている。体ごとぶんぶん振るようにして、マカロンもそれに応えている。


「でも、なんでわかったのかしら。私達が成功したって」


 ノエルは首を傾げている。


「この船には、魔導通信装置も無いわよね」

「これっすよ、ノエルの姉貴」


 満面笑顔の船員が、操舵室の屋根を指差した。そこには大漁旗がはためいている。


「なるほど……」


 大漁旗はもちろん、漁労の大成功を誇るしるし。今回、俺達の船は漁に出たわけではない。アサイラム討伐の冒険船だ。それは誰もが知っている。なにしろこのリゾート都市の大問題だったからな。


 その船が大漁旗を掲げて凱旋したとなれば、理由は馬鹿でもわかる。灯台守が目敏く見つけ、皆に告げて回ったに違いないとのことだった。


 船員がもやい綱を投げると、桟橋の男どもが我先にと奪い合う。足の踏み場もない桟橋にどう下りるんだと疑問だったが、悩むまでもなかった。いくら場所を空けようとしても無理だと悟ったのか、何人も海に飛び込んでくれたから。


 さすがは海の男。良かれ悪しかれダイナミックで男らしい。すっかり舌を巻いたよ。


 俺達が桟橋に立つと、群衆から大歓声と拍手が湧いた。


「見ろよ。これが救世主様だ」

「てか、子供がふたりもおるぞ」

「子連れ狼じゃ」

「というか、男はたったひとりではないか」

「あとはなまらめんこい嫁がふたり、それに子供ふたりか」

「なんでも旅の一家と家庭教師という話じゃ」


 そう偽装してるからな。妖精プティンは隠してあるし。子供ふたりってのは、マカロンとティラミスのことだろ。実際はティラミスがマカロンの母親(役)で俺の嫁(マカロンの父親役だからな俺が)と知ったら、腰抜かすだろうけど。


 いずれにしろ、俺達が実力者だと、ショーンとかいうリゾートマネジャーには冒険者とバレたわけだが。


「ありがとうございますっ!」


 そのマネジャーが、滑り込むように飛び込んできた


「ブッシュ様には頭も上がりませんっ」


 俺の手を掴むと、上下にぶんぶん振りまくる。


「あんな子連れで戦えるんか……」


 野次馬はまだ信じられないようだ。


「バカチンがっ」


 船員のひとりが、そいつの頭をはたいた。


「あの子……マカロン様はな、とんでもない冒険者だ。奇跡の剣使いだぞ。……なんせ父親とふたり、アサイラムの竜巻に飛び込んで、あのシャークモンスターを三枚に下ろしたからな」

「お前……夢でも見てたんか」

「ああ、夢だよ。そうとしか思えない神業だった」

「マジか……」


 想像限界を超えたのか、素の表情に戻っている。


「俺の息子と同じくらいの歳なのに。ウチの息子、バッタを追いかけるくらいしかできんぞ」

「バッタはあたしも大好きだよっ」


 マカロンが声を張り上げた。


「おいしいからね、バッタ。特にこう……頭の大きくない奴は。大きいのは頭が固いから、今ひとつだよ。だからこう……お腹をむしって食べるんだ」

「は、はあ……」


 さすがにドン引きされてるな、マカロン。


「いずれにしろ、ブッシュ様御一行は、このリゾートの大恩人です」


 マネジャーはまだ、俺の手を握ったままだ。


「どうぞご存分に滞在されて下さい。もちろん、宿代から飲食まで、全て無料です。あと……イビザンの首長が、ぜひとも今晩、ブッシュ様方と一緒に晩餐をと……」

「わかりました」


 俺は頷いた。どうせここでしばらく遊ぶつもりだった。ちょうどいいや。


「しばらく、この海洋都市でお世話になります」



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